auブランドの携帯電話事業が好調なKDDIの繁野高仁氏

 いまのITベンダーは工数をベースとした価格競争に陥ってしまい、導入するシステムの“品質”が軽視されています。ここでいう品質とは、長く使い続けられる柔軟性のこと。この問題は、ITベンダーを利用する我々企業にも責任があります」。

 2000年10月にDDI、KDD、日本移動通信の3社合併を経て誕生した総合通信サービス会社であるKDDI。出向していたDDIポケット(現・ウィルコム)から2000年6月にDDIへ復帰した繁野氏は、基幹システム統括部長として3社の情報システムをスピーディーに統合した。同氏はDDIとDDIポケットの会社設立に伴う情報システムの立ち上げ作業にも携わった経験がある。

 豊富な経験と実績を買われて2003年4月、社長直属のCIO(最高情報責任者)職である執行役員 情報システム本部長に就任した繁野氏は、「ACE(Architecture、Customer satisfaction、Efficiency)」という基本原則を情報システム部門に示した。情報システムの構造、顧客満足、効率を重視せよ、という意思表示だ。翌年度には「Information security(情報セキュリティー)」を加えて、「AICE(アイス)」とした。

 これら4要素のうち、繁野氏が特に大切だと考えるのが構造である。「当社のビジネス全体の基本構造をきちんと把握していなければ、柔軟性の高い情報システムは作れません。通信業界は市場環境が目まぐるしく変動するものの、顧客がいて、販売店があって、加入契約を結んで、といったビジネスの基本構造は何年も変化していないのです」

 繁野氏はCIOに就任早々、10人程度のチームを組んで1枚のA3用紙にビジネスの基本構造を図示させた。作業には1カ月以上かけた。現在もこのときの図をベースに、情報システムの追加・改良を続けている。A3用紙を使ったのは、全体を俯瞰(ふかん)しやすいと考えたからだ。情報システム部門のみんなが目指すべき方向を可視化したわけである。

 そんな繁野氏が最近力を入れているのが、IT業界の未来を切り開く活動だ。同氏は、いまの日本では企業のIT部門で活躍できる人材が育ちにくいと感じている。この現状を打破すべく、多数の業界の会合に主要メンバーとして参加。ITベンダーとユーザー企業、大学など教育機関が業界のあるべき姿を積極的に議論できる場を作ろうと、精力的に動き回っている。


Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・トップに対してだけでなく、部下に対しても、信用・信頼されるように心がけています。情報システム部門の仕事は、ほかの業務と比べて複雑であり定量化しにくいからです。だからこそ、もしもミスを犯したとしても、正直にさらけ出すことが大切。そもそも誰にだって失敗することはあります。

・IT投資の費用対効果を経営陣から聞かれることが多いのですが、説明に苦労しています。例えば自動車なら値ごろ感が世の中にありますが、企業の情報システムにはない。すべてパッケージ・ソフトウエアで済むなら話は別ですが、実際には各社独自に開発が必要な部分があるものです。

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・いまのITベンダーは工数をベースとした価格競争に陥ってしまい、導入するシステムの“品質”が軽視されています。ここで言う品質とは、長く使い続けられる柔軟性のこと。この問題は、ITベンダーを利用する我々企業にも責任があります。ユーザー企業の情報システム部門に、品質を評価して、しかるべき対価を支払おうというマインドやスキルが足りない。だから、ITベンダーはジレンマに陥ってしまう。

・この問題に関しては、大学など教育機関が果たすべき役割も大きい。企業の情報システム部門で活躍できる人材を育成してほしい。そこで一昨年からJABEE(日本技術者教育認定機構)に参加し、人材育成に有効な大学講義の審査をしています

・日本では魅力的なキャリアパスを描きにくいため、情報システム部門でがんばろうという人材が減ってきています。日本の多くの企業がこの問題で悩んでます

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞
・創刊時からよく読んでいるのが日経コンピュータ。IT関連のトピックスを把握するのに役立ちます。また、特集に時々興味深いテーマがあり、そんなときは読み込みます

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
朝日新聞
産経新聞
日本経済新聞
毎日新聞
読売新聞
Yahoo! JAPAN

 このほか、世の中の動きや識者の主張やコラムをチェック。CIOとしての仕事に直結するような情報は、インターネットや新聞・雑誌よりも、様々な人づき合いから入ってくる新鮮な情報を重視しています

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・情報処理学会のなかの「情報システムと社会環境研究会」に運営委員として4年間参加。今年度は連続セミナー「ITアーキテクト・CIOのための情報システム最前線」のトータル・コーディネーターとして関与
・経営情報学会の「情報システム工学研究部会」に主査として参加。4月21日にITベンダー28社の協賛を得てセミナーを実施します。多数のITベンダーと利用企業の情報交換の場にしたい
・関東IBMユーザー研究会に副会長として参加
・JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)に理事として参加

◆ストレス解消法
・気軽になんでも言い合える仲なので、夫婦でだべっているのが、一番のストレス解消法になっています
・ゴルフが好きなので、練習によく行きます

■変更履歴
 本文3段落目で「AICE(エース)」を「AICE(アイス)」に,Profile of CIOのITベンダーに対する要望の記述で「そこで昨年からJABEE・・・」を「そこで一昨年からJABEE・・・」に,それぞれ訂正しました。
[2006/04/18 22:00]