企業ユーザーにとってデータの保護は常に重要な問題であり,データ保護用の製品は豊富に出回っている。その中でも最近よく耳にするのが「継続的データ保護(Continuous Data Protection,CDP)」をうたう製品やソリューションである。これは,サーバーやクライアント上のデータを継続的にバックアップし,任意の時点のデータをリストア可能にするソフトウエアやハードウエアのことだ。今回は米LiveVaultの「InSync」と米NSI Softwareの「Double-Take」を比較しながら,CDP製品を選択する際のポイントなどを紹介しよう。

 CDP製品の中には,デスクトップ・パソコンの保護を対象とした500ドル未満のスタンドアロン・ハードウエア・システムから,SAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)に対応した100万ドルもするような本格的なデータ・レプリケーション・システムまで,様々な種類がある。今回紹介する「InSync」と「Double-Take」は,いずれもサーバー・ベースのソフトウエアだが,CDPテクノロジを全く対照的な形で具現しており,多くの面でCDPの両極に位置している。この2つの製品を知ることで,CDPテクノロジとはどのようなものか,またどのような製品があなたの企業のデータ保護構想に適合するかが理解できるだろう。

中小企業向けサービスである「LiveVault InSync」

 中小企業におけるデータ保護の最も大きな問題は,信頼できる安全で確実な形で,定期的にデータをバックアップすることである。規模の小さい企業では,専任のシステム管理者を置くことが難しい。そのため中小企業のシステム管理者が,サーバーのバックアップのような重要ではあるが決まり切った雑用に費やせる時間は,非常に限られている。

 LiveVault InSyncのオンライン・バックアップ機能やリカバリ・サービスは,このような環境向けの製品である。筆者はLiveVault InSyncを,データ保護のための「完全自動追尾型」ソリューションとして,最も完全に近いものだと考えている。LiveVault InSyncは,選択したデータをオフサイトのストレージにインターネット経由で直接バックアップするサービスである。保護対象サーバーはWindows Server 2003,Windows 2000,Solaris,Linuxで,サーバーには軽量なエージェントをインストールする。設定は,簡単なWebベースのインターフェースを使って実行する。

 LiveVault InSyncの物理的な制約は,保護可能なデータ量がインターネット接続のネットワーク帯域幅によって制限されるということだけである。送信と受信の両方のデータ転送速度が,データのバックアップおよびリストアの効率に影響を与える。

 LiveVault InSyncのセットアップは,とても簡単だった。自分のアカウントでLiveVault InSyncのWebサーバーにログオンし,(LiveVaultはサービス購入後にアカウントをセットアップする),「New Computer」のアイコンをクリックし,「LiveVault InSync agent for Windows 2003」をダウンロードする。これを保護対象のWindowsサーバーにインストールする。この作業の所要時間はサーバー1台2~3分であり,その大半はサーバーごとに一意な暗号化キーの生成に費やされる。インストール終了後にサーバーを再起動すると,サービスが利用可能になる。

 保護対象サーバーを追加する際は,LiveVault InSync Webサーバーに再びログオンする。保護対象の各サーバーのバックアップ・ポリシーを設定し,そのポリシーを保存すると自動的にバックアップが開始される。データをリカバリする場合は,単純にWebコンソールを開き,サーバーにリストアするファイルを選択するだけで良い。LiveVault InSyncソフトウエア・エージェントが,バックアップおよびリストアの両方に関して,必要なオフサイト・ストレージ・サーバーへの接続を管理する。

Exchange Serverのバックアップ/リストアにも対応

 筆者は4つのフォルダ,139のファイルを含む,合計513MBのディレクトリ・ツリーをリストアした。LiveVault InSyncは複数の画面を持っている。例えば,バックアップおよびリストアに関連するレポート画面や,バックアップの設定画面などである。Windowsのファイル・システム上のファイルのリストアだけでなく,LiveVaultはExchangeのメールボックスやパブリック・フォルダのリストアもできる。ただしデータベースを個別にリストアすることはできない。

 LiveVault InSyncは,あらゆる業務データに対して継続的なデータ保護を必要とする中小企業に適したソリューションだと言える。サービスは利用が容易であり,必要なサポートも最小限で済むため,専任のシステム管理者などがおけない企業ににとって理想的である。

