筆者は原価計算システムの制作&販売をしているので,企業の経営者から「コスト削減のポイントは,どこにありますか?」と頻繁に問われます。
 どこにあるのでしょうか。
 ずいぶん前から,電気代節約を目的として,昼休みどきは全館消灯する企業も珍しくなくなりました。昼食後,薄暗がりの部屋で静かに過ごす社員の方々を見ていると,音を立てずに廊下を歩くこともコスト削減の一環なのかと勘ぐってしまいます。
 部下に向かって整理整頓を口酸っぱく唱える経営者に,逆に質問したいものです。「社長さんご自身は,コストの垂れ流しをしていませんか」と。
 お手許に貸借対照表がありましたら「負債の部」といわれるところを見てください。貴社では銀行からの借入金の残高が,どれくらいあるでしょうか。

 中小企業は総じて,銀行からの借入金に大きく依存する傾向にあります。
 中小企業庁から発表されている『中小企業の財務指標・平成15年版』 を見たところ,業種ごとの「借入金依存度」は次のようになっていました。


建設業 57.1%
製造業 64.7%
情報通信業 53.3%
運輸業 57.6%
卸売業 55.0%
小売業 66.6%
不動産業 67.5%
飲食・宿泊業 77.3%
サービス業 60.0%


 借入金依存度とは,短期借入金・長期借入金・手形割引高の3つを合計して,総資産で割った比率です。総資産は,流動資産と固定資産の合計額です。
 上記の数値を見て分かるのは,中小企業ではすべての業種において,総資産の半分以上が「借入金」で占められていることです。飲食・宿泊業はなんと,総資産の4分の3以上が「借金まみれ」の体質になっています。
 「製品1個あたりのコストは,いくらか」といったことにこだわる前に,銀行借入金に対して発生する「支払利息」という名のコストの垂れ流しが行なわれていないか,まずはそこから見直しを行なってください。
 支払利息に関するコスト削減運動は,企業内で最大の権限を持った社長しか取り組むことができません。そこに,支払利息というコストの大きな特徴があります。

「タカダ先生,そういいますけどね。銀行からの借入金が無ければ,運転資金が不足するし,満足な設備投資も行なえないんですよ」と反論する経営者もいるでしょう。
 そういう時は,さらに質問を重ねます。
「運転資金の求め方は知っていますか? 設備投資を行なうときは,収益還元法やディスカウント・キャッシュフロー法などに拠っていますか?」
 おそらく,ほとんどの場合,社長の「勘と経験」によって判断しているはずです。多少なりとも財務に明るいはずの顧問会計事務所が,月に一度は会社に顔を出してくれていても,その実態は伝票整理と税金計算しかしてくれない。社長自身が孤独な戦いを強いられている事実には同情を禁じ得ません。

 銀行からの借入金については,貸借対照表の負債の部に明確に計上されるので,数字に明るくない人間でもそれなりに問題意識が働きます。怖いのは,リース取引です。
 中小企業では,銀行に差し入れる担保不動産がなく,財政基盤も弱いため,銀行はなかなか融資に応じてくれません。導入したい機械装置があるのに,経営者としては指をくわえているしかないのか。

 そのようなことはありませんね。こういう場合,機械装置をリースする方法があります。
 ところが,リース取引は,実質的に借入金と同じであることを理解していない経営者が多いようです。
 銀行から借り入れを行なって機械装置を購入する場合,貸借対照表の固定資産には機械装置の金額が計上され,負債には銀行借入金が計上されます。借入金に伴って発生する利息は「支払利息」として損益計算書に計上されます。これを「原則法」といい,決算書上に計上された金額を見れば,経営者としては身を正さざるを得ないでしょう。
 ところが,リース会社から機械装置をリースした場合,貸借対照表の負債の部には何も計上されません。損益計算書に「賃借料」の名目で費用が計上されるにとどまります。これを「例外法」といい,例外法の下では「コスト意識の欠如」が生まれます。
 原則法と例外法は,法律上の形式が異なるだけであって,経済的な実態はまったく同じです。毎月支払っているリースの賃借料のうち,その4分の1程度は「支払利息」に相当します。
 リース契約は,非常に簡単に組むことができます。決算書からはリース取引がどのくらいあるかをうかがい知ることができないため,コスト管理に対する意識が薄れます。
 リース取引がダメだといっているわけではありません。リース取引は「甘い毒薬」であるからこそ,コスト管理は徹底されるべきであり,その管理は社長にしかできないことを肝に銘じて欲しいのです。製品のコストや利益管理を論ずるのは,その後です。

「タカダ先生,支払利息という点で見れば銀行借入金とリース取引は同じだということがわかりました。では,どちらも利用できる場合,どちらを選択したほうが有利なのですか?」

 実にいい質問です。銀行借入金とリース取引の優劣については,次回のテーマとして取り上げることにしましょう。


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■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/