■IT戦略本部は、2006年1月19日に発表したIT新改革戦略において2010年度 中までにオンライン申請率50%を達成するという目標を掲げた。しかし、現在のところ電子申請利用率は1%にも満たない。それに対して1994年から電子申告を導入しているカナダ・ケベック州政府では、既に利用率40%を実現しているという(ただし電子申告は個人が対象。また、全員が申告義務がある)。どのようにして利用率の向上を図っているのか、その戦略や取り組みについて、2006年2月に来日したケベック州歳入省のロベール・T・ルベル電子業務サービス担当上級参事官に聞いた。(構成:安藏靖志=フリーライター)


※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第11号(2006年4月1日発行)に掲載されたものです。

「電子申告の普及にはマーケティング手法の導入が重要」と語るルベル氏
「電子申告の普及にはマーケティング手法の導入が重要」と語るルベル氏

──ケベック州の電子申告ではPKIを使用していないと聞くが。

ルベル PKI(公開鍵基盤)の技術はすばらしいが、プロセスがあまりにも煩雑だ。リスクが数パーセントしかないのにやる価値があるのか。不動産取引に関する申告など一部の手続きでは電子証明書を利用しているが、ほとんどの手続きに関してはIDとパスワードで十分だと考えている。ケースバイケースで考えるべきではないか。

──日本では電子申告をしても、証憑(しょうひょう)書類を郵送もしくは持参で提出しなければならないため、電子化のメリットを得ることが難しい。

ルベル 電子申告を開始するにあたって法律を改正したが、その際に(個人が)証憑書類を5年間保存する義務を付けた。しかし税務署に送付する必要はない。当初は申告後に証憑書類と突き合わせて確認する割合が20%程度あった。しかし、Q&A形式で必要事項に答えていくだけで申告フォームを作れるソフトを企業と共同開発したところ、現在は証憑書類を確認する割合は1%程度にまで減った」

──日本で電子申告が進まない理由の一つに、国税庁が開発した「国税電・納税システム(e-Tax)」対応ソフト「e-Tax(イータックス)ソフト」の使いにくさを挙げる声もある。

ルベル 申告ソフトは「お客様」が使いやすいものにしなければならない。納税者はお客様だという発想が必要だ。(利用者は)使いにくいから間違えてしまい、申告後に確認を取る手間がかかってしまう。ソフト開発業者も使いやすいソフトを歳入省と共同開発すれば利益が上がるし、税理士などの代理業も積極的にソフトを使うことでお客様の満足度が上がる。また、ソフト開発の際には、代理業の意見も最初から取り入れてソフトに盛り込んでいった。歳入省が中心になって納税者、開発業者、代理業すべてがWin-Winになるようにしようとしたことが電子申告を成功に導いたと考えている。開発はPPP(Public-Private Partnership)方式で行った。

 ケベック州では70%の人が電子申告に対応するマネー管理ソフトを利用しているが、電子申告率は先程も述べたように現状40%台にとどまっている。そこで、ソフトを使ってプリントアウトした書類の申告でも、役所側で電子データとして簡単に取り込めるような仕組みを用意して業務効率化につなげようと考えている。

 具体的には、申告ソフトの中に2次元コードを組み込むようにソフト開発業者に依頼した。ソフトを使って申告書を印刷すると、申告内容と証憑書類の情報がデータとして入った2次元コードも印刷される仕組みだ。それをスキャンして読み込むことで、紙の書類でもすぐに情報をデータとしてインプットできるようになった。

──電子申告の利用者に対するインセンティブは用意しているのか。

ルベル 金銭的なインセンティブはないが、還付までの期間が短いというインセンティブを用意している。紙の申告に比べて2倍早く得られるようになっている。

──利用率の目標は?

ルベル おそらく、使わない人はどうあっても使わない。全員が電子申告を利用することはないだろう。それでも利用率は70%くらいまでは上がると思っている。