4月7日に行われた日経BP技術賞の表彰式で,オープンソースのフレームワークである「Seasar2」が情報通信部門賞を受賞した。Seasar2はITpro,日経ソフトウエア,日経バイトの3つのメディアがそろって推薦した。推薦者のひとりとして非常に嬉しい受賞だった。

 かねがね指摘されているように,世界で普及する日本生まれの独創的なソフトウエアは多くない。Seasar2は,DI(Dependency Injection,依存性注入)やAOP(アスペクト指向プログラミング)と呼ばれる,ソフトウエア工学で最もホットな技術を実装したものだ。DIを実現するソフトウエアには欧米で開発されたSpringフレームワークなどがあるが,Seasar2はそれらを押しのけて現場の技術者から圧倒的な支持を受けてきた。

 Seasar2は,会員100万人以上のWebサイトや,数十人月のプロジェクトを含む多くの業務システムでの採用実績がある。小規模なシステムも多数あり,おそらく国内ではSeasar2はSpringに大きな差をつけているだろう。

 なぜか。それはSeasar2が「最初から,業務システム構築の現場で使うことを目指して開発した」(Seasar2 チーフコミッタ 比嘉康雄氏)されたからだ。

 Seasarのテーマは「J2EEの解体と再構築,易しさと優しさ」だという。「実際の案件では様々な技術レベルの持ち主がプロジェクトに参加する。誰にでも使いこなせる庶民のための道具でなければならない」---比嘉氏はこう語る。DIだけでなく,EJB(Enterprise JavaBeans)に対しても現場の視点から「解体と再構築」を行い,DBアクセス・ツールである「S2Dao」を開発している。S2Daoを使いたいからSeasar2を採用するユーザーもいるという。

 比嘉氏は,電通国際情報サービスで業務システムのためのフレームワーク設計などを手がけてきた。システム・インテグレーションの泥臭い現場をよく知る技術者である。その目線から,新しい概念を現場で使いやすい道具として形にしてきた。それが現場の技術者に支持された理由だ。

 また多くの開発者がSeasar2と連携するソフトウエアを開発している。Webテンプレート・エンジン「Mayaa」,オープンソースのワークフローエンジン「S2Buri」,JavaServer Facesを利用するための「S2JSF」,PHP版の「S2Container.PHP5」や.NET版の「S2Container.NET」など数十のプロダクトがある。Seasar2のコミッタ(ソースコード変更権限を持つ開発者)は50人以上いるという。

 これだけの開発者を惹きつけた理由は,DIやAOPなど,技術者の興味をかき立てる最先端のテーマがあったからだ。ただし,それだけではない。仕事に使えるソフトウエアであることも大きな理由だった。「第一線の技術者は多忙。だがSeasar2は実際の案件に使えるソフトウエアであり,仕事として取り組める」(比嘉氏)。多くの技術者が自分の業務に必要な機能を実装して公開した。

 Seasar2が強みとする「現場」の視点は,日本の製造業の強みと重なるところが大きいように思う。日本の製造業の強みは言うまでもなく「現場」である。Seasar2がやってきた,ソフトウエア工学のコンセプトを現場のニーズに合わせて実装するというプロセスは,言わば「摺り合わせ」だ。日本発のソフトウエアが生きる道は,現場からの視点にこそあるのではないだろうか。

【訂正】 掲載当初「米国で開発されたSpringフレームワーク」と記述しておりましたが「欧米で開発された」と訂正いたします。