図4 安易なメーリング・リストの利用がトラブルの原因だった<BR>高橋くんがテスト中のメーリング・リストと,不在通知を自動応答する設定にしていた社内メール・サーバーの間でメールのループが発生。その結果,社内メール・サーバーの負荷が大きくなったのがトラブルの原因だった。
図4 安易なメーリング・リストの利用がトラブルの原因だった<BR>高橋くんがテスト中のメーリング・リストと,不在通知を自動応答する設定にしていた社内メール・サーバーの間でメールのループが発生。その結果,社内メール・サーバーの負荷が大きくなったのがトラブルの原因だった。
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図5 新しいシステムを構築する際のポイント&lt;BR&gt;システム構築は,現場のニーズと情報システム部が定めるポリシーをつき合わせ,そのバランスを考えながら検討を進めなければならない。
図5 新しいシステムを構築する際のポイント<BR>システム構築は,現場のニーズと情報システム部が定めるポリシーをつき合わせ,そのバランスを考えながら検討を進めなければならない。
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高橋くん:
営業一部のIT推進委員。営業マンとして働く一方,システム部と協力して部内のネットワーク・システムの面倒を見ている。
島中主任:
システム部主任。社内ネットワークを運用管理する中心人物。各部署のIT推進委員からの声を社内ネットに生かすよう活動している。

 二人が一緒にその同僚に話を聞きに行ったところ,高橋くんから話を聞いた同僚は今朝,面白半分に営業一部の社員旅行の時の写真をメーリング・リストあてに送ったという。

 このトラブルの経緯をまとめると次のようになる(図4[拡大表示])。

 高橋くんが,インターネット上にあるフリーのメーリング・リストを使う設定をしたのが昨日の夕方。とりあえずの設定までして帰宅した。帰宅途中で同僚と食事をとったのだが,そのときにメーリング・リストの話題が出た。

 そして今朝,その同僚が高橋くんの机にあったメーリング・リストのアドレスに試しにメールを送信したことが今回のトラブルの引き金となった(図4の(1))。高橋くんはそのとき,島中主任からIT推進委員のレクチャーを受けていた。その後すぐに客先へ外出しなければならなかったので,そのときすでに,メールは不在通知を自動応答する設定にしていたという。

 メーリング・リストのメンバーには高橋くん自身のメール・アドレスしか登録していなかったので,同僚が送ったメールは高橋くんに届く(同(2))。社内のメール・サーバーは,高橋くんあてに届いたメールに対する不在通知を自動で返信(同(3))。その返信メールがメーリング・リスト側で新しい投稿メールだと判断され,再び高橋くんにメールが届く(同(4))。その配信メールにまたまた不在通知が自動応答され……といった具合に,メールのループ状態が発生(同(5))。これが大量のメールとなって社内のメール・サーバーに蓄積され,メールー・サーバーに大きな負荷がかかった(同(6))。

 通常,フリーのメーリング・リストであっても,メールのループを防止する措置が施されている場合が多い。しかし,今回高橋くんが利用したメーリング・リストはそうなっていなかった。さらに,同僚がたまたまメールしたことと,高橋くんが不在メールを自動応答させる設定にしていたという偶然が重なり,今回の障害が発生してしまったのである*

ポリシーを考慮しつつ部署の要望を満たす

高橋:ほんの思いつきでやった事がこんな障害を引き起こすなんて……。そんなつもりはなかったんです。

島中:十分反省しているようだからこれ以上とやかく言わないけど,なぜフリーのメーリング・リストを使うなんてことをしたんだい?

高橋:ウチの部長から営業部門全員で情報を共有できるしくみを考えるように言われて,フリーのメーリング・リストを使えば手軽に実現できると考えたんです。フリーなら当然費用もかからないし,社内の手続きも要らないから,特に問題ないと思ったんです。

島中:情報を共有できるしくみって,一体どんなシステムを組むつもりだったんだい?

高橋:部長の指示では,最初は営業部門の情報共有から始めて,最終的には顧客とも情報を共有できるようにしたいと考えているようです。営業部全員で利用できて,社外からでも利用でき,顧客にはメール・マガジンで製品情報を配信するといったシステムです。実は,客先の打ち合わせに出る前に相談したかったのもこれだったんです。

島中:うーん,高橋くん一人でそれだけのシステムを構築するのは難しいね。

高橋:とりあえず部内の情報共有だけでも始めるつもりでフリーのメーリング・リストを使ったのですが…。

島中:高橋くん,システム構築というのはそんなに簡単なものじゃないんだよ。例えばフリーのメーリング・リストを使うとなると,社内の重要な情報が外部に漏れてしまう可能性も考慮しなければならない。今回のように,全社のメール・システムに影響を及ぼすことだってあり得るんだ。顧客を対象としたサービスを想定しているのなら,そのサービスに障害が発生した場合に顧客に迷惑をかけないように,対処方法まで十分考慮する必要がある。○×商事が提供するサービスなんだから,それなりの条件を満たす必要があるね。

高橋:そうなんですか…。

島中:もちろんぼくらも,各部署の要望をできるだけ満足するシステムを構築したいと思うけど,それと同時に○×商事のシステムとして曲げられないポリシーがあることを理解してほしいな(図5[拡大表示])。

高橋:よくわかりました。やはり簡単には実現できそうにないですね。一度部長とよく相談して,どうやって実現していくのかを検討します。また相談に乗ってください。

島中:そうだね。営業部門が計画しているシステムは,営業部門内で使ういわば「ローカル・システム」になる。それでも,全社インフラにつなぐとなると考慮すべき点が多いんだ。高橋くんにはそれを理解してもらいながら,いっしょに構築していこう。それでは,また近いうちに打ち合わせをしよう。

 高橋くんは今回のトラブルを振り返り,IT推進委員日記[拡大表示]をつけ た。


●筆者:佐藤 孝治(さとう たかはる)
京セラコミュニケーションシステム データセンター事業部 東京運用監視課・責任者
社内,社外のシステム・インフラ導入業務を経て,現在はデータ・センターの構築・運用管理に従事している。