技術は驚異的な速度で変化するとよく言われるが,実際には何度かブームが繰り返さなければ,技術は真価を発揮しないものである。今だとWAFS(Wide Area File Services,広域ファイル・サービス)がそれに当たるだろう。WAFSを使って本社と支店間のデータ転送を最適化することによって,企業におけるストレージの中央集中管理が可能になるとともに,WANにおけるデータ転送の高速化が実現できる。その時がようやくやってきた。

  WAFSとは,キャッシュやプロトコルの最適化,転送データの圧縮などを組み合わせることによって,CIFSやNFSで発生する応答時間の問題や帯域幅の占有の問題などを解消する技術のことである(関連記事)。米Actona Technologiesや米Riverbed Technology,米Tacit Networksといった先駆的なWAFSベンダーの多くは,2004年にベンチャー・キャピタルから巨額の投資を受け,既に何社ものベンダーが失敗してきたWAFS市場に挑戦し始めた。

 WAFSが普及する根拠は常に存在している。米国国勢調査局によると,最低でも500名の従業員を抱える1万7000社の企業が,合計100万以上のオフィスを運営している。米Taneja Groupは約12万社の「分散型企業」(2カ所以上の拠点で営業活動を行っている企業)が,400万もの遠隔オフィスを運営している,と見積もっている。米Enterprise Strategy Groupのアナリストの見積もりによれば, ミッション・クリティカル・データのうち60~70%が,オフサイト(現場以外の場所)で使用または保管されているという。

 多くの場合,遠隔オフィスはストレージ管理者にとって悪夢である。本社のストレージ管理者は,データをアーカイブしてオフサイトに運んだりするか,遠隔オフィスの職員にバックアップ作業を任せなければならない。往々にして規模の小さなオフィスの従業員は,これらの作業を十分に成し遂げられない。

 従来のWAFS技術は,IPネットワークと専用回線に頼ってデータを管理していた。しかし新世代のWAFS技術は,データを1カ所の中央サーバーに転送する「中央サーバー・モデル」を採用し,高いパフォーマンスを実現している。Taneja Groupのアナリストによると,WAFSで接続したアプリケーションは,LANで接続した場合とほぼ同じ速度で動作するという。さらに,WAFSには暗号化技術の他に,トランスペアレント・モードやユーザー認証といった主要なセキュリティ機能が組み込まれている。この技術は非常に強力なため,ここ2年間で,米HPや米Cisco Systems,米EMC,米Brocadeといった大手企業が,WAFSベンダーと提携を結んだ。

 WAFSの導入事例を見ると,WAFSは期待通りの成果と予想外の恩恵の両方をもたらす可能性があるといえそうだ。例えば,ニューヨーク州Hauppaugeに本部を置くAccretive Solutionsという会社は,国内のいたるところにオフィスを持ち,約30台のサーバーでデータベースや電子メール,ファイル・サーバーを運用している。同社のネットワーク管理者であるJeff Prevet氏は,HP製の初心者向けSANを使ってオフィス同士を接続している。Prevet氏によると,以前は各遠隔オフィスがサーバーを運用し,自分たちで責任をもってデータをバックアップしていたとのことである。

 最近このAccretive Solutionsは,WAFSベンダーであるAvaillのWAFSとCDP(継続的データ保護)ソリューションを採用した。今では,遠隔オフィスでファイルに変更が加えられると,そのファイルは本社におかれたAvaillサーバーに自動的にバックアップされる。本社のAvaillサーバーは,アーカイブ化とオフサイト・バックアップのために,テープにもバックアップを実行している。バックアップ・テープは,同社のカリフォルニア州Santa Claraオフィスにオフサイト保管され,災害時のリカバリに備えている。

 Accretive Solutionsによれば,WAFSソリューションを導入することで,いくつかの効果があったという。例えば,バックアップに関連するSLA(Service Level Agreement)の項目が減り,管理が簡素化された。また,ディザスタ・リカバリ・システムの運用が容易になった。同時に予想外の恩恵もあった。新しいオフィスをネットワークに参加させる際のコストが,従来の1万5000ドルから5000ドルにまで下がったのである。なぜなら,同社では,遠隔オフィスでは低価格サーバーを導入すれば済むようになったので,高価なテープ・ドライブやストレージ管理ソフトウエアに投資する必要がなくなったからだ。Prevet氏はWAFSを使って,最終的にはエンドユーザーによるセルフ・サービスのファイル復元を実現させたいと考えている。「今は,リモートのユーザーはファイルを復元するとき,ヘルプデスクに連絡しなければならない」とPrevet氏は語る。

 こういった事例の登場は,WAFS市場を拡大させるはずだ。WAFS市場は2006年中に150~200%成長するとTaneja Groupは予想している。Gartnerは,WAFSが「WAN最適化」と呼ばれる分野よりもより大きな分野に育つと見ており,WAFSの売り上げは今年70%増加して,11億9000万ドルに達するとみている。成熟期を向かえようとしているWAFSは,ストレージ関連で今年最大の注目株である。