ネットワーク技術には,「ダイナミック」あるいは「動的」という言葉がよく出てきます。動的の英語が「ダイナミック(dynamic)」なのですが,どうも意味がピンと来ません。「ダイナミック!」というと石原裕次郎(古い?)みたいな豪快なイメージが浮かびますが,技術の言葉ですから豪快かどうかは関係ないはずです。実際のところは,どういった意味なのでしょうか。

「動的」の方がよく登場する

 動的の反対語は「静的(static)」ですが,ネットワーク技術の言葉としてよく見かけるのは動的(dynamic)の方です。

 ブロードバンド・ルーターなどがパソコンにIPアドレスを割り当てるときに使うdynamic host configura-tion protocol(DHCP),個人ユーザーがインターネットにサーバーを公開するときによく利用するダイナミックDNS(domain name system),ルーター同士が経路情報をやりとりするダイナミック・ルーティングなどが,すぐに出てきます。

 一方の静的の方はダイナミック・ルーティングの反対語であるスタティック・ルーティングのほかは,あまり目ぼしいものが浮かびません。SHCPやスタティックDNSといった用語は聞いたことがありません。どうやら,このあたりに何かヒントがありそうです。

 DHCPはIPアドレス関連の設定を自動化するためのプロトコルです。従来,IPアドレスはそれぞれのコンピュータに固定的に割り当てていました。しかし,DHCPを使えば,サーバーがIPアドレスを自動的に割り当ててくれます。ただ,どのIPアドレスが割り当てられるかは,そのときにならないとわかりません。

 次のダイナミックDNSは,サーバーのIPアドレスが変化するような環境で,ドメイン名を使ったアクセスを可能にする技術です。インターネットではドメイン名とIPアドレスの対応関係をDNSサーバーに問い合わせて知るしくみになっています。通常,ドメイン名とIPアドレスの対応関係はあまり変化しないので,DNSサーバーが持つデータベースは頻繁に書き換えないように作られています。ダイナミックDNSは,この点を改良して,ドメイン名とIPアドレスの対応関係に変更があると,DNSサーバーのデータベースを逐次書き換えるようにするしくみです。こうすることで,IPアドレスをたびたび変更しても,ドメイン名から正しいIPアドレスを探し出すことができます。

本来の機能はたいてい静的

 ここまで説明すると,そろそろ気づいた方もいらっしゃるでしょう。「動的」と言われる技術は,どれも静的である技術を前提に作られています。つまり,静的でなくても動作するように改良しているという共通点があります。

 この関係が,はっきりと出ているのがダイナミック・ルーティングとスタティック・ルーティングです。ルーティングは経路表と呼ばれる一覧表に基づいて,パケットの行き先を決めています。

 途中の装置が故障したり,新しいネットワークが加わるなどしてネットワーク構成が変わったら,管理者が手作業で経路表を書き換えるのが,スタティック・ルーティングです。一方のダイナミック・ルーティングは,ルーター同士が情報を交換することで,この経路表を自動的に書き換えます。

 dynamicの意味を辞書で調べると「staticの対語」という解説があります。ネットワーク技術の用語では動的に比べて静的はあまり登場しませんが,やはり対語として使われているのです。今後は「ダイナミック」という言葉が出てきたら「何かが静的ではないという意味かな?」と考えてみると理解が早まるかもしれません。