もはやストレージ製品の主流は,サーバーに直接つなぐタイプから,「SAN」や「NAS」といったネットワーク接続型に移行しつつある。この製品分野には最近,SANを低コストで構築できる「iSCSI」という選択肢も加わり,多様化が進んでいる。連載最終回は,ネットワーク型ストレージ製品を迷わず選べるように,それぞれの基礎知識や最新のスペックを紹介する。

 複数のサーバーからネットワーク経由で共有可能なSAN(Storage Area Network)やNAS(Network Attached Storage)——。こうした「ネットワーク型ストレージ」は,今,市場で急速にシェアを伸ばしている。

 ネットワーク型ストレージの人気の理由は,「サーバーのバックアップを効率化できること」「容量アップや24時間365日運用に対応しやすいこと」「管理コストが抑えられること」など,様々なメリットがあるからだ。これらは,サーバーごとに分散していたストレージを統合し,ネットワーク上で共有することにより実現できる。

ストレージの利用効率が50%から80%に向上

 サーバーに直接つなぐ従来型のストレージ(サーバー内蔵のハードディスクや外付けRAID*1装置,テープ装置など)は,装置そのものの単価が比較的安く,導入時のコストも低い。

 しかし,サーバーの台数が増えるにつれ,それらに接続するストレージの数も増え,バックアップや空き容量の監視といったストレージ管理の負荷もどんどん高まっていく(図1[拡大表示])。ストレージの利用率もサーバーごとにばらつきがあり,システム全体で見たときの利用率は意外に低いのが実情である。

 こうした問題を解決する手段として,ネットワーク型ストレージのSANとNASが登場した。各サーバーに分散したストレージを統合して共有すれば,ストレージ関連の管理を大幅に軽減できる。ストレージ全体の利用率も,従来は平均50%程度とされるが,ネットワーク型ストレージに切り替えると80%程度にまで改善可能という。

 このように,ネットワーク型ストレージのメリットは分かりやすい。だが,関心度が高いにもかかわらず,いまだに現場では「NASやSANの違いが分かりにくい」という声を聞くことが多い。しかも,低コストでSANを構築できる「iSCSI」という新しい技術が登場し,ネットワーク型ストレージの選択肢が増えた。そこで連載最終回は,ネットワーク型ストレージの基礎をひも解きながら,SANやNAS,iSCSIのメリットやデメリットを解説する。

◆SAN(Storage Area Network)

 クライアントPCとサーバーをつなぐイーサネットLANとは別に,サーバーとストレージを専用ネットワークで接続した環境を「SAN」と呼ぶ。一般に,ストレージ専用ネットワークとそれに接続した各種のストレージ装置を総称して呼ぶことが多い。

 SANにはいくつかの種類があるが,広帯域幅でデータ転送効率が高い「ファイバ・チャネル」をデータ経路として利用する「FC-SAN」が現在の主流である。ファイバ・チャネルのケーブルには銅線か光ファイバが使えるが,一般には速度と長距離接続で有利な光ファイバが利用されている。

独自のアドレスでSAN上のノードを識別

 まずはSANの基礎的なポイントを押さえておこう。FC-SANでは,そこに接続するサーバーやストレージ装置はそれぞれ「ノード」と呼ばれている。ノード間の通信には,「ノード名」や「ポート・アドレス」といった識別子を使っている。

 各ノードのファイバ・チャネル用アダプタには,「ノード名」という64ビットのアドレスが割り当てられている。これはネットワーク・カードのMACアドレスのように,アダプタ(あるいはストレージ装置)のメーカーが世界で1つしかない固有のノード名を付与している。

 アダプタには,1つ以上の通信用ポートがある。FC-SANのポートには,電気的な論理信号を光ファイバに適した信号に変換して送り出す電子回路「トランスミッタ」と,光ファイバの信号を電気的な論理信号に変換して取り込む電子回路「レシーバ」がペアで備えられている。

 各ポートには,64ビットの「ポート名」がメーカーにより割り当てられている。ただし,FC-SANの通信で使用するあて先や送信元のアドレスは24ビットである。そのため,実際にはSANにノードを接続した際,ファイバ・チャネル・スイッチ*2などにより24ビットの「ポート・アドレス」が動的に割り振られる。これはDHCPによってIPアドレスが割り振られる仕組みに似ている。

 ファイバ・チャネルの通信は全二重で,送信と受信を並行処理できる。データ転送速度については,1Gビット/秒,2Gビット/秒,4Gビット/秒の規格が確定している。8Gビット/秒以上の次世代規格も既に承認されている。

耐障害性の高いネットワーク形態も選択可能

 SANのネットワーク形態は主に3つある(図2[拡大表示])。最も基本的な「ポイント・ツー・ポイント」は,各ノードのポート間を1対1で接続する形態である。各ノードが備える複数のポートを使って,サーバーやストレージ装置を網状につなぎ,小規模なSANを構成することもある。

 「アービトレイテッド・ループ」という接続形態は,ノード間をループ状につないでいくのが特徴である。あるノードの1つのポートを隣のノードのポートへ次々と接続してループを形成する。比較的高価なファイバ・チャネル・スイッチがなくても複数ノードを接続できるため,経済的にSANを構築できる。最大接続ノード数は126(パブリック・ループ*3構成では127)となる。この接続形態では,全ノードが1つのループを共有するため,ノード数が増えると性能が低下する。

 FC-SANで最も多く利用されているのは「ファブリック」型だ。ファイバ・チャネル・スイッチと各ノードをスター状に接続する。各ノードが帯域幅を占有できるため,ノード数にかかわらず高速なデータ転送を実現できる。

 ファブリック型は,一部のノードに接続障害が発生しても他の接続に影響を与えず,可用性が高い。複数のスイッチをカスケード接続することで,大規模なSANにも対応する。最大接続ノード数は,論理的には約1678万となっている。

 このファブリック型の応用として,「デュアルファブリック」という耐障害性の高い接続形態もある。図3[拡大表示]のようにデータ・アクセス経路を二重化し,片側のファイバ・チャネル・スイッチやケーブルに障害が発生しても,自動的にもう片方の経路に切り替えられる仕組みだ。ファイバ・チャネル・スイッチの保守作業などを実施する際にも,デュアルファブリック構成ならサーバーからストレージ装置へのアクセスを止めずに済む。

サーバーごとに利用範囲を分けるゾーニング

 複数のサーバーがストレージ装置を共有するSAN環境では,「ゾーニング」と呼ぶ方法でサーバーとストレージ間のアクセス制御をしている(図4[拡大表示])。特定のサーバーからは特定のディスク・システム(またはディスク領域)しか見えないようにしたり,別のディスク装置へのアクセスを読み出しのみに制限したりできる。ストレージ全体のバックアップを実行しやすいように,バックアップ・サーバーに全ディスク装置へのアクセスを許可するような設定もできる。

 ゾーニングは,OSの異なるサーバーが同じディスク装置を共有する場合に,相互干渉を防止するためにも利用される。もし異なるOSのサーバーが同じディスク領域を共有した場合,これらのサーバーが当該領域のファイル・システムを破壊してしまう恐れがあるためだ。


吉岡 雄
日本ストレージ・テクノロジー マーケティング本部 シニアスペシャリスト