■Windows Server 2003 R2では,「分散ファイル・システム(DFS)」の機能が大幅に強化された。管理機能が強化されて使いやすくなったほか,データの同期が,新しい圧縮技術によって効率的になった。DFSを使えば,地方の支店など遠隔地に設置したファイル・サーバーの可用性を大幅に高められるだろう。

(日経Windowsプロ2005年12月号「期待の即戦力 Windows Server 2003R2の全貌」より)

(坂口 裕一)


 Windows Server 2003 R2は,地方の支店など遠隔地に設置したファイル・サーバーが抱えがちな問題を解決する機能を備えている。

 支店にはシステム管理者を配置できないことが多く,サーバーに障害が発生しても,すぐには復旧できない(図12)。また,データのバックアップができていなかったとしても,確認できない。さらに,WAN回線を介して,支店から本社のサーバーにアクセスした場合は,レスポンスが遅く使い勝手が悪い,といった問題もある。このような遠隔地ならではの問題は,R2で強化された分散ファイル・システム(DFS)を利用すれば解決できる。

図12●支店にあるファイル・サーバーの問題点

 DFSは,Windows 2000 Serverからあった機能だが,R2では管理やデータの同期機能が改善されている。新たに追加された[DFSの管理]コンソールでは,DFS名前空間のフォルダを階層表示でき,設定が容易になった(図13)。従来は,コマンド・ラインから設定しなければならなかった。データの同期機能には,新しい圧縮技術の「Remote Differential Compression」が搭載され,差分データを圧縮転送することで,効率的になった。

図13●DFS名前空間の設定画面

仮想的な共有フォルダにアクセス

 R2の機能で,ファイル・サーバーの障害対策とバックアップを実現する仕組みを具体的に見てみよう。

 まず支店のクライアントは,ファイル・サーバー上の共有フォルダに直接接続するのではなく,DFS名前空間サーバーが管理する仮想的な共有フォルダに接続するよう設定しておく(図14)。

図14●Windows Server 2003 R2を使った本社—支店間ファイル共有
支店のクライアントは名前空間にある仮想的な共有フォルダに接続する。普段は,支店内のファイル・サーバーへ接続されるが,障害時には本社のサーバーに切り替わるため,業務を継続できる。

 次に,仮想共有フォルダをデータが実際に格納してあるファイル・サーバーと関連付ける。関連付けは複数のファイル・サーバーとの間で可能になっている。図14では支店内にあるファイル・サーバーと,本社にあるファイル・サーバーに関連付けている。ここで関連付けたサーバー同士は,常時データの差分をやり取りしていて,データが同期されるようになっている。

 クライアントから共有フォルダへの接続要求があった場合,DFS名前空間サーバーが関連付けたサーバーに接続要求を転送する。通常は高速なLANで接続された支店内のサーバーへ接続される。しかし,支店サーバーに障害があった場合,DFS名前空間サーバーは,クライアントからの接続を本社サーバーへ接続するように自動的に切り替える。こうした仕組みによって,管理者が不在の支店でも,障害対策を実施できる,というわけである。

 さらに,本社と支店ファイル・サーバー間は,データが常時同期されているので,バックアップの役割も果たしている。支店サーバーのハードディスク障害で,データを消失した場合でも,本社のファイル・サーバーには同期されたデータが残っている。

差分データだけを転送して同期

 ファイル・サーバーのデータを同期する仕組みは,R2で大幅に改善された。マイクロソフトは「既存のコードを捨てて,全く新規に実装した」と説明している。

 キーになるのは,Remote Differential Compressionという圧縮技術である。この技術は,ファイルの差分だけを送受信して,同期を取れるようにする。例えば,「2MバイトのPowerPointファイルのタイトル部分だけを変更した場合,ネットワークを流れるデータ量は60Kバイトだけで済む」(マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部Windows Server製品グループの中川哲マネージャ)という。大塚商会の林スペシャリストは,「Windows 2000 Serverでは,適切に設定しないとサーバー間の同期がいつまでも完了しないという不具合があった(該当サイト)。R2のDFSでは,トラブルが少なく,顧客に積極的に薦められる機能になったのではないか,と期待している」という。

 分散ファイル・システムとファイル・サーバーの同期機能は,本社で作成した大容量のファイルを支店で利用してもらいたい場合にも有効だ。本社のユーザーがLANで接続された本社内のファイル・サーバーにコピーしておくと,支店のファイル・サーバーにも自動的に同期される。これを支店のユーザーが,ファイル・サーバーから取り出すと,WAN回線を介して本社のファイル・サーバーにアクセスする必要がないので,共有フォルダへのレスポンスが速く保たれる。

より高機能な他社製ソフト

 ファイル・サーバーの障害対策は,サード・パーティ製ソフトでも実現できる。例えば,米NSI Softwareが開発した「Double-Take」は,1サーバー当たり48万円と高価だが,R2を超える高い機能を備えている(図15)。

図15●米NSI SoftwareのDouble-Takeを使ったときのファイル共有
Double-Takeは,待機系のファイル・サーバーに常時データをコピーして同期する。障害時は,待機系に切り替える。待機系では,IPアドレスやマシン名を引き継げるので,クライアントの設定を変更せずに,ファイル・サーバーへのアクセスを継続可能。価格は,1サーバー当たり48万円。

 Double-Takeは,主系のWindowsサーバーのデータを待機系サーバーに常時同期し,障害発生時にはIPアドレスやコンピュータ名を待機系に引き継いで,処理を継続する。R2のDFS名前空間に対応するものはないものの,サーバーの障害時にクライアントの設定を変更せずにファイル・サーバーへの接続を継続できる点や,サーバー間でデータの同期を取る点が似ている。

 さらにDouble-Takeは,複数の主系サーバーの処理を1台の待機系サーバーが引き継ぐ,といったことが可能だ。一時的に処理速度は低下するが,待機系サーバーを複数用意する必要がない。対象となるサーバーもファイル・サーバーのほか,Exchangeやデータベース・サーバーに対応している。Double-Takeを販売するCTCエスピー技術本部技術1部の別所雄三部長は,「障害対策はR2の機能で十分というユーザーもいるかもしれないが,さらに高い機能を望むユーザーもいるだろう。OSにこうした機能が組み込まれることで,障害対策にさらに注目が集まることを期待したい」という。