高橋くん:
営業一部のIT推進委員。営業マンとして働く一方,システム部と協力して部内のネットワーク・システムの面倒を見ている。 | |
島中主任:
システム部主任。社内ネットワークを運用管理する中心人物。各部署のIT推進委員からの声を社内ネットに生かすよう活動している。 |
今日からスタートするこの連載では,架空の企業をモデルに,企業ネットワークの運用管理を誌上体験していく。社内システムをどう運用し,障害にどう対処し,各部署からの要求に対してどのようにシステムを拡張していくのか——。情報システム部の業務だけでなく,各部署との連携を追いながら,企業ネットワークの運用管理業務を理解していこう。
○×商事に勤務する高橋くんは,この4月で3年目の営業マン。営業一部の中ではIT好きで通っており,そのためか,営業部門のIT推進委員に任命されてしまった。
IT推進委員とは,今年度から新設された役職で,その名の通り各部署のIT化推進の面倒を見る仕事である。本来の業務とは別に,兼任の格好で,各部署ごとに一人ずつ任命される。
先日,その第1回会合が開催された。高橋くんと面識のある情報システム部の島中(しまなか)主任が説明を行ったが,高橋くんにはちんぷんかんぷん。そんな様子を見ていた島中主任が,営業一部のIT化とIT推進委員の役割について事後のヒアリングをしたいというので,高橋くんは島中主任が来るのを待っていた。
島中:こんにちは。高橋くんが昨日の説明会で困った顔をしていたようなので,ちょっと寄ってみたんだけど,どうだったかな?
高橋:ええ。なんか大変な仕事を任されちゃったような気がしています。ぼくでも務まるんでしょうか?
島中:大丈夫だよ。それじゃあ,もう一度IT推進委員の役割をおさらいしておこうか。IT推進委員の役割で最も重要なのは,ぼくら情報システム部と各部署をつなぐパイプ役になってもらうことなんだ。例えば,全社のインフラに関する決定事項を速やかに現場に反映するために,実際に作業したり,現場の人をサポートする仕事をしてもらうのがIT推進委員なんだ。
高橋:そこまでは昨日の話でわかりました。
島中:逆に,現場からシステムに関する要望が上がったとき,それを実現するためにぼくら情報システム部との連携窓口になってもらうこともIT推進委員の重要な役割なんだよ。
システム部と部署の担当者が役割分担
島中主任は説明しながら,ホワイトボードに体制図を描いた(図1[拡大表示])。
○×商事のシステムやインフラは,島中主任が所属する情報システム部で企画・運営・保守を行っている。しかし,情報システム部だけではすべての部署をサポートするには人手が足りない。そこで,情報システム部をサポートする役職としてIT推進委員が新設されたわけだ。
島中:具体例で見ていこうか。去年,全社的にすべてのパソコンにウイルス対策ソフトをインストールしたことを覚えているかな?
高橋:はい。あのときはインストール・マニュアルがあるのを忘れていて,いきなり島中主任に電話して怒られた覚えがあります。
島中:そうそう。高橋くんのようにマニュアルに書いてあることを情報システム部に問い合わせてきた人が多かったんだ。ウチは人手が足りないので,みんなにわかるようにインストール・マニュアルを作ったつもりだったんだけどね。で,それが今回の体制になると,マニュアルの作成までは従来と同じなんだけど,その先が変わってくる。IT推進委員向けにマニュアルの説明会を実施するんだ。そして,実際に全社員にマニュアルを見ながらソフトをインストールしてもらうときに,IT推進委員には現場でサポートしてもらうことになる。
高橋:じゃあ,マニュアルを完璧に理解しておかなきゃいけないんですか?
島中:いや,そんなことはないよ。サポートの中で高橋くんでもわからないことがあれば,その時は情報システム部へ連絡してくれればいいんだ。
高橋:えーと,全社的なシステムに関する作業をサポートすることもあるんですか? 例えば,インターネットに公開しているWebサーバーの運用を手伝うとか…。
島中:それはないから安心していいよ。IT推進委員へお願いする範囲は決まっているんだ。
管理対象の区分けを明確化
続けて島中主任は○×商事のネットワーク構成図を描いた(図2[拡大表示])。
島中:○×商事のネットワークは,この本社内にあるサーバー・ルームを中心に,本社の各フロアやほかの営業所に広がっている。この中で,情報システム部が管理するのは,本社であれば各フロアのレイヤー2スイッチ*まで。IP-VPNサービス*で接続されている各営業所の場合は,IP-VPN用ルーターの先にあるレイヤー2スイッチまでになる。具体的に書き出してみよう。
【情報システム部で管理するもの】
・グローバルIPアドレス*
・ドメイン名*
・インターネット接続回線と付随する機器
・IP-VPN回線と付随する機器(本社,拠点)
・プライベートIPアドレス*(ネットワーク・アドレス)
・基幹システム,情報系システム,メール・システムの各サーバー,付随するアカウント類
・全社共通アプリケーションのバージョン
【IT推進委員/各部署で管理するもの】
・パソコンの台数,機種
・プライベートIPアドレス(割り振られたネットワーク・アドレス内のホスト・アドレス)
・部署で独自に導入したソフトのバージョン
・部署内にあるスイッチやリピーター・ハブ*
高橋:うわあ,ぼくが管理しなきゃならないものも結構いっぱいあるんだなあ。
○×商事では,IT推進委員に任される管理対象は全社インフラへ影響を及ぼさない範囲に限られている。部署内や各拠点の中のものでも全社インフラに影響を及ぼす可能性のある作業は情報システム部が対応する。
社内システムを安定稼働させるためのポイントは情報システム部が押さえ,それ以外の部分については,IT推進委員の裁量である程度システムを拡張できるようになっている*。
島中:だいたいイメージはつかめたかな?
高橋:おかげさまで,よくわかりました。そうだ,ウチの部長から言われている懸案事項が一つあるんですけど…。あっ,いけない。客先に打ち合わせに行く時間だ。今ちょっと計画していることがあるので,今度相談させて下さい。
島中:いつでもどうぞ。
メール・システムにトラブル発生!
いくつかの部署でIT推進委員からのヒアリングを終えて職場に戻った島中主任。席についてメールをチェックすると,届いているはずのメールがまだ届いていないことに気が付いた。送信元の人に,念のために再送してくれるように依頼したが,普段であれば1分も待たないうちに届くはずのメールが今日に限っては5分待っても届かない。島中主任のパソコンのメール・ソフトは,受信ボタンを押した時から,ずっと待ち状態となったままである。
●筆者:佐藤 孝治(さとう たかはる) 京セラコミュニケーションシステム データセンター事業部 東京運用監視課・責任者 社内,社外のシステム・インフラ導入業務を経て,現在はデータ・センターの構築・運用管理に従事している。 |