●八幡ねじの会社概要と業績推移
●八幡ねじの会社概要と業績推移
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八幡ねじの物流センター。50件分まとめてピッキングした商品を自動仕分け機で顧客別に梱包。ピーク時には2台の仕分け機で対応していく
八幡ねじの物流センター。50件分まとめてピッキングした商品を自動仕分け機で顧客別に梱包。ピーク時には2台の仕分け機で対応していく
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8万点にも上る商品アイテムを即日配送する体制を整えた。自社の業務プロセスを変えてでも取引先の要望に対応する柔軟性もある。これらが全国ほとんどのホームセンターと取引できる理由だ。それを下支えするのが、情報システムとトヨタ生産方式にならった現場改善。取引先の細かな要望にも応えながら1日に10万件の受注をこなす。

 即日配送率99.8%、誤配率0.02%以下—。ねじメーカーである八幡(やはた)ねじ(愛知・西春町)の強さを示す数字である。「鉄は産業の米、ねじは産業の塩」といわれるほど、ねじは業種を問わず使われる。部品と部品を接合するねじは、製品の強度を保つうえで重要であり高い品質が問われる。

 八幡ねじは高品質に加えて、取引先が欲しいときに、欲しい量だけ届ける体制を構築し業績を伸ばしている。同社の取引先は東急ハンズ(東京・渋谷)やカーマといったホームセンターのほか、三菱電機などの組み立てメーカーにも納品している。8万点の商品アイテムを名古屋市内なら即日、県外でも17時までの注文なら翌日に届ける体制を築いている。

取引先の業務プロセスに合わせる

 ホームセンター向け事業は、ホームセンターの歴史とともに成長してきた。同社がホームセンター向けに出荷するようになったのは、1975年。当時は組み立てメーカーとの取引だけだったが、オイルショックの影響で売り上げが落ち込んだ。名古屋営業所の近くにホームセンターチェーンのカーマが第1号店を出店したことがきっかけで取引が始まった。日本DIY協会によると日本初のホームセンターは1972年に開店するなどまだ初期のころだった。それから全国各地でホームセンターの出店ラッシュとなり取引先が拡大していった。今では「ほとんどのホームセンターとお付き合いしている」(鈴木建吾社長)というように、全国約170社、3500店と取引する。

 3500店から注文が集中する月・火曜日には1日10万件、年間では1200万件の注文が舞い込んでくる。全国のホームセンターから支持されるのは即日配送体制に加えて、次々と突きつけられる取引先の厳しい要望も受け入れて、解決してきたからだ。「次々とかなえていくうちに、1社ずつライバルが消えていった」(鈴木社長)

 要望とは、ホームセンター各社が自社の業務プロセスに合わせるように八幡ねじに対して改善を求めるものだ。それらの改善は、ホームセンター全社共通ではなく、個別に対応しなければならない各社固有のものも多い。

 例えば、東急ハンズの渋谷店で金物用品売り場を担当する池田高博主任が要望したのが、納入時の梱包方法の変更である。渋谷店は20の陳列棚に3800種類の商品アイテムがある。膨大な段ボールで1週間に2回納品されるが、渋谷店の陳列棚の構成とは関係なくバラバラに梱包された状態で納品されていた。「開封するたびに陳列棚をあちこちと移動しながら品出しをしていたので業務効率が悪かった」(池田氏)

 そこで段ボールに梱包する単位を陳列棚ごとに変更してもらった。同じ東急ハンズでも渋谷店と池袋店では陳列方法が異なる。要望を聞いてもらうには、八幡ねじの業務プロセスを変更してもらわなければならない。初めは無理だと言われたが、何度かお願いすると受け入れてもらったという。

 こうした取引先の要望を吸い上げられるのは、八幡ねじの営業担当者が足繁く通っているからである。東急ハンズ渋谷店の池田氏のもとには週3回訪れる。「素材や用途など他社に比べて広く色々な情報をよく知っている。何でも相談できる」と池田氏は評する。よく相談することの1つに、品ぞろえがある。同じ「さら木ねじ」でも長さや太さにより約30種類あり、限られた棚に何を置けばよいのか決めかねることがある。

 ホームセンターの担当者もねじだけを担当しているのではないため、最新の販売動向に目を光らせているとは限らない。

 八幡ねじは全国のホームセンターと取引しているため販売情報を持っている。いま何が売れ筋なのかという情報を提供することで、発注の判断材料にしてもらう。バイヤーと頻繁にコミュニケーションすることで要望を吸い上げて解決し、信頼を得ている。