「あー,くやしい!」。同僚が声を上げる。何かと思ったら,迷惑メール(スパム・メール)を開いてしまったという。メール本文を表示させただけなので実害はないが,件名にだまされて開いたことが悔しいらしい。

 件名は,「管理者からのお知らせ」。システム管理者からのお知らせだと思いきや,中身は,お金持ちの奥様との“出会い”を提供してくれるサイトの管理者からのお知らせだった。

 このケースのように,最近のスパム・メールは件名の付け方に工夫を凝らしている。スパム・メールに対する認識が高まっている現状では,内容に即した件名を付けると,中身を開かれずにゴミ箱へ直行となることが多い。そこで,内容とは無関係であっても,とりあえず開いてもらえるような件名を付けるスパム・メールが増えているように思う。

ありがちな“固い”件名が効果的

 2004年の暮れごろから,この兆候はあった。当時も「先日はありがとうございました」といった件名の,一見まともに思えるスパム・メールを受け取ることがあった(関連記事)。

 とはいえ,こういったメールはまれで,大多数は“直球勝負”。怪しげなビジネスを宣伝するスパムでは,いかに儲かるかを,出会い系サイトのスパムでは,いかに高確率で素晴らしい人に会えるのかを,怪しげな薬品を売り込むスパムでは,いかに効果があるのかを,そのままズバリ伝える言葉を件名にしていた(露骨なモノが多いので,具体例については差し控える)。

 それが最近では,本文に目を通さずにはいられないような件名を付けるスパムが目立つ。例えば仕事で利用しているアドレスあてのメールなら,以下のような事務連絡風の“固い”件名が効果的だろう。これに限らず,本稿で挙げる件名は,いずれも実際に筆者が受け取ったスパムに付けられていたものである。

「【緊急】ご確認下さい。」
「【重要】ご確認くださいませ」
「急用でこちらに連絡しました。」
「急を要するお知らせです≪至急ご覧下さい≫」
「追加事項:再度ご連絡いたしました。」
「再度ご連絡させて頂きます。」

 筆者も,すぐに読んでほしいメールの件名の冒頭には【緊急】や【重要】といった言葉を付けることが多い。そのため,送信元アドレスが多少怪しくても,本文を確認せずにはいられない。

 「再度ご連絡いたしました」といった言葉にも筆者は“弱い”。以前受け取った大事なメールを,こちらが見過ごしているのではないかと思うからだ。慌てて本文を読むと,お誘いの言葉が一行と,リンクが一行。慌てさせられて悔しいと思う半面,本当の「再度のご連絡」ではなくてよかったと,ほっとしてしまうのもまた事実。

 ほかにも,以下のような件名は,仕事関係のメールだと思って確認してしまった。

「その節は大変失礼致しました。」
「先週はありがとう」
「Re:お疲れ様です」
「よろしくお願いします」
「先日の件ですが」

 しかし,開いて出てくるのは,“素晴らしい”サイトの宣伝文句とそこへのリンクだけである。

あいさつや人名で油断させる

 あいさつの類も,実際のメールの件名によく使われるので開いてしまいがちだ。

「ご挨拶」
「突然申し訳ありません。」
「たいへんご無沙汰しております。」
「お久しぶりです。」

 件名に名前を盛り込むことも“効果”がある。取引先や上司・同僚,知人などにその名前の人が実際にいれば,まず間違いなく開くはず。

「宮澤よりお願い申し上げます。」
「井上です。大切な事ですので」
「渡辺ですが」
「石川といいます。」

 こんな話を知人にしたら,その知人は,件名に自分のアドレスが含まれているメールは,つい開いてしまうと話す。不特定多数ではなく,自分自身に送られてきたメールに思えるところがミソのようだ。筆者にも,そのようなスパム・メールはよく届く。

「Fw: (メール・アドレス)」
「(メール・アドレス)様へ転送依頼」

 ニュース・メールに見せかけたスパムもたまに受け取る。例えば,少し前には以下のような件名のスパムを受け取った。

「中日・福留が出場 WBC日本代表30人決まる」

 中身を開くと,どこかのニュース・サイトから無断引用したと思われる,件名どおりのニュースが数行書かれていて,その下に,“魅惑的”な言葉とリンクが記されている。

 ニュース・メールを購読しているユーザーは多いので,ニュースに見せかけるのはユーザーを油断させようのに効果がありそうだ。上記の例はスパムだが,攻撃サイトへ誘導するような偽のニュース・メールが海外では確認されている(関連記事)。無害なニュース・メールに見えても,罠が仕掛けられているかもしれないのだ。ご用心。

 こうしてリストアップしてみると,最近のスパムが付けているような件名のメールを自分も送っていることがわかる。今後は,件名には自分の名前や具体的な内容を含めて,スパムと間違えられないようにしたいと思う。そうそう,【緊急】や【重要】を使うのもできるだけ控えよう。