本連載第1回でも触れたが,今や会社や組織が独自ドメインを持つことは必須の時代だといえるだろう。これから起業しようという人は,会社名を考える際に,その名前のドメインが取得できるかどうかを常に考えるべきである。インターネット上で新たなサービスを始める場合も同じで,通常のマーケティング活動と同じように,どんなドメインを使うかには慎重な検討が必要である。



 ドメイン名を考えることは会社名や商品名を考えることに似ているが,会社名や商品名が商業区分ごとに分かれているのに対して,ドメインはそれほど細かい区分はない。日本人が「ドメイン」と認識するのは,まず.comや.co.jp,.jpなどであり,かなり差があるものの.netや.ne.jpなどがこれに続く。第1回にも書いた通り「空いているから」という理由で,ほかのTLDを選択することはビジネスを進める障害になりかねない。選択肢はあまりないのである。

よいドメインとは

 商品名について考えてみると,例えば「写るんです」とか「初恋サンダル」のように商品に合わせて作り出した言葉もあれば,「ドリーム」のようにDVDレコーダーとしても,ネットワーク・サービスとしても使われているような汎用的な名称もある。

 高額商品である自動車のネーミングなどは,特に興味深い。2005年の販売ランキングの上位を見てみると,順に「カローラ(corolla)」「ヴィッツ(vitz)」「フィット(fit)」「ティーダ(tiida)」「ノート(note)」のようになっている。

 また,Webサイトのトラフィック(アクセス量)をランキングしているalexaによれば,日本のランキングの上位ドメインは次のようになっている(2006年3月24日現在)。

  1. yahoo.co.jp
  2. google.co.jp
  3. livedoor.com
  4. rakuten.co.jp
  5. mixi.jp
  6. dell.com
  7. goo.ne.jp
  8. msn.co.jp
  9. infoseek.co.jp
  10. amazon.co.jp

 単語や造語,略語といった違いはあるが,どれも「短くて覚えやすい」ものになっている。もし,amazonがOnlineBookStore.co.jpのようなサイト名だったら,これほど成功していなかったかもしれない。

 よいドメインの条件としては,「スペルミスしにくい」という点も重要だろう。例えば,安価なホスティング・サービスを提供しているロリポップは,英単語として正しい「lollipop」ではなく,「lolipop.jp」というドメイン名で運用されている。現在,lollipop.jpはロリポップの宣伝サイトとなっているが,日本人にとってロリポップという名称はつづりにくい単語だっただろう。スペルミス・ドメインは,当然取得もしやすいのだが,サイトを訪れようとする人が正しいスペルのドメインをアクセスしようとするかもしれない。個人サイトでもなければ,意図的に使うのは避けたいところだ。

単語,ローマ字,造語ドメイン

 一般的に,良い(価値ある)ドメインと評価されるのは,1つの英単語のドット・コム(.com)ドメインである。取引価格が公開されているもののランキングを毎週更新しているDN JournalのDomain Salesの2006年ランキングの上位を見てみると,On.com(63万5000ドル),Macau.com(55万ドル),Jasmin.com(31万250ドル),Brown.com(30万ドル),FlashGames.com(22万6950ドル)となっている(2006年3月24日現在)。

 ドメインはどんなものでもユニーク(単一)であるため,「これぞ」というものは代替が少なく,えてして取引価格も高額になりがちなのである。

 代替がないという点では,固有名詞ドメインも高額になりやすい。当然,汎用的な単語ドメインに比べれば,欲しい人は限られるのだが,その人にとっては代替のないものだからだ。

 例えば,「鈴木」さんにとって,takahashiドメインやyamadaドメインには意味がないが,suzukiドメインは代替できないものだ。スズキモータース(米国法人)が所有するsuzuki.comのような場合は,取得するチャンスはない。

 もし,付けたいサイト名が「OnlineBookStore」のようなものでよければ,このドメインが取れなくても「BookStoreOnline」や「WebBookStore」のような代替の名前が考えられる。すぐに思いつきそうな名前は,たいてい取得されているものだが,こうしたドメインは購入するにしてもさほど高額になることはない(値段が高ければほかの選択肢を考えるからだ)。また,会社組織で1つしか所有できない.co.jpや,日本人しか使わない.jpであれば取得は容易だろう。

