会議は「怪議」。抽象的な議題,定まらない論点,時間だけが無駄に過ぎ,結局は何も決まらぬままに終わるような「怪議」は,経営の足を引っ張るだけで何の利益も生み出さない。日常のコミュニケーションが十分に図られている家庭では,いちいち「家族会議」を開いて物事を決めることなどない。同様に,役割分担が明確になされ,確固とした信頼関係で結ばれた組織を持つ企業には会議など必要無い。これが私の持論だ。

 当社には便宜的に「会議」と名付けた集まりはあるが,基本的には実務担当者が中心となる「ミーティング」しか存在しない。また,社全体に関わるような案件については,「プロジェクト」という名称で,必要に応じて期間限定でメンバーを召集することもある。これは第7回 で紹介した「ネットワーク型組織」の好例であり,部署間の垣根を取り払い,各部の実務者が活発に情報を交換してこそ機能するものだ。通常業務と並行して活動するため,それぞれが高い目的意識を持ってミーティングに臨み,限られた時間内に最大限の成果を出すよう留意していることは言うまでもない。

 高度な情報環境が整備され,ハード,ソフトともに急速な進歩を遂げている今日,社員一人ひとりの能力差はますます鮮明になっている。同時にそれらを結集する組織力の差が,企業の競争力を左右する時代でもある。このように日頃から情報共有・交換の場で実務者に刺激を与えて鍛え,レベルアップさせていくことも経営者の役割だと考えている。


見せ方の工夫で意図を伝える

 経営への参画意識を喚起するための情報公開と言っても,ただ「見せる」だけでは意味が無い。いかにこちらの意図を効果的に伝え理解してもらうのか,これが最大の悩みだ。

 たとえば当社では,情報の掲示場所に一工夫してみた。エレベータホールやエレベータ内に広報関係の情報を掲示すれば,エレベータを待つ時間や乗っている間に必然的に目に入る。さらに来客者にも,さりげなく「メリー」という企業をアピールすることができるので一石二鳥だ。

 いくらペーパーレスの時代とはいえ,印刷物を社員に配る機会もまだ多いことだろう。しかし,ただ紙きれを渡してもいずれは書類の山に埋もれていくだけだ。そこで毎期の経営方針など,特に重要な情報に関しては,1枚ずつラミネート加工したものを全管理職に直接手渡す。ここまですれば,さすがに机の上に放り出しておくわけにもいくまい。

 また厚めの紙を折りたたんで名刺サイズにすれば,定期入れや社員証と共に常時携行できるので,毎年頭に配付する「魅力ある企業をめざして」という社長訓や,地震など緊急時の社員心得を記した「防災マニュアル」は,この形で全社員に携行を義務付けている。

 「情報」と聞いただけで,コンピュータなどの情報機器をそろえなければ,何も始められないような錯覚に陥りがちだが,少しの工夫でいくらでも安価,かつ確実に情報を公開,共有することができるものだ。今あるもので何ができるのか,常に頭を使い,改善・改革を続ける努力を怠らない姿勢が肝要だ。

 本連載も残すところあと3回を数えるのみ。次回は「情報活用」の真の意味と,陥りやすい落とし穴についてまとめてみたい。

1年分の社長訓の抜粋「魅力ある企業をめざして」(上)。全26項目あり,2週間に1項目ずつ課題をクリアしていく
オリジナルの防災マニュアル(下)。裏面には心得等を記載。どちらも折りたためば財布や定期入れに入るミニサイズ


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■原 邦生 (はら くにお)

【略歴】
 メリーチョコレートカムパニー,代表取締役社長。1935年東京都生まれ。青山学院大学文学部卒業後,同社に入社。取締役,常務取締役,代表取締役専務を経て,1986年より同社代表取締役社長に就任。1958年に日本で初めてバレンタインセールを企画。現在の巨大なバレンタイン市場の「生みの親」でもある。営業畑を歩んで来た一方で,独自の社内情報システムも一貫して推進してきた。2004年より,経済産業省が推進するIT経営応援隊(中小企業の経営改革をITの活用で応援する委員会)の本委員会会長,東京商工会議所常議員(CSR委員会委員長)などを務める。

【主な著書】
『家族的経営の教え』(アートデイズ),『今週の提言』(ストアーズ社),『この商いで会社をのばせ!』(かんき出版),『朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『続・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社)『新新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『小さな変化で,大きな流れを読む 朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『感動の経営~想いを贈る企業を目指して~』(PHP研究所),『社長は親になれ!』(日本実業出版社)など。

【関連URL】
メリーチョコレートカムパニーのWebサイト http://www.mary.co.jp/