文:石堂一成(東京コンサルティング代表取締役社長)

 短期集中連載の最終回となる今回は、「自治体の情報システムに関する実態調査(注)の結果より、システムの自然な使い易さや利用の自由度を高めるための取り組みを分析した。

■住民への配慮は進みつつあるが、職員に配慮する意識は低い

(1)住民向け
 自治体の住民向けWebサイト、電子申請・届出などにおいて、利便性・操作性への配慮は進みつつあるものの、まだまだ改善の取り組みが不足している。

 サイト内検索機能は70.1%の自治体が導入しているものの、それ以外の取り組みの実施率は5割を下回る。視覚障害者などのためのアクセシビリティへの配慮(45.6%)、利用者が使いこなせる範囲への機能の絞込み(35.8%)、画面・操作手順のユニバーサルデザインへの配慮(35.5%)と続く。最も低調な取り組みはシステムのレスポンス高速化で、実施率は20.8%にとどまった。

(2)職員向け
 職員向けのシステムについての利便性・操作性については、住民向けの配慮よりもさらに取り組みが不足している。最も実施率の高い施策は、利用者が使いこなせる範囲への機能の絞込みであるが、48.3%と5割を切っている。

 以下、レスポンスの高速化 (30.1%)、利用者自身が画面構成を変更できるようにする(23.9%)といった取り組みが続く。また、シングルサインオンを実現している自治体は22.4%、モバイル端末等を利用しての庁外からの情報アクセスを実現している自治体は6.2%にとどまった。

■「住民にやさしい自治体」ほど電子申請の利用率が高い傾向

 このように、自治体においてシステム利用者の利便性・操作性に対する配慮はまだまだ不十分である。しかし、少数派ながら、利用者に対する配慮の進んだ自治体も現れつつある。

 今回の調査で、住民向けのシステムの使いやすさに関する設問の選択肢5項目(図1)のうち、4項目以上の取り組みを行っていると回答した「住民にやさしい自治体」は、全体の18.6%だった。「住民にやさしい自治体」では、ユニバーサルデザインやアクセシビリティへの配慮も着実に実施している。

図1●ユーザー利便性への各施策の実施率 (住民向け・複数回答) 

 こうした「住民にやさしい自治体」では、効果も現れている。例えば、電子申請・届出の利用率を見てみよう。電子申請・届出を実施している「住民にやさしい自治体」では、その利用率が25%以上の団体が24.4%を占める。他の自治体では、利用率25%以上と回答した団体は6.6%に過ぎない。ユーザー視点で利便性・操作性を考慮する姿勢が電子申請・届出の利用率の高さにつながっていると考えられる。

 ただし、「住民にやさしい」という要素だけが、オンライン利用率の向上につながっているわけではない。「住民にやさしい自治体」の中でも、オンライン利用率が10%に満たない自治体は6割を超えるからだ。電子申請・届出の利用率の向上に結びつけるには、利便性・操作性の改善だけでは限界があり、手続き自体の簡素化やサービスの充実なども並行して進める必要があると考えられる。

 他方、「職員にやさしい自治体」——職員向けのシステムの使いやすさに関する設問の選択肢6項目(図2)中で4項目以上の取り組みを行っていると回答した自治体は、全体の6.7%にとどまった。

図2●ユーザー利便性への各施策の実施率 (職員向け・複数回答) 

 「職員にやさしい自治体」のほとんどでは、利用者が使いこなせる範囲への機能の絞り込みやシングルサインオンを実現している。また、庁外からの情報アクセスを実現している自治体も4分の1に達する。

■IT投資のチェックと利用者配慮に相関関係

 今後の電子自治体の推進に当たっては、ユーザー視点の徹底が必要である。特に、住民向けの分野では、窓口での手続をそのままオンラインに置き換えるという発想をやめ、利用者への配慮を優先したシステムのあり方を考える必要がある。必要であれば、ユーザーである住民、企業の意見を聞くのも良い。

 なお、住民・職員のどちらの切り口にしろ、「人にやさしい自治体」では、人口30万以上の大規模自治体の比率が高く、4割を占めている。利用者への配慮は、必ずしも大規模な投資を必要とするものではないが、予算面での余力の有無がある程度、取り組みのレベルに影響しているとも考えられる。とはいえ、小規模ながら「人にやさしい自治体」も、もちろん存在する。重要なことは、限られた予算の中で優先度を付けて、うまく投資を行うことだ。

 実際、「人にやさしい自治体」では、他の自治体に較べ、システム化投資の評価のレベルが高い。住民向け、職員向けの各々で「人にやさしい自治体」の5割強が、IT投資案件のチェック・評価に関して「テーマ内容、費用・効果など必要な点を網羅する実質的な評価を行っている」と回答している。他の自治体での同様の回答は3割弱に過ぎない。「人にやさしい自治体」では、全体最適の視点から、予算を振り分けていると考えられる。


(注)「自治体の情報システムに関する実態調査」とは

日経BPガバメントテクノロジーと東京コンサルティングによる共同調査。47都道府県と国763市・区(2005年5月3日時点)の計810団体を対象に実施。調査票は2005年6月下旬に郵送で送付し、2005年3月末時点での状況について回答を依頼した。有効回答数は417団体(回収率51%)。AP(アプローチ:システム化プロセス・体制)、AR(アーキテクチャ:システムの基本構造)、AC(アチーブメント:システム化効果)の3分野について分析し、全分野がAランクの「AAA」60団体を選出した。調査結果はWebサイト「ITpro 電子行政」および「自治体システム格付けサービス」で公開中。