写真6●競技部門に参加したハノイ工大チーム
写真6●競技部門に参加したハノイ工大チーム
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写真7●競技部門に参加したモンゴル科技大チーム
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写真8●鳥羽商船高専のお洗濯とりこMail
写真8●鳥羽商船高専のお洗濯とりこMail
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強さを見せつけるハノイとモンゴル

 2回戦は合計3試合あったのですが,ここでもハノイ工大(写真6[拡大表示])とモンゴル科技大(写真7[拡大表示])は強さを見せつけました。上位の高専チームが10点内外を取るのがやっとなのに,前者は34点,後者は35点。もう競技の最中も余裕の表情なんですよね。特にモンゴル科技大は7分間の競技時間の間,ずっと音なしの構えで,何をしているのか見ている側にはまったくわからないのだけれど,ふたを開けるとぶっちぎりの1位通過なんです。プロコン界に“黒船”現る?

 最後の決勝戦に勝ち残ったのは,徳山高専,一関高専,大阪府立高専,金沢高専,詫間電波高専,久留米高専,ハノイ工大,モンゴル科技大の8チームでした。下馬評の高かった高専がずらり並んだ注目の一戦。出題された画像はほとんどグレー1色の波頭の画像です。これは難しそう。ここでもやはり予想していたことが起こりました。ハノイ工大が着実に点数を上げていくのです。10点,そして14点。会場からは拍手が巻き起こります。高専チームでは久留米高専ががんばりました。解答数は多くないものの,1点ずつ着実に正解していきます。さて,7分の間にハノイ工大に追いつくことができるか? まだ1問も正解していないモンゴル科技大は?! と心拍数が最高に高まったところでゲームセット。

 結果は,なんとモンゴル科技大が27点をマーク,逆転でトップの座に。次点はハノイ工大で14点,その次に久留米高専が入って,得点は3点でした。

 事実上の優勝チームであるモンゴル科技大に話を聞いてみました。彼らが作成したプログラムの流れは,(1)100枚の加工画像についてそれぞれ加工の可能性をすべて検討した後,原画像の一部であるかどうかの確率を数値化,(2)確率の低いものからサーバーに送って間違った加工画像を特定,(3)その後に正解と思われるものを送信——というものだそうです。正解したあとに間違った解答をすると減点になるからです。音なしの構えだったのにはこうした訳があったのです。システムはすべて自動制御。3カ月間しか準備期間がなかったとのことですが,なんの,素晴らしい完成度でした。

 一方,高専チームのトップに立った久留米高専,益田和樹くんの話です。「モノトーンやグレースケールの画像に対応できるよう,コントラストを補正する仕組みを加えたのがここまでこれた要因のような気がします。間違った解答を送ると減点になるので,慎重さが大事と最後は人間が送信するかどうかを判断しました。打倒大阪府立高専を目標にやってきたんですが,オープン参加のハノイ,モンゴルがチームがここまで強いとは。新たな目標ができました」。

 いろいろな情報を総合しますと,オープン参加チームと高専チームの間に生じた大量の得点差は,完全に自動化して解を求められる高速処理を実現できたか,人間の判断を含めた半自動化にとどまってしまったかの差だったように思います。期せずして,世界のレベルを垣間見た大会となりました。彼らがオープン参加でよかったと安心しないで,また勝ち目がないとあきらめないで,この悔しい思いをバネに来年はさらに高いレベルで戦えるようにがんばりましょう。えいえいおー。

あらためて確認された採点基準

 さて,いよいよ表彰式です。いつもこの時間になると,結果を知りたいような,このまま何も聞かずに帰ってしまいたいような複雑な心境に陥ります。

 今年は各賞の発表の前に,審査委員長の神沼靖子先生からあらためて採点基準を確認する時間が設けられました。審査のポイントは,独創性,技術力,記述力,発表能力,有用性,操作性,完成度——です。単なる思いつきではない,きちんとした分析の上に立脚したアイデア。どういうデータをどう入力して,それをもとにどんなアウトプットを行うか。構想したアルゴリズムを具体的に形にする技術力。聞き手に対してコンセプトやシステムの内容を伝えきる記述力,発表能力。自分だけではなく,幅広いユーザーに役に立つ有用性,誰にとっても使いやすい操作性,そして,設定した目標に対してどこまで到達できたかという完成度。これらを客観的にカウントして総合評価した結果が成績として出るということでした。

 その一つひとつについて,観客席にいる高専生は熱心にメモを取っています。何が審査対象とされているのか,どう戦えばいいのか,それをちゃんと認識することはとてもいいことだと思います。

