アパレルや雑貨の問屋サービスサイト「オンライン激安問屋」「スーパーデリバリー」を運営するラクーン(東京都中央区)は,営業担当者の取引先情報を共有できていないことに悩んでいた。担当者が外出してしまうと,問い合わせがあっても,すぐには対応できない。取引先からは「サブ担当者を置いてほしい」などの声が寄せられていた。そこでラクーンではWebインタフェースで情報を閲覧できるASP方式のデータベース「サイボウズ デジエ」を導入。情報共有を進め,顧客満足度の向上につなげている。

 今回はラクーンの業務展開と,その過程で生まれた課題について紹介する。

ラクーンが運営する「オンライン激安問屋」
会社名株式会社ラクーン
主要事業eマーケットプレイスによるアパレル・雑貨の卸売り
所在地東京都中央区
創業1993年
売上高12億4765万4000円(2005年4月期)
社長小方 功
従業員数役員・社員43人,アルバイト55人(2006年1月末)
ホームページhttp://www.raccoon.ne.jp/
company/index.html


BtoB電子商取引サイトで急速に拡大

 ラクーンでは2つのBtoB(企業間)電子商取引サイトを運営している。その1つは1998年8月に開始した「オンライン激安問屋」だ。メーカーの過剰在庫を引き受け,それを会員である小売店にインターネット経由で販売する。取り扱う商品はアパレルと雑貨が中心だ。

 もともとが過剰在庫なので,一般的な仕入価格より大幅に安い。しかも,商品はラクーンが倉庫に収めた上でいったん検品するため,一定の品質が保証されている。小売店にとっては,顧客の目を引く格安目玉商品が仕入れられることになる。

 地方にある中小規模の小売店にとって,遠方の問屋にわざわざ出向かなくて済むため交通費や時間を費やさなくていいことも魅力だ。会員の利用料は無料。現在はメーカー1800社が出店し,会員登録済みの小売店は3万2000店に上る。

 「オンライン激安問屋」のオープンからしばらく経つと,会員小売店から「定番商品も仕入れたい」という声が上がってきた。メーカーの過剰在庫だけでは仕入れが安定せず,目玉商品にはなっても売れ筋商品の確保にはつながらないためだ。


スーパーデリバリのホームページ

 そこで2002年2月にスタートしたのが,新製品や定番商品を取り扱う「スーパーデリバリー」だ。商品はメーカーから会員小売店に直送し,決済はラクーン経由という体制を取る。メーカーにとっては営業コストを抑え,小売店に対する与信リスクを回避できるというメリットがある。会員登録した小売店は月額2100円の利用料金を支払い,サイトに掲載される商品情報を参照して,ほしい商品を購入する。

 「スーパーデリバリー」に出店するメーカーは現在400社,会員の小売店は6000店まで伸びている。「スーパーデリバリ」が支持されている背景には,地方問屋の倒産が相次いでいることもある。地方に独自で営業マンを置けないメーカーにとって,地方問屋の消滅は販路縮小につながる。インターネットで出店できる「スーパーデリバリー」ならば,効果的な販路拡大が期待できるのだ。

 受発注管理や在庫管理のバックエンド・システムは,サイトを始めた直後こそパソコン用データベース・ソフトのMicrosoft Accessを使っていた。その後,2000年5月に本格的なシステムの構築をスタート。2000年夏までにLinuxサーバーとOracle製のデータベース・ソフトという組み合わせで受発注や在庫管理のシステムを開発し,フロントエンドのWebサーバーと連携する電子商取引サイトを構築した。システムはその後も,2002年の「スーパーデリバリー」スタートなどのタイミングに合わせて,機能拡張を繰り返している。


安定供給のためにメーカー担当者を配置

 ラクーンの2つのサイトの役割は,メーカーと小売店のマッチングをスムーズに行うことだ。特に「スーパーデリバリー」は小売店にとって重要な仕入れルートになるため,常に安定した商品情報を提供する必要がある。そこで,ラクーンは各メーカーに営業担当者を置き,出店企業の獲得,契約後のフォロー,各種入金管理,売上高向上のためのコンサルティングといったサポートを実施している。

 初めのうちは取引先のメーカー数が少なかったため,営業担当者の知識やノウハウの共有については,特に目立った取り組みを行っていなかった。朝の短いミーティングのあと,営業スタッフが1日の業務を日報形式にまとめ,社内のメーリング・リストに流していたぐらいだった。

 ただし「スーパーデリバリー」への出店メーカーが増えるにしたがって,ラクーンの営業担当者も増えていく。それに伴って,営業担当者の情報が共有されてないために発生する手間を無視できなくなってきた。


「成長にともない情報共有化の必要性が高まった」という粕谷事業戦略部長

 例えば,あるメーカーの営業担当者を交代させようとすると,前任者がそのメーカーとの取り引きの経緯を後任者に逐一教えなければならない。営業担当者の上司であるマネジャーが同行営業する際も,状況が把握できるまでは営業担当者へ適切なアドバイスができない。

 最も困るのは,営業担当者が不在の間にメーカーから問い合わせがあった時だ。状況は担当者しか把握していないので「折り返し連絡する」と答えるしかない。営業担当者は社外にいることが多いので,問い合わせにすぐ答えられないケースが多い。このため,取引先のメーカーからは「サブ担当者を置いてほしい」「コールセンターはないのか」といった声が寄せられていた。

 メーカー,小売店の登録数がある程度の数に達した2003年ごろから,ラクーンの成長のスピードは加速度的に上がっていた。こうなると「情報を共有化できていないことのマイナス面が次々と浮き彫りになっていった」(粕谷俊之取締役事業戦略部長)。ちょうどそのころ,Web経由で利用できるASP方式のデータベース「サイボウズ デヂエ」を無料で3ヵ月間試せるという話が,たまたま舞い込んできた。ラクーンでは早速,「デヂエ」で営業担当者の情報を共有化する試みに着手,2003年末に活用を開始した。

 次回は「デヂエ」の活用方法と導入による成果について解説する。

■基太村 明子 (きたむら あきこ)

【略歴】
 フリーランスライター。神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒業後,日本証券新聞社に入社。編集部記者として中小企業を中心に取材活動を進める。2000年にビジネススクールおよびコンサルティング業のコーチ・トゥエンティワンに入社し,広報担当として日本におけるコーチング普及に尽力。2003年には「日経情報ストラテジー」にてコーチングに関する連載を手がける。

 2004年より独立し,中小企業経営,コーチング,マネーなどに関する記事を執筆。講演や広報に関する研修にも注力している。現在「日経情報ストラテジー」「日経ベンチャー」「リアルシンプル」にて執筆中。日本ファイナンシャル・プランナーズ(FP)協会アフィリエイテッド ファイナンシャル プランナー(AFP)。