今回は,前回 紹介した「ブレインセンター」の活用事例を紹介しよう。管理職以上が全員参加する「経営会議」,未来の幹部社員を育成する若手社員研修,それにテレビ会議システムを活用した販売員研修である。


経営会議には全管理職が参加

 情報は「広く開示して共有しなければ意味が無い」と頭では分かっていても,経営幹部から一般社員まで,全員が本当に情報を共有している企業は少ないのではないだろうか。

 日頃から私は,企業と社員の関係を「患者と医師」にたとえて説明している。つまり,患者の病状を一人の医師だけが熟知していても適切な治療はできない。看護婦や検査技師にいたるまで,治療に携わる全スタッフが知っている必要があるのと同じように,企業の健康状態,つまり経営内容の実態を全社員に公開し,是正・改善策を的確に示唆しなければ,円滑な企業経営など望めない。

 40年近くも前から情報共有の必要性を認識していた私は,ブレインセンターの完成を機に従来の役員会を発展解消し,全管理職を集めた「経営会議」を月に1回開催することとした。機密漏えいを危惧する役員達からは当然反対の声が上がったが,そのリスクと情報を公開しないことによる経営の遅れを天秤にかけて熟考した結果だった。

 紙の資料は一切配らず,月次決算の報告に始まり,生産・出荷状況,販売動向,気象予測にからめた消費動向予測(第24回 で説明)まで,「メリーの現状」をグラフや写真を駆使して様々な角度から可視化し,明らかにしていく。もちろんテレビ会議を使った全国支店との情報交換も忘れない。

 密室で一部の役員や上級管理職だけが情報を握っているよりも,会社の大部分を構成する一般社員にまで情報を伝えていくこと,彼らにも経営意識を持ってもらうことが何よりも重要である。一般企業であれば役員しか知らないような情報も全管理職に公開し,彼らから一般社員に伝える方法で,全社での情報共有と全社員の奮起をうながしている。


テレビ会議研修で地方と東京の情報格差を解消

 ネットワーク型組織(第7回 で説明)においては全員が情報の「受け手」であると同時に「発信者」でなければならない。各自がそれぞれの五感でとらえた現象を大脳で解析し,その意味を正しく理解して他者に伝える。つまり全社員の知的レベルアップが必要不可欠であり,当社では様々な研修を通して常に社員を刺激し続けている。

 「メリー塾」は,40歳未満の若手社員を対象に「メリー流経営」の継承と自己研さんを目的として,ブレインセンターで不定期に開講している研修会であり,未来の幹部を育成する場とも私は考えている。私自身が若手社員の前に立って経営者の思いを伝えることがあれば,外部から著名な講師を招くこともある。研修の参加者が率先していくつかのプロジェクトを立ち上げ,業務にまつわる様々な問題の改善と解決に取り組む試みも継続しており,その成果は徐々に現れてきている。

 一方,全国百貨店に派遣している販売員の研修は,中元や歳暮,バレンタインなど主要イベントに先立ち,年に数回開催している。以前は経費の問題で全国から東京に販売員を集めることは難しかった。しかしテレビ会議システムの採用で,参加者が地方の各支店に集まれば,本社と同内容の研修を同時に受けることができるようになった。東京と地方間の情報格差が解消されたばかりか,部内の意志統一が図りやすくなった。

 販売員の研修は,商品知識,セールストークや陳列方法,棚卸,計数管理,そしてMAPS(MAry's POS System) による各店の販売動向など多岐に渡る。基本的に社内講師が講義を担当し,本社との温度差をできる限りなくすように努力している。もちろん私もこの貴重な機会を活用し,顔を合わせる機会の少ない販売員とのコミュニケーションを深めるためにも,テレビ会議システム経由ではあるが,私の考えを生の声で伝え続けている。

 次回は,当社で実践中の“今日からすぐに出来る”安価で確実な情報公開・共有法をご紹介したい。

外部からの見学者も多数訪れる。食品にとどまらず,流通業から大学まで,実績を伴う同社のIT経営は注目を集めている(左上)。「成功の極意を社外に惜しげも無く”公開”することもまた”メリー流”」という原社長(右下)


→原 邦生 バックナンバー一覧へ

■原 邦生 (はら くにお)

【略歴】
 メリーチョコレートカムパニー,代表取締役社長。1935年東京都生まれ。青山学院大学文学部卒業後,同社に入社。取締役,常務取締役,代表取締役専務を経て,1986年より同社代表取締役社長に就任。1958年に日本で初めてバレンタインセールを企画。現在の巨大なバレンタイン市場の「生みの親」でもある。営業畑を歩んで来た一方で,独自の社内情報システムも一貫して推進してきた。2004年より,経済産業省が推進するIT経営応援隊(中小企業の経営改革をITの活用で応援する委員会)の本委員会会長,東京商工会議所常議員(CSR委員会委員長)などを務める。

【主な著書】
『家族的経営の教え』(アートデイズ),『今週の提言』(ストアーズ社),『この商いで会社をのばせ!』(かんき出版),『朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『続・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社)『新新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『小さな変化で,大きな流れを読む 朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『感動の経営~想いを贈る企業を目指して~』(PHP研究所),『社長は親になれ!』(日本実業出版社)など。

【関連URL】
メリーチョコレートカムパニーのWebサイト http://www.mary.co.jp/