●半期の目標を記載したOGISM(オージーアイエスエム)(A(エー))表をベースに、毎週2つの計画表を作る
●半期の目標を記載したOGISM(オージーアイエスエム)(A(エー))表をベースに、毎週2つの計画表を作る
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マネジャー1人と一般社員2~7人の小チームで毎週実施する「小集団SAPS会議」の様子
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●ユニ・チャームの経営管理改革のポイント
●ユニ・チャームの経営管理改革のポイント
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月曜早朝にSAPS経営会議

 SAPS経営会議は、月曜日の朝8~9時に開催される。地方や海外の拠点にいる社員も、ビデオ会議システムで参加する。国内外84拠点が都内の大会議室に高速通信ネットワークでつながっているのだ。

 まず初めに、高原社長が先週の経営トピックスやSAPS経営の重要性について丁寧に語る。その後、無作為に2人の参加者が順次指名され、自身のダメ詰めローリング表とSAPS週報の内容を発表。これを受け、企画本部SAPS推進室の中島康徳室長が、2つのツールの記載方法に関するアドバイスを送る。

 さらに、ほかの参加者数人と高原社長のアドバイスが続く。その内容は、ツールの使い方や戦略の立て方、実行の仕方に関するものから、具体的な戦略内容にまで及ぶ。

 ツールの記載方法にしつこくアドバイスを送ることは、長期的に見るとナレッジ共有を促すために欠かせない。例えば、戦術は「何を誰と(どのレベルまで)……する」と、反省点は「○○だったため、~ができなかった」と書かせるなど、ツールの文章表現を共通化させている。

きっかけは第5次中計への不満

 SAPS経営を何年も継続させるのは容易ではない。週次SAPS会議の準備や参加に時間をとられ、業務効率が落ちかねないからだ。実際、ダメ詰めローリング表とSAPS週報の作成には平均3時間かかるという。

 それでもこの手法を導入した理由は、先代社長のカリスマ経営に起因する弊害への危機感にあった。2001~2003年度の第5次中計の成果への不満が、高原社長の背中を押した。

 ユニ・チャームは企業規模が小さく事業範囲も限られていたうちは、カリスマ経営がうまく機能し、市場の変化に素早く対応できていた。「ところが、グループ全社で5000人を超す規模になり、大企業病にかかりつつあった」(高原社長)。上司の顔色を伺って仕事をしたり、全体最適の視点が失われたり、指示待ち体質の兆候が現れていたのだ。

 しかも、前社長がモノの見方や具体的な戦略面にまで強力なトップダウンで指示していたため、管理職であってもリーダーシップを欠く傾向が目立った。高原社長は、「こんな状況では会社の発展を持続させるのは難しい」と感じていたのだ。

毎週、最優先の仕事に注力

 SAPS経営導入の狙いは、社員一人ひとりが自立的に意欲的な目標を掲げ、その達成に向けてみんなで知恵を出し合う風土を作ることだ。この狙いを達成するために、次のような点を重視する。

 1つは、1週間に取り組むべき仕事の優先順位付けだ。いま真っ先にやらなければならないことが何かを常に意識するようにし、その仕事に力を注ぐ。複数の仕事を追うよりも成果が出やすいので、達成感を得やすい。その結果、社員のモチベーションが高まる。中島室長は、「第一優先の仕事に集中することで、少ない時間で大きな成果を出せるようになってきた」という。ライバルに対する時間競争力が高まるわけだ。

 しかも第一優先の仕事を実行に移す際、その仕事を「加工(実行)」「停止(待ち時間)」「運搬(移動時間)」「検査(会議・資料作成など)」の4工程に分けて考え、付加価値を生む加工工程に時間と行動を集中できるように、スケジュールを組む。

 また、OGISM(A)表に記載する目標は、「計画者=実行者」の考え方のもとに挑戦心・自立心を感じさせるものを重視する。この仕組みを円滑にまわすため、部下がOGISM(A)表の原案を提出したら、上司は48時間以内に修正を入れて返す。その際、PNI(ポジティブ・ネガティブ・インタレスティング)というコーチング手法を使う。上司は、ポジティブな言い方で良いところを挙げてから、ネガティブなところを指摘し、より良い目標を気づかせてやる。

成功体験の積み重ねが必須

 ユニ・チャームが、SAPS経営を一般社員まで広げたのは、2005年4月から。現在、部長・室長クラス以上まではかなり定着したという。中島室長によると、「アンケートの結果、部長・室長クラス以上の97~98 %の人は、前向きに評価している」。

 これは、社員の負荷を考慮し、既存の業務を削ってSAPS経営のための時間を捻出させるなどの工夫をしたおかげでもある。例えば営業部門は大胆にも、金曜日の営業活動を無くし、営業全体、支店別、小集団の3つのSAPS会議に全日を充てている。その代わり、月曜から木曜は直行直帰で営業活動に集中する。

 高原社長は、入社3~4年目の社員が現場で新入社員にSAPS経営を教えられるレベルまで、浸透させたい考えだ。しかし、それにはまだ及ばない。「私も会議の準備に3~4時間はかかる。みんなも面倒くさいと感じるだろう。だからこそ、小さな達成感の積み重ねによって、心理的な抵抗を乗り越える必要がある」。高原社長は、10年かかっても会社のDNAに昇華させる覚悟である。