「セミナーで集客して来場者リストを渡しても、営業がフォローしない」「マーケティング部からのリストで訪問しても、無駄足ばかり踏まされる」―。こうした状況は多くのソリューションプロバイダが経験しているだろう。
 セミナーの開催や展示会への参加は、新規開拓を強化する際の常とう策である。手間もコストもかかるが、個人情報保護時代にあってユーザー企業の担当者が自ら情報を提供してくれる貴重な場になった。だが、せっかく見込み客の情報を集めても、思うように成約案件が出ないという悩みがあるのも事実だ。
 必要なのは、集客から受注に至るプロセスを、途切れさせないこと。営業はマーケティングの視点を、そしてマーケティングは営業の視点を取り込むことで、成約率ひいては売り上げのアップが可能になる。



 ERP(統合基幹業務システム)ベンダーのグロービア インターナショナル(東京都港区、中須祐二社長)は現在、セミナーなどによる集客から見込み客の抽出、そして営業がアプローチを開始するまでのプロセスを再構築中だ。同社が毎年、もっとも多くの名刺を集めるのは、製造業ユーザーが多く集まる大規模な展示会。だが、同社の松本歩マーケティング マネージャーは「集客を担当する我々も、受注活動を行う営業部門にも、せっかくのリストを生かし切れていないという気持ちがあった」と明かす。

 集客手段そのものを見直すソリューションプロバイダも増えている。ある外資系ERPベンダーのマーケティング担当者は、「単独でセミナーを開いても、なかなか人が集まらない」とこぼす。このため、単独でのセミナー開催を極力減らし、複数のベンダーが参加する共同セミナーや展示会への参加に切り替えているという。

 IT業界の販促セミナーに的を絞ったコンサルティングを手掛けるナレッジサイン(東京都中央区)の吉岡英幸社長は、「ここ2年ほどの間に、セミナーの投資効果を見直すソリューションプロバイダが増えた」と指摘する。吉岡社長がコンサルティングを始めた3年前には「どの顧客も、セミナーに多くの人数を集めれば、つまりリストの件数が増えれば、それでよいと考えていた」。しかし今は、どれだけ成約に結びついたか、つまり「成約率」を重視するソリューションプロバイダが増えている。

営業とマーケの断絶に終止符を

 集客プロセスを見直そうとすると、必ず直面する問題がある。マーケティングと営業の部門間の断絶だ。マーケティングや営業戦略のコンサルティングを手掛けるシンフォニーマーケティング(東京都千代田区)の庭山一郎社長は、こう指摘する。

 「マーケティングはセミナー来場者などに対し同じレベルの製品情報などを提供、さらに詳しい情報を希望する見込み客には営業が個別に対応する。このとき、もっと詳しい情報を欲しがっている見込み客を選別するのはマーケティングの仕事だ。つまりマーケティングと営業は、前工程と後工程の関係だ。しかし、ここが断絶しているケースが実に多い」。

 営業力に定評のある大手システムインテグレータでも、営業とマーケティングの間に対立があった。庭山社長が聞いてみると同社の営業は、週15件の客先訪問を義務付けられていた。だが不満はそこではなく、「15件のアポを入れるために300~400回もの電話が必要なこと」だった。両部門を巻き込んだプロジェクトで、集客やリストの絞り込み方法を見直した結果、15件のアポ入れに必要な電話は70件に減った。すると両部門の関係はすぐに改善したという。「マーケティングに不可欠な事例記事を作るときも、営業が積極的に交渉してくれるようになった」(庭山社長)。

 マーケティングと営業の距離を縮め、見込み客をいかに的確に絞り込むか。それには4つのポイントがある。「両部門の共通認識の醸成」「マーケティングによる、見込み客のフォロー」「Webサイトなどを活用した論理的な絞り込み」、そして少人数による“勉強会”など、「成約率を高める集客イベントの工夫」である。

そもそも営業が欲しいリストとは

 グロービアは、集客プロセスを見直す過程で、営業のメンバーと繰り返し話し合った。「そこで初めて分かったことは多い」(松本マネージャー)という。例えば同社の商談の特徴として、初回のアポさえ入れば、次回の訪問で提案に持ち込めるケースが多いと分かった。それならマーケティングは、「訪問できる見込み客の抽出」を目標にすればよいわけだ。

 リストの絞り込みについて不満があることも分かった。例えば、IT予算が想定コストを大幅に下回るなど、ターゲット外の企業が混じっていた。「きちんと説明できる絞り込みのロジックを作り、それも説明した上で、フォローを頼まないと駄目だと分かった」(同)。

 リストの質が上がれば、無駄な電話や訪問を減らせる。そうすればマーケティングと営業の関係は格段によくなる。グロービアの西日本担当営業である池田克巳氏は、「信頼できるリストがあれば、仕事の楽しさも大きく変わる。見込み客が少ないと、無理に売り込みたくなる。しかし信頼できる見込み客がある程度確保できれば、別の案件が急に消滅したような場合でも余裕が持てる」と話す。




本記事は日経ソリューションビジネス2006年3月30日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。