ARPANET(アーパネット)は,インターネットの起源となったネットワークとして有名である。この“インターネットの起源”には,二つの意味が含まれる。

 一つは,ARPANETを核として,さまざまなパケット交換ネットワークが接続されていったものが「インターネット」と呼ばれるようになったという歴史的な事実である。そしてもう一つは,インターネットの技術的な基盤となったことである。

 技術的に見ると,インターネットはパケット交換ネットワークの一種である。そこでパケット中継の役割を担うのがルーターだ。そのルーターが備えるべき機能の基本的なアイデアは,ARPANETのパケット交換機「IMP(Interface Message Processor)」の開発によって培われた。

パケット交換の技術的基礎を築く

 IMPは,米ハネウェルの汎用コンピュータ「Haneywell 516」をベースに作られたパケット交換装置である。装置の開発は,米BBN(Bolt Beranek and Newman)が中心となって手掛けた。

 IMPをベースにしたARPANETのアーキテクチャは次のようなものだった。通信の主体となるホスト・コンピュータは,拠点ごとに置かれたIMPに接続する。各拠点のIMPは,米AT&Tから借りた50kビット/秒の通信回線でお互いにつながり,パケット交換ネットワークを構成する。つまり,離れた場所のホスト・コンピュータ同士は,IMPで作られたパケット交換ネットワークを経由して通信する。ちなみに,このネットワークは,ARPANETの一部を成すネットワークという意味で,「サブネット」と呼ばれていた。

 通信の信頼性を確保するために,IMP同士をつなぐ経路は必ず2本以上用意した。ある経路が使えなくなっても,別の経路でパケットを送れるように,常に経路表(パケットの転送先を示したデータベース)を最新のものに更新する「動的経路制御」が考え出された。

 このほか,エラー・チェックとパケットの再送処理,輻輳(ふくそう)を回避するためのフロー制御など,信頼性の高いパケット交換通信を実現するためのさまざまな機能がIMPに実装されていった。これらは,すべて今のルーターが備えている。

 1969年,IMPの1号機がカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に運び込まれた。さらに,スタンフォード研究所(SRI),カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB),ユタ大学に順次IMPが設置された。この4台のIMPで,ARPANETが本格的に稼働を始めた。

 なお,IMPで培われた技術は,インターネットだけでなく,通信事業者の公衆パケット交換ネットワークのベースになったことも付記しておこう。

 IMPを開発したBBNは,その技術をベースにして,世界初の公衆パケット交換サービスを手掛ける子会社,米テレネットを設立した。そのテレネットの技術に基づいて,公衆パケット交換ネットワークの標準規格「X.25」が作られたのである。その後,世界各国でX.25に基づいた公衆パケット交換サービスが次々に立ち上がっていった。