●究極の顧客至上主義を貫くニッコウトラベル
●究極の顧客至上主義を貫くニッコウトラベル
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「スーパー・リラックス・カー」と「セレナーデ!)号」は、日本人の体型や行動に基づいた設計になっている。スーパー・リラックス・カーは大型バスながら座席数はわずか30。セレナーデ!)号にはヨーロッパの客船にはめずらしい湯船がついている
「スーパー・リラックス・カー」と「セレナーデ!)号」は、日本人の体型や行動に基づいた設計になっている。スーパー・リラックス・カーは大型バスながら座席数はわずか30。セレナーデ!)号にはヨーロッパの客船にはめずらしい湯船がついている
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 ニッコウトラベルのツアーに一度参加した人がもう一度参加する確率は7割を超す。高いリピート率の背景にあるのは、しっかりとした顧客との結びつきだろう。

 顧客情報をデータベースで管理し、地区の担当者が数カ月に一度は電話をするようにしている。もっとも電話では売り込みはしない。世間話で終わることも多い。ただし、夫婦の健康状態などの情報はさりげなく聞いておく。体の調子が悪く、すぐに旅行に行けなくても1年後には参加できるようになるかもしれないからだ。

 1つの地区に担当者は2人置く。片方がいなくてももう1人が対応できるようにするためだ。「高齢者は自分について分かってくれている人がいることで信頼してくれる」(久野木社長)。

 こうした電話による情報収集から生まれたサービスもある。ツアーの参加者には配偶者が寝たきりのため、旅行を断念するというケースも少なくない。ニッコウトラベルでは、介護サービス会社の協力を得て、旅行期間中の家族の介護を代行するサービスを提供している。

 ほかにも、旅行前に体調を崩した参加者はキャンセル日から4カ月以内にほかのツアーへ変更する場合、キャンセル料が半額になるという仕組みを設けている。高齢者は体調を崩しやすいが、自由な時間が多いため、元気になった後、日程の調整もしやすい。

 レベルの高い添乗員や行き届いたサービスといったソフト面だけがニッコウトラベルの強みではない。疲れにくい旅を演出するための大規模な投資を行ってきた。「疲れるから」というのが高齢者が海外旅行を避ける大きな理由の1つだからだ。

 今年4月には14億円を投じて「セレナーデ!)号」という河川客船を就航させた。ヨーロッパのライン川、マイン川、ドナウ川は運河によって結ばれている。その流域は全長3300km。北海から黒海まで9カ国にまたがっている。セレナーデI号を現地の船会社に保有させ、ニッコウトラベルが優先的に利用できる契約を結んでいる。来年秋の「セレナーデII号」の就航も目指している。

 わざわざ自前の客船を建造したのも顧客至上主義の一環だ。ヨーロッパの客船の浴室には湯船が付いていない。しかし、一般的な日本の高齢者はシャワーより湯船でゆっくりお湯に浸かりたい。また現地の船はヨーロッパの人々の体型に合わせて設計されており、日本人には過ごしづらい。

群を抜く平均単価

 さらに、「スーパー・リラックス・カー」と呼ぶ大型の観光バスも10台用意している。段差や座席が高齢者の乗り心地を最優先した作りとなっている。特注のため1台4000万円もかかった。ニッコウトラベルの団体旅行の参加人数は25人が上限となっている。特注のバスは大型にもかかわらず30席のみなので、参加者のスペースは最大限確保している。

 ニッコウトラベルのツアーの1人当たり平均単価はおよそ55万円。飛行機の機内でビジネスシートに座る顧客が多いなどの理由もあるが、競合他社をしのぐ価格だ。

 シニアを対象とした旅行サービスは大手も立ち上げているが、顧客のほとんどは60代前半だという。平均年齢が71歳というニッコウトラベルのリピーターたちは競合がうまく取り込めなかったり、手間がかかり過ぎて採算が取れないと判断した層なのかもしれない。その結果、顧客至上主義を貫いたニッコウトラベルが社会の高齢化という追い風を一番多く受けているのだろう。

 ニッコウトラベルの「社長よりお客様が大事」という精神には学ぶべき点が多そうだ。


久野木 和宏 社長
くのき かずひろ氏●1946年、神戸市生まれ。73年、日本広告(現ニッコウ企画)設立。76年、日航トラベル(現ニッコウトラベル)設立。2000年9月、東証第2部上場。

手間のかかる旅行だけを手がける

 日本の大手旅行代理店が企画するツアーは分刻みでせわしない。年配の人が参加すると足手まといになり、「バスで待っていてください」と言われてしまうこともある。本人も迷惑かけたくないから我慢する。当社はこうした層に口コミで広がって伸びてきた。お客様の数は青天井。まだまだ伸びる。ライバルは競合他社ではなくお客様だ。

 サラリーマンはつい上司のほうを見ながら仕事をしてしまうが、「お客様からお金を頂いている」という意識を持たなければならない。最終面接をお客様にお願いするのもその意識が大事だからだ。旅行後の満足度アンケートで添乗員の報酬を決めるようにもしている。お客様に選ばれて入社し、お客様に給料を決めてもらう。私も年に数回ツアーに同行するし、旅行の説明会でお客様の前に立つ。

 28年ほど前に顧客情報管理に用いるためコンピュータを導入した。当時としては画期的だった。今もデータベースを活用しているが、データ入力するためにことさらアンケートへの記入をお客様にお願いしたりはしない。お客様への電話には力を入れている。「聞く」ことがシニアのお客様にはなりより大切。社員が会ったり電話で話したときに雑談のなかから少しずつ分かる範囲で情報をインプットしていく。(談)