写真  ディーツーコミュニケーションズの岸良征彦・コミュニケーションプロデューサー
写真  ディーツーコミュニケーションズの岸良征彦・コミュニケーションプロデューサー
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 モバイル広告が,成長するインターネット広告の影で,着実に存在感を強めている。2006年3月には,USENが広告モデルのインターネット放送「GyaO」を携帯電話向けに提供し始めたことでも注目が集まった。電通とNTTドコモの合弁企業でモバイル広告を手がけるディーツーコミュニケーションズの岸良征彦・コミュニケーションプロデューサーに,モバイル広告の現状を聞いた(聞き手は山根 小雪=日経コミュニケーション

−−モバイル広告市場の現状は。

 電通が調べた日本の広告費によれば,2005年のモバイル広告市場は288億円となる。伸び率はインターネットに及ばないが,年1.6倍のペースで着実に成長している。インターネット広告が96年に本格化したのに対して,モバイル広告が本格化したのは99年から。モバイル広告は3年遅れでインターネット広告を追っている状況だ。

 インターネット広告のれい明期は,広告掲載基準がなかったり,バナーのサイズなど広告出稿時に必要な決まりがなく,トラブルが発生することがあった。モバイル広告にはインターネット広告の経験が生かされているため,つまづくことなく成長を続けている。

−−モバイル広告にはどんなものがあるのか。

 大きく4種類に大別できる。(1)インターネット広告のバナーのモバイル版であるピクチャー型広告,(2)公式サイト内の広告専用ページで展開するコンテンツ型広告,(3)メール広告,(4)通信料無料で携帯電話端末に送るメッセージ広告−−である。

 インターネット広告のバナーとモバイル広告のピクチャー型はほとんど同じものだが,効果は全く異なる。インターネットの場合,バナーをクリックする人は増えている,モバイルではピクチャー型広告をクリックして企業サイトに飛ぶユーザーが非常に多い。さらに,企業サイトのURLを携帯メールで友人に送るなど,広告にもかかわらずクチコミで広がる点が特徴だ。

 メッセージ広告のレスポンスの速さも,パソコン向けのメール広告とは比べ物にならない。メッセージを送信して1時間ほどで反響が出てくる。企業の宣伝担当者も驚くほどだ。

 インターネットと携帯電話は文化が違う。携帯電話あてのメールは,パソコンと異なりユーザーかすぐに見る習慣がある。若い世代は,広告でもコンテンツとしての価値を見出しているようだ。企業サイトでも面白いと思えば,みるみるうちにクチコミで広がるのはそのためだ。

 電気通信事業者協会(TCA)によれば,携帯電話の契約数は約9000万。そのうち7800万がブラウザやメール機能を持っている。これは国内のパソコン台数と比べてもそん色ない数字だ。テレビや新聞ほどのリーチ力はないが,商品やサービスのマーケティングに利用する場合,モバイル広告は非常に大きな効果を発揮する。しかし,モバイル上にサイトを持つ企業はインターネットの10分の1以下。モバイル広告の効果に気付いていない企業は多い。

−−モバイル広告の“文化”はどうやって築かれてきたのか。

 パケット料金の定額制が導入が大きなきっかけだ。それまでは通信料を気にしながら利用していたため,手軽にサイトを見つけられる公式サイトへのアクセスが中心だった。だが定額制になったことで,自分の好みのサイトを時間をかけて探せるようになった。現在では,公式サイトへのアクセス数が4割で,一般サイトが6割と逆転している。

 受け手の変化も大きい。女子高生は携帯電話での文字入力をブラインド・タッチする。当社の新入社員に聞いても,予測変換を駆使することでパソコンよりも携帯電話でメールを打つ速度の方が速いという。こうした若い世代にとっては,一般サイトか公式サイトかはもやは関係がなく,コンテンツに魅力を感じるかどうかだけが判断基準なのだ。