図3 電子メールにトラブル発生<BR>メール・サーバーの動作が遅くなり,メールが届かないという現象が発生。基幹サーバーやWebサーバーおよびインターネットは問題なく利用できるのに,電子メールだけ挙動がおかしい。
図3 電子メールにトラブル発生<BR>メール・サーバーの動作が遅くなり,メールが届かないという現象が発生。基幹サーバーやWebサーバーおよびインターネットは問題なく利用できるのに,電子メールだけ挙動がおかしい。
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高橋くん:
営業一部のIT推進委員。営業マンとして働く一方,システム部と協力して部内のネットワーク・システムの面倒を見ている。
島中主任:
システム部主任。社内ネットワークを運用管理する中心人物。各部署のIT推進委員からの声を社内ネットに生かすよう活動している。

 これは障害が起こっているのかもしれないと思い始めた島中主任は,インターネット上の有名なWebサイトへアクセスしてみた。問題ない。いつも通り快適に使える。続いて自社のWebサーバーにアクセスしてみるが,やはり問題はない。基幹サーバーへアクセスしても,レスポンスはいつもどおりだ(図3[拡大表示])。どうやら,島中主任のパソコンとサーバー・ルームの間に問題がある訳ではなさそうだ。

 念のため,どの範囲までメールの遅延が発生しているのかを確認するために,札幌営業所のIT推進委員へ連絡してみた。すると,札幌営業所でもメールのやりとりに遅延が出ており,今調べていたところだと言う。どうやら全社的な問題のようだ。

大量のメールでサーバーが高負荷状態に

 大変な事になったぞ,と考えながら島中主任はノート・パソコンを抱えてサーバー・ルームへ向かった。サーバー・ルームに入ると持ってきたパソコンのIPアドレスを変更して監視用ネットワークに接続した。○×商事では,デスクにあるパソコンから全社インフラ用のネットワーク機器やサーバーにアクセスできないようにしてある。メンテナンスする際は,この監視用ネットワークからアクセスする必要があるのだ。

 次に島中主任は,ゲートウエイ・サーバー*にアクセスしてユーザーIDとパスワードを入力した。これで,全社インフラ用の機器やサーバーを制御できるネットワークに入れる。ゲートウエイ・サーバー経由でアクセスするのは,監視用ネットワークからシステムにアクセスしたユーザーの記録を残すためである。

 島中主任は早速,パソコン上のコンソール画面からメール・サーバーの状況を確認するためのコマンドを入力してみた。レスポンスがなかなか返ってこない。どうやらメール・サーバーに何かが起こっているようだ。コマンドに対するレスポンスが遅いということは,サーバー自体の負荷が高い状態であることを示している。

 メール・サーバーの負荷が高くなっているということは,大量のメールを処理している可能性が高い。そう推測した島中主任は,メールを一旦ためておくメール・キューの状況をチェックしてみた。すると,何千件というメールが滞留している。案の定,送られてくるメールの量に対して,メール・サーバーの処理が追いついていないようだ。もしかするとスパム・メール*かもしれないな,と思いながらキューにたまったメールのあて先を調べてみると,同じあて先のメールが多いことに気が付いた。なんとそのあて先は,営業一部の高橋くんだった。

メーリング・リストでメールがループに

 どうやら高橋くんあてに大量のメールが届いているようだ。高橋くんのメール・ボックスの容量をチェックすると異常にサイズが大きい。これがトラブルの原因に間違いない。島中主任は急いで高橋くんに電話をかけたが,高橋くんはまだ外出から帰ってきていないとのこと。そうこうしているうちにも,高橋くんのメール・ボックスの容量はどんどん大きくなっている。

 島中主任はシステム管理台帳から高橋くんのユーザーIDとパスワードを調べると,情報システム部の上司の承認を得て高橋くんのメールへ本人権限でアクセスし,すぐさまメール内容の確認を始めた*。すると,ある時刻から同じ件名のメールが大量に届いていることがわかった。社外のメーリング・リスト*からのようだ。島中主任が見ている間にもメールの件数は刻々と増えている。

 これは,メールがループしている可能性が高い。そう気が付いた島中主任は,メール・サーバー上で高橋くんのメール設定がどうなっているか確認した。すると,高橋くんあてにメールが届くと,不在を知らせるメールが自動で返信される設定になっているではないか*。島中主任はすぐに設定を解除した。すると,たまっていたメール件数の増加が止まった。メール・サーバーの負荷は依然として高いが,徐々にメールが配信され始めているようだ。それを確認した島中主任は,ホッと胸をなで下ろしてサーバー・ルームを後にした。

部署独自のシステム拡張がトラブル原因

 高橋くんが客先の打ち合わせから戻ると,島中主任が怒った顔をして待っていた。

島中:やっと戻ってきたね。

高橋:あれ,何かあったんですか?

島中:高橋くんのやったことで,社内のメール・サーバーがストップしたんだよ。身に覚えがあるだろう?

高橋:ええーっ。そんなことになっていたんですか? まったく身に覚えがないです。何かの間違いじゃありませんか?

島中:高橋くんは社外のメーリング・リストを使っていたよね?

高橋:はい。テスト的に使えるようにしていますけど…。

島中:さらに,社内のメール・サーバー上でメールの不在通知を自動応答するように設定していたね?

高橋:確かに不在通知の自動応答も設定していました。でも,メーリング・リストはテスト中で,利用者はいないはずです。あっ,そういえば昨日の夜,同僚との雑談の中で話題にしたけど,まさかそれで…?


●筆者:佐藤 孝治(さとう たかはる)
京セラコミュニケーションシステム データセンター事業部 東京運用監視課・責任者
社内,社外のシステム・インフラ導入業務を経て,現在はデータ・センターの構築・運用管理に従事している。