 さて,気になる最優秀賞ですが,自由部門は,冒頭に紹介した「Antwave—超次元コラボレーションブラウザ」の津山高専チームの頭上に輝きました。彼らはこれで2連覇です。津山高専は学生投票でも自由部門の1位だったので,いかに幅広い支持を得たかがよくわかります。

 自由部門,優秀賞は弓削商船高専の「xpWorld—eXtremeProgrammingの勧め—」です。これはエクストリーミング・プログラミング(XP)の開発手法を体験できるJavaプログラミング学習用ソフト。Javaなどの統合開発環境Eclipseのプラグインとして動作します。ペア・プログラミングとテスト・ファーストの実践に主眼を置いて開発しました。

 課題をサーバーからダウンロードしてきて,同じ課題を選んだ人の中から一緒にプログラミングしたい人を選び,どちらかが「ドライバ」,どちらかが「パートナ」になって,二人で共有エリアを見ながらプログラミングを進めていきます。チャット機能が組み込まれていて,物理的に離れていても文字や音声でペアを組んだ人と会話をしながら作業することが可能です。実際に開発の様子をデモしてもらったんですが,ドライバの書くコードをパートナがリアルタイムに目で追って学べるので,学習効果が高そうです。このシステムは完成度の高さが印象的でした。

 課題部門の最優秀賞は,鳥羽商船高専の「お洗濯とりこMail」が選ばれました。これを聞いて私はびっくり。なぜなら唯一取材ができなかったシステムだったからです。概要を読んで「これはいい!」と思い,すぐさま話を聞きに行ったのですが,実機の調子が悪かったようで,何度訪ねてもお取り込み中でした。

 これは一言でいうと,洗濯物自動出し入れ機(写真8[拡大表示])。USBカメラ2台,温湿度計,風力計,雨感知器,洗濯物取り込み装置から構成されていて,各測定器を定期的にカメラで撮影,その画像を処理して天気の状態を判定します。そして,雨と判定した場合は,モーターを作動させて自動的に洗濯物をビニールシートの中に引っ込めます。自動取り込み取り出しだけをパソコンや携帯電話から直接指示することもできます。強い風が吹いたり不審者が現われたりした場合は,ユーザーに警告のメールを送信します。このシステム,なんといっても普遍性がありますよね。洗濯物を屋外に干す人なら誰でも欲しいと思います。

 表彰式後,鳥羽商船高専チームに話を聞きました。思ったように機能が実装できず,車で米子へ来るときも気が重くて「このままどこかへ逃げてしまいたい」と思っていたそうです。審査員の先生方の前ではなんとか動いたものの,最優秀賞に選ばれるとはつゆほども思っていなかったとか。ひとえにコンセプトが評価されたからでしょうと,みんな眠そうな目をこすりながら語ってくれました。数日前から眠っていないそうです。

 課題部門の優秀賞は松江高専の「これでDaijob—助け愛ネット—」でした。これは災害発生時,ボランティアの活動を補助するシステム。管理サーバーと携帯電話から構成され,アドホック通信,橋渡しシステム,被災地MAPという機能を備えています。

 アドホック通信というのは,携帯電話回線,固定電話回線が使用できなくてもシステムが動作するように,端末同士が無線LANを使って直接通信を行う機能です。また,橋渡しシステムとは,被災地の依頼者が管理サーバーに対してボランティア要請を出すと,管理サーバーが被災地に近い拠点にいるボランティア・リーダーから順に依頼を出していく機能です。リーダーがその依頼を受ける場合は,リーダーの携帯電話からさらに仲間のボランティアを募ります。被災地MAPは,被災地の通行状況や,通行不能な場所などの情報を載せた地図で,ボランティアの橋渡しを行うときに一緒に送信されます。事前にボランティアのネットワークが形成されていると,パワフルな支援システムになりますよね。松江高専は去年もこの課題部門で最優秀賞を受賞。社会派の松江高専,というイメージが定着しつつあります。

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 今年もひたすら楽しい時間を過ごさせていただきました。高専生の作るソフトウエアは,その着眼点といい,その実装力といい,世界的に見てもレベルが高いです。ロボコンほど有名じゃないかもしれないけど,本選に出場した学生の皆さんは,このことにもっと自信を持っていいと思いますよ。ただ一つだけおばさんくさいことをいうなら,もう少しだけ完成時期を早めて,ユーザー評価を含めしっかり使いこんでから出品することをお勧めします。いいところまでいっているのに,時間切れになっちゃったんだろうなあと思う作品がいくつかありました。もったいないことであります。

 さて,来年のプロコン開催地は茨城県ひたちなか市だそうです。皆さん,今の技術にさらに磨きをかけて,また私をびっくりさせてください。


名 称:全国高等専門学校 第16回 プログラミングコンテスト
開催地:米子コンベンションセンター(鳥取県米子市)
URL:http://www.procon.gr.jp/16th/

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