製品名:LiveVault InSync
長所:セットアップおよび使用が容易。必要なテクニカル・スキルは最小限で済む。
短所:高速なインターネット接続回線が必要。大量のデータ処理には向かない。
評価:5点(5点満点)
価格:月額119ドルより。
推奨用途:LiveVaultは平均的な量のデータを保護する必要がある中小企業に最適なバックアップ・ソリューションである。
連絡先:LiveVault

 (訳注)「LiveVault InSync」は,日本でのサービスを提供していない。日本におけるほぼ同種のサービスとしては,NTTコミュニケーションズの「Secure Smart Storageリモート・バックアップ・サービス」(保護対象10Gバイト時で月額5万円から)や,トライアングル・スピリットの「障害・災害対策ソリューション」(保護対象10Gバイト時で月額2万円から)などがある。

サーバー向けに定評があるレプリケーション・ソフト「Double-Take」

 NSI SoftwareのDouble-Takeは,セキュリティや可用性,データ保護の性能の割に,設定やサービスの運用が驚くほど容易である。Double-Takeはリアルタイムかつバイトレベルのデータ・レプリケーション機能を提供し,ポイント・イン・タイム・リカバリ(直近のレプリケーション・データだけでなく,過去の特定の時点のデータのリストア)が実行できる。Double-Takeは,中小企業および大企業のどちらにも適した,非常にフレキシブルなデータ・リカバリ・ソリューションである。

 Double-Takeの対象OSはWindows Server 2003,Windows 2000 Server,Windows NT 4.0などである。必要なディスク容量は,レプリケーションを実行する対象のデータ量に依存する。

 筆者はDouble-Takeのインストール・ウィザードを使用して,このソフトウエアを2つのサーバーにインストールし,データ・レプリケーションの設定を行った。所要時間は30分だった。ExchangeやSQL Serverなどのアプリケーションに対するデータ保護や,各アプリケーション・サーバーのフェイル・オーバー設定などの複雑な作業には,もう少し時間がかかる。Double-Takeは,Exchange向けの設定ウィザードを用意している(Exchange Server 2003とExchange 2000 Serverに対応)。SQL Serverの設定に関しては,詳細なガイドラインを用意している。

 Double-Takeには,マイクロソフト管理コンソール(MMC)のスナップインも用意されており,MMCを使ってDouble-Takeの全タスクを管理できる。テストでは,2つのサーバーを使って,1Gバイトのデータの単純なミラーを実行した。変更頻度の高い状況をシミュレートするため,約10%のデータを10分おきに変更するように設定した。筆者のLAN環境では,リモート接続のサーバー上でこれだけ頻繁にデータ変更が発生しても,Double-Takeは問題なく動作した。

 次に2つのサーバーがT1接続されているように設定してWAN接続をシミュレーションした。Double-Takeは,接続帯域の50%まで使用できるように設定した。レプリケーション対象データに関しては,10分ごとに約1%が変更されるように設定した。レプリケーション・プロセスを管理コンソールからモニターしたところ,Double-Takeが問題なくデータをコピーし,帯域幅の制限も設定通りに実行していることを確認した。Double-TakeのWANデータ・レプリケーションでもデータの圧縮機能を利用できる。

 Double-Takeは様々な機能を提供しており,完全なCDPや高可用性ソリューションを検討しているシステム管理者にとって最適な製品である。高機能なデータ・レプリケーションを実現するとともに,主要なアプリケーションにも対応しており,サーバーやアプリケーションの完全なフェイル・オーバーも実現できる。また,直感的で使いやすいインターフェースも備えている。様々な環境のデータをレプリケートする必要がある企業や,Microsoftのクラスタ環境をサポートする必要がある企業,大規模なストレージのレプリケーションが必要な企業にとっては,Double-Takeは卓越した費用対効果が得られる製品であろう。

製品名:Double-Take
長所:強力な機能セットと直感的なインターフェース。様々なインフラストラクチャ設定に対応する卓越したサポート。
短所:中小企業にとっては価格がネック。
評価:4点(5点満点)
価格:2495ドルから。
推奨用途:Double-Takeは様々なビジネス・ニーズに対応する,一考の価値がある製品である。 連絡先:NSI Software

 (訳注)日本でのDouble-Takeの販売元はCTCSP。価格は1台当たり50万4000円である。