図1 バンダイが「WAN統合ゲートウェイセンター」を稼働させた理由
持ち株会社方式によってナムコと経営統合した結果,両社のネットワークを相互接続する必要が生じた。各社が利用しているIPアドレスの重複を解決する目的で,WAN統合ゲートウェイセンターを整備した。

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写真1 バンダイ情報システム部の田島雄一デピュティゼネラルマネージャ(左)と小西寿ITソリューションチームリーダー(右)

図2 バンダイが稼働させたWAN統合ゲートウェイセンター
IIJのデータ・センター内にIPアドレスを変換するルーターを設置。センター内はグローバル・アドレスを使い,バンダイ,ナムコともにアクセスできるようにした。他のグループ会社も同じ形態で今後接続したい考え。

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図3 WAN統合ゲートウェイセンターを経由することでグループ会社のサーバーと通信が可能に
WAN統合ゲートウェイセンターで送信元アドレスとあて先アドレスを書き換えることで実現する。アドレスが動的か固定かによって,NAPTとNATを使い分けている。

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バンダイは,持ち株会社方式によるナムコとの経営統合を果たしたことに合わせ,両社のネットワークを相互接続した。利用するプライベートIPアドレスが重複して通信ができない問題を克服するため,データ・センター経由でアドレスを変換する仕組みを整えた。

 3月31日,家庭用ビデオゲーム業界に旋風を巻き起こす可能性を秘めた新会社が誕生した。バンダイとナムコのビデオゲーム事業部門を統合した「バンダイナムコゲームス」である。2005年9月に持ち株会社方式で経営を統合した両社にとって,共通する組織の再編・強化を狙った第1弾の動きだ。

 バンダイナムコゲームスの事業拠点は,ナムコ側に設置する。バンダイ籍の社員もナムコ側の拠点で業務に取り組むが,メール・サーバーや人事システムなどを使うときは,従来通りバンダイ側のネットワークにもアクセスしなければならない。このため,バンダイとナムコの社内ネットワークを相互接続する必要が生じた。

 しかもバンダイナムコゲームスは,設立を発表してからわずか3カ月足らずで発足した。こうした急速な組織再編では,一般に情報システム部門はインフラの整備に追われる。

 だが,バンダイの情報システム部門は準備万端で3月31日を迎えられた。組織再編が起こることを事前に想定し,2月に「WAN統合ゲートウェイセンター」を構築していたからだ。

重複アドレスを変換する“中継所”

 WAN統合ゲートウェイセンターとは,バンダイ,ナムコ両社の社内ネットワークを接続する“中継所”。それぞれの社内ネットワークで利用中のIPアドレスをNAT*で変換し,もう一方のネットワークに橋渡しする役割を担う。インテグレーションを担当したインターネットイニシアティブ(IIJ)のデータ・センターに設置した。

 WAN統合ゲートウェイセンターを整備する検討を開始したのは2005年9月(図1[拡大表示])。「持ち株会社の情報システムを整備する作業が一段落し,次にグループ間のネットワークをいかに接続するかが課題になった」(情報システム部の田島雄一デピュティゼネラルマネージャ,写真1[拡大表示])。

 すぐに問題として浮上したのが,バンダイ,ナムコそれぞれが利用する社内のプライベート・アドレス*の大半が重複していたこと。このままでは,ネットワークを相互に接続できない。

WANの全面刷新は時間を浪費する

 問題を解決する手段としてIIJは,WAN統合ゲートウェイセンターを提案した。送信元とあて先の両方のIPアドレスを,バンダイとナムコがともに利用していないアドレスに変換する方法である。両社ともインターネット接続サービスにIIJを利用していたため,IIJのデータ・センター内に通信機器を増設するだけで済む。

 WANを統合して両社のIPアドレスを一挙に割り当て直すことも考えた。しかしこうした手法では,全面的な刷新となるため膨大な時間がかかる。バンダイは,「経営側が短期間で組織を再編する事態も考えられる。それに即応できるよう,情報インフラは先行して整えておかなければならない」(情報システム部の金井正雄ゼネラルマネージャ)と判断。より短期間で整備できるWAN統合ゲートウェイセンターの手法を採用した。

 この読みはズバリ的中した。前述の通り,バンダイナムコゲームスは2006年1月の設立発表から3カ月足らずで発足。WANを全面的に見直していては間に合わなかった。

センターにグローバル・アドレス活用

 WAN統合ゲートウェイセンターの構成は以下のようになる(図2[拡大表示])。両社のWANをIIJのデータ・センターと結び,センター側にはWAN回線ごとに米シスコシステムズのルーター「Cicso 3825」を設置。これらのルーターがWANあてのパケットのアドレスを変換する。

