Pict1.二つの接続方式がある
Pict1.二つの接続方式がある
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 今回のシリーズでは,2台のコンピュータがいくつかのネットワークを介して通信するしくみを見ていきます。今回からは,前回紹介したネットワーク層の五つの機能それぞれについて,具体的に解説していきます。まず今回は,相手までの通信路をつなぐ機能について説明しましょう。

相手を呼び出してからつなぐコネクション型

 途中にある複数のネットワークを介して2台のコンピュータが通信するとき,相手までの経路パスをどうやってつなげばいいのでしょうか? 結論から先に言うと,接続の方式は2種類あり,コネクション型とコネクションレス型と呼ばれています(pict.1[拡大表示])。

 まずは,コネクション型から説明しましょう。コネクション型の代表は電話です。電話はコンピュータ・ネットワークではありませんが,交換機と呼ばれる中継装置でつながれた複数のネットワークを介して通信する点ではコンピュータ・ネットワークと同じです。

 電話の接続のしくみでは,送信側がまず相手の電話番号をダイヤルします。こうして相手を呼び出し,相手が受話器を取ったら,会話を始められます。用件が済めば双方が受話器を置いて通信を終了します。

 この方法では,交換機が送信元のダイヤルした番号から,相手の所属するネットワークをみつけ,そのネットワークにつながる交換機までのルートを決定します。つまり,相手までの経路の途中にある交換機が,通信を始める前に特定の手順に従って送信側と受信側の間をつなぐのです。こうした通信方式をコネクション型と呼びます(pict.1の上)。

 初期のコンピュータ・ネットワークもまさに電話網のような回線交換方式のネットワークでつながれており,コネクション型の通信を使っていました。

相手を気にせず送るコネクションレス型

 1960年代の後半から70年代にコンピュータ・ネットワークでパケット交換方式のネットワークが使われるようになりました。

 パケット交換方式は,データをいったん細切れにし,その細切れのデータ(パケット)単位で通信します。1本の通信回線を1本の通信路として使う回線交換方式と異なり,パケット交換方式は1本の通信回線にあて先や発信元の異なるパケットを混ぜて送ります。ちょうど,一つの物理的な通信路の中に同時に複数の通信路を作るようなものです。こうして作られる仮想的な通信路を論理通信路(VC:vertual circuit(バーチャル・サーキット))と呼びます。

 パケット交換方式の通信でも,当初はコンピュータ間の接続にはコネクション型が使われました。すなわち,通信を始める前に,中継装置に依頼して経路を決定し,相手がデータを受信できるかどうかを確認してから論理通信路を設定していました。

 コネクションレス型は,接続の手順なしに通信を行う方式です。コネクションレス型では明示的に論理通信路を設定せず,送信側がデータを送りたいときに,相手先へ送り出します。間にある中継装置は受け取ったパケットをあて先に応じて転送するだけ。受け取る側には突然,データが届きます(pict.1の下)。

 コネクションレス型の通信方法は1980年代になって登場したLAN,特にイーサネットの通信方法に影響を受けています。一つひとつのパケットにあて先が書かれていれば,中継装置はそのあて先に応じてパケットを振り分けます。従って,わざわざ論理通信路を作らなくても,途中にあるネットワークと中継装置が正常なら,個々のパケットは目的地までたどり着けます。

 イーサネットの普及は,コネクションレス型通信の有効性を明らかにしました。これが複数のネットワークを相互接続するネットワーク層の技術としてコネクションレス型の方式を採用する後押しになりました。


●筆者:水野 忠則(みずの ただのり)氏
静岡大学創造科学技術大学院 大学院長・教授。情報処理学会フェロー,監事。現在の研究分野はモバイル&ユビキタス・コンピューティング,情報ネットワークなど
●筆者:井手口 哲夫(いでぐち てつお)氏
愛知県立大学情報科学部教授。現在の研究分野はLANや広域ネットワークのインターネットワーキング技術,ネットワーク・アーキテクチャ,モバイル・ネットワークなど
●イラストレータ:なかがわ みさこ
日経NETWORK誌掲載のイラストを,創刊号以来担当している。ホームページはhttp://creator-m.com/misako/