■現在主流の地域情報化ツールは、プラットフォームと呼ばれるオープンな参加の仕組みを持ち、地域から地域へ、中央を経由せずに共同化・連携が進んでいる。国際大学GLOCOMの丸田一副所長/教授は、こうしたツールを活用した地域活動全体を一つの「地域づくりの道具」と表現する。同氏による“道具”の最新動向についての寄稿をお届けする。(編集部)

文:国際大学GLOCOM副所長/教授 丸田一

丸田一(まるた・はじめ)

早稲田大学理工学部建築学科卒業。UFJ総合研究所主席研究員などを経て、2005年7月より現職。関心領域は、情報社会学、地域情報化研究、情報文明論。地域情報化活動の支援団体であるCANフォーラムの事務局長も務める。主な著書は『地域情報化の最前線.自前主義のすすめ』(岩波書店)、『「知の創造」の進化システム.原型としてのインターネット空間』(東洋経済新報社)、『2005年日本浮上』(共著、NTT出版)など。2006年4月に『地域情報化 認識と設計』(共編著、NTT出版)を出版予定。

※ この記事は『日経BPガバメントテクノロジー』第11号(2006年4月1日発行)に掲載された記事に一部加筆したものです。

 地域情報化は、大分県のコアラや群馬県桐生市の渡瀬ネットなど、パソコン通信を活用した草の根活動から始まった。その後、これらの活動は自治体の首長などを巻き込んで独自の発展を遂げていく。その一方、90年代後半にインターネットが普及したことで、新しい動機や発想による地域活動が各地に数多く出現した。

■地域活動全体が一つの「地域づくりの道具」に

 現在の主流は、これら地域情報化の「第2世代」である。(1)プラットフォームと呼ばれるオープンな参加の仕組みを持ち、(2)ある地域課題の解決に特化し、(3)それらの地域活動全体が一つの「地域づくりの道具」となっている、という共通した特徴がある。

 これを“道具”と呼ぶ理由は、一つは直面している地域の課題を解決する際に、極めて有効なツールだからである。例えばこれまでは、地場産業衰退や中心市街地空洞化など地域が直面してきた深刻な課題に対して、霞ヶ関や在京大手企業がソリューション・ツールを提供してきた。

 しかし、それは効かない薬だった。なぜなら症状は患者によって少しずつ違うからであり、患者である地域を診ることなく処方箋を決めていたからである。また、患者自身も治ろうとする意志が希薄だった。それに比べ、この新しいツールは試行錯誤を重ねながら地域が自前で開発したもので、その地域や地域課題に適合しているばかりか、ツールを使う地域自らの当事者意識を高める効用がある。

 “道具”と呼ぶもう一つの理由は、それが生まれたご当地だけでなく、同じ課題を抱える他の地域へ水平伝播し、そこでも十分に効果を発揮するからである。

■同じ課題を抱える他地域へ 水平伝播し効果を発揮

 ただし、他地域がこうしたクセのある道具を使いこなすには、当地の風土や人々を知る必要がある。従って道具の移転は、例外なく盛んな地域間交流を伴って進められる。こうして「地域づくりの道具」は中央を経由することなく、P to P(注1)ならぬL to L(local to local:地域から地域)に伝播していく。

(注1)P to Pは、Pier to Pier(ピア・ツー・ピア)の略で、不特定多数の個人間で直接情報のやり取りを行うインターネットの利用形態を指す。P2Pと表記することもある。

 まずは「富山インターネット市民塾」「住民ディレクター活動」「鳳雛(ほうすう)塾」という典型的な「地域づくりの道具」を三つほど取り上げ、「道具の仕組み」と「道具の伝播」を紹介したい。さらに、プラットフォームのサービス対価を核とした“道具”のユニークな収支・ビジネスモデルについても言及したいところであるが、これら詳細については、拙著『地域情報化の最前線』(岩波書店)などを参照して頂きたい。