 導入・運用にかかる費用は,機器やラックのレンタル,運用監視・保守などを含んで月額80万円弱という。

 データ・センター側のセグメントは,バンダイ,ナムコどちらからもアクセスできるように,共用セグメントとした。セグメント内にグループ共通のポータル・サーバー*などを用意し,両社のネットワークやサーバーなどにアクセスしやすくしている。

 共用セグメント内のIPアドレスには,本来はインターネット接続に用いるグローバル・アドレス*を使用した。バンダイ,ナムコとも社内用のアドレスと重複する心配がないからだ。

 当初は未使用のプライベート・アドレスをセンター用に割り当てることも検討した。しかし使用中のアドレスが想定以上に多く,まとまったアドレス空間を割り当てられなかった。

送信元・あて先の両方をNATで変換

 実際にWAN統合ゲートウェイセンター経由でバンダイの社員がナムコ側のサーバーにアクセスする流れを見てみよう(図3[拡大表示])。

 バンダイの拠点からは,ナムコ側サーバーは共用セグメントにあるよう見える。そこでバンダイ側拠点の端末はナムコ側NATルーターの共用アドレスにパケットを送出する。

 拠点からパケットを受け取ったバンダイ側NATルーターは,NAPT*を使って送信元のIPアドレスをNATセンター内で用いる共用アドレスに変換。さらにポート番号を対応付け,ナムコ側NATルーターへと転送する。

 ここでNAPTを用いるのは,バンダイ側の各社員の端末のIPアドレスをDHCP*で動的に割り当てているため。DHCPで割り当てられたクライアントに,ほかの端末は直接通信しない。つまりクライアント向けの通信は要求に対する応答に限られ,NATの膨大な変換テーブルを用意する必要はない。

 続いてパケットを受け取ったナムコ側NATルーターは,あて先IPアドレスを対応するナムコ側サーバーの固定IPアドレスに変換する。該当するIPアドレスのサーバーにパケットが届き,通信が成立する。

端末側のプロキシの設定が必要に

 構築作業は2006年2月に完了した。そこで試験稼働させたものの,すぐには正常に動作しなかった。気が付きにくい小さなミスがあったためだ。

 そのミスとは,クライアントのWebブラウザのプロキシ*設定を変更しておかなかったこと。ブラウザはゲートウェイセンターの共用アドレスに利用したグローバル・アドレスを,インターネットあてのアドレスと判断し,インターネット接続用のプロキシ・サーバーへ転送していたのだ。そこで,「センター用のIPアドレスあての通信はプロキシに転送しないよう,Active Directory*で端末の設定を一括して変更した」(情報システム部の小西寿ITソリューションチームリーダー)。

 正しい設定に変更したことで,各クライアントからの通信は問題なくできるようになった。2段階のアドレス変換が入るが,サーバーへのアクセスの応答速度は実用上は問題ないと言う。

グループ会社との統合も視野に

 今後は他のグループ会社とも,WAN統合ゲートウェイセンター経由で接続する構想を温めている。

 バンダイには,バンダイビジュアル,バンプレストなどのグループ企業がある。今のところ各社が独立してネットワーク・インフラを整備しているが,グループ間での情報共有を円滑にするには,ネットワークを相互接続するのが望ましい。そこでWAN統合ゲートウェイセンターを活用するわけだ。「センターには割安なインターネットVPNでも接続できる。比較的規模の小さいグループ会社でも接続しやすいはず」(小西リーダー)。

 WAN統合ゲートウェイセンターを,バンダイ・グループの情報インフラを結ぶハブとして位置付けることを狙っている。

経営の要求に備えて常に先手を打つ


金井 正雄
情報システム部ゼネラルマネージャ

 玩具やキャラクター商品展開に自信のあるバンダイと,ビデオゲームやアミューズメント施設の運営に強みを持つナムコ。それぞれの強みを生かす相乗効果を狙うには,3月31日に誕生したバンダイナムコゲームスのような迅速な組織再編や,ち密なビジネス情報の交換が欠かせない。

 これらの経営上の課題を実現していくための情報インフラは,常に準備完了の状態にしておく必要がある。ネットワークの相互接続を手早く進めたのもこのためだ。

 統合WANゲートウェイセンターの整備の次は,第2の基幹系システムと位置付けるメールやグループウエアの統合に力を入れていきたい。そうすれば社員の情報共有化を促進できる。

 IT基盤全体について言えば,無理やり統合するよりは,現在の資源を有効活用しながら進めたい。共用ポータルのような共通の資源を用意していき,緩やかに統合する姿を描いている。(談)