 実際,ビジネスを日本だけで進めるのであれば.co.jpや.jpでもよいだろう。しかし,将来は世界を相手にしたいとか,インターネット上のサービスとして「ドット・コム」を強調したいということであれば,「.com」ドメインが好ましい。また,kakaku.comやrakuten.co.jp(rakuten.com)のようにローマ字ドメインを使っているケースも少なくない。

 もう1つの選択肢は造語である。ご存知の方も多いだろうが,検索サービスとして成功したgoogleは,10の100乗を表す“googol”という単語にちなんだ造語であるし,goo.ne.jpも響きのよい字面として付けられたものである。ビデオ配信で急成長しているgyao.jpや運営者のUSEN,インターネット・サービス・プロバイダのbiglobeなども造語である。

 つまり,造語ドメインであっても,提供するサービス次第では成長するチャンスがある。最初に「会社や組織にとって,独自ドメインを持つことは必須の時代」と書いたが,必ずしも単語ドメインのような汎用的な良質ドメインにこだわる必要はない。もちろん,ビジネスを遂行するためのマーケティング要素の1つとして「良質ドメイン」を考えることはできるだろうし,その方がマーケティング効果を高められる場合もある。

マーケティング活動とドメイン名

 最近では,広告の一部にURLが掲載されるのを見ることも珍しくなくなった。今では,ほとんどの場合に独自ドメインが使われていて,「http://www.nifty.com/~companyname/」などのURLが使われることは少ない。広告では伝えられない製品やサービスの詳細を,Webサイトを使って提供したり,あるいは顧客との関係作りを行うためにも,独自ドメインは有効なのである。

 一般的なマーケティング活動を考えると,例えば広告を出す費用というのは,それなりにお金がかかるものだ。雑誌,新聞,テレビと考えていくと,数百万円~億単位の広告費が必要なことも珍しくない。ただ,こうした宣伝費をかけるものでも,ドメイン名への配慮が不足しているケースが散見される。

 例えば,ソニー銀行のブランドである「Moneykit」はmoneykit.netというドメインで運営されている。たしかに「ネットワーク上の銀行サービス」なのだから.netでよいのかもしれないが,既に.comが取得されていたから.netを使ったのが実情ではないかと推測される。日本人は比較的.netが好きだという傾向は見られるものの,.co.jpや.comほどポピュラーなTLDではない。少なくとも私の携帯電話機では,.co.jp,.ne.jp,.comは短縮入力できるが,.netはできない。

 当時からmoneykit.comドメインは取得されているだけで全く利用されていなかった。ソニー銀行がmoneykit.netを開始した後,moneykit.comはアフィリエイト・サイトとして構築されたりしたが,現在ではドメイン販売サイトに割り当てられている。推測の域を出ないが,当時ならリーズナブルな取引に応じてもらえたかもしれないドメインが,ブランドが確立された今となっては,moneykit.comの所有者に譲渡を申し出ても安く受けてはもらえないだろう(この場合,moneykit.comはブランド確立以前に登録されているので,不正取得を訴えることも難しい)。

 商品やサービスの名称を決める前なら,色々と選択肢はある。前回,高額で取引されたドメインについて紹介したが,すべてのドメインが高額で取引されるわけではない。afternic.comの最近の売買履歴から抜き出してみると,NetDoc.comは3500ドル,CasinoPyramid.comは200ドル,ComfortDiner.comは480ドル,GoReal.comは1000ドル,PerfectMove.comは265ドルといった具合で,それぞれのビジネスに合いそうな,あるいはキャッチ・フレーズとして使いやすいドメインが,広告費用に比べれば,はるかに低い価格で取引されている。こうしたドメインを確保してから,そのサービスを広告展開すればよい。

 名称が決まっている場合でも,チャンスはゼロではない。関連する名前のドメイン所有者に連絡を取ってみればよいのだ。所有者が,そのドメインを必要としなくなっているかもしれないし,ドメインを売りたがっているかもしれない。何かの理由で,既に管理が放棄されているかもしれない。

 例えば,最近ではkose.comというドメインが元所有者から破棄された。その後ドロップ・キャッチと呼ばれるシステムによって,現所有者が取得した。そのときの費用は約2000ドルである(このドメインは売りに出されている)。化粧品会社のコーセーが,このドメインの状態を事前に把握していれば,極めてリーズナブルな価格で入手できたであろう。次回は,こうしたドメイン取引や取得の方法などについて紹介しようと思う。

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