写真1 米IntelのBenson Inkley氏
写真1 米IntelのBenson Inkley氏
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 インテルが開催した技術展示会「インテル・デベロッパー・フォーラム Japan 2006」(IDF Japan 2006)の2日目の技術講演,記者は講演内容とは別のことに心を奪われた。次世代CPUのアーキテクチャ・デザイン「Core」について講演した米IntelのBenson Inkley氏は,記者が知る限りプレゼンテーションが最も上手いビジネスパーソンの1人であるということに。

 実は,これまで記者が世界中で最もプレゼンが上手いビジネスパーソンだと確信していたのは,昨年のIDF Japan 2005で基調講演を担当したAbhi Y.Talwalkar氏 である。当時は米Intel副社長兼デジタル・エンタープライズ事業本部長という肩書を持ち,現在は米LSI Logic社長兼CEO(最高経営責任者)の職に就いている。昨年のIDF Japan 2005でTalwalkar氏の講演を目の当たりにした記者は,プレゼンとは何なのか,ということを考えさせられた。

 目を瞑ると,Talwalkar氏の姿が今でも思い起こされる。広い壇上を縦横無尽に使い,ゆっくりと歩き,要所要所で立ち止まる。スタイルの良さと高級なスーツ,自信溢れる身のこなし。そのすべてがファッション・モデル並みに洗練されていた。当時41歳の氏が米LSI Logicに迎え入れられたのも頷ける。ビジネスパーソンの究極の完成形が,確かにIDF Japan 2005の会場,そこにあったのだ。

 そして1年後のIDF Japan 2006。Coreアーキテクチャの技術講演を見た記者は,久しぶりの衝撃に襲われることとなった。Benson Inkley氏もまた,Talwalkar氏と同様に,類稀なるプレゼンの達人だったのだ。2人はプレゼンのタイプが若干異なるものの,壇上をゆっくり歩きながら話し,重要な部分でポーズを決めるという基本的なスタイルは共通している。

 技術講演での氏を写した1枚が,写真1 である。なかなかこう決められるビジネスパーソンはいない。とにかく1つ1つの動きのすべてに意味があり,様になっている。ルックスとスーツが良いのに加え,表情の作り方,神経を指先にまで行き渡らせた身振り手振りの前で,記者はただ「格好いい」と驚嘆するより他はなかったのである。

 さて,ビジネスパーソンにとってプレゼンは作法であると記者は思う。プレゼンの上手さが企業に品格を与え,ブランドを形成する。コスチューム・プレイと間違えるかのような完璧なスーツ姿を前にして,多くのビジネスパーソンは,そこにコミットメント(約束)と強大な力(パワー)を感じ取ることだろう。

 これは憶測だが,米国の大手企業で人前に出る必要のある経営層や管理職には,専属のスタイリストや演出家が付いているのではないだろうか。少なくとも,常時,自分を良く見せるための研究に余念がないと思う。話し方の特訓や発声練習に始まり,足の運びと連動した手の動きなど,1つ1つの“使える”方法論を開発しているのだと思う。

 日本企業のビジネスパーソンが,これと同じレベルのプレゼンをするのは一朝一夕では難しいと思う。しかし,プレゼンを上達させるためのこうした地道な取り組みも,ビジネスで成功するためには不可欠なことだと改めて感じた。