前回は,マーケット・イン/プロダクト・アウトに代わる新しい製品開発手法である「コンセプト・アウト/デマンド・イン」を紹介した。今回は,このコンセプト・アウト/デマンド・インを実践している企業をいくつか紹介しよう。

 まずは,Songbird(図1[拡大表示])というジュークボックス・ソフトを開発する米Pioneers of the Inevitable(POTI)だ。


図1 Songbirdの実行画面
MP3形式やAAC形式の音楽ファイルを演奏するなど,ごく基本的な機能だけが実装されている。メニューなどを日本語で表示することも可能。

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 Songbirdは,米Apple Computerの音楽再生/管理ソフトiTunesに対抗し,同等のソフトウエアをオープン・ソースにしたものである。2006年2月に無償ダウンロードが始まったときのバージョン番号は0.1(本記事を公開した3月27日時点での最新バージョンは0.1.1)。触ってみると,ほとんどの機能が「使えない」ことが分かる。つまり,これは「コンセプト」の発信なのである。機能は最小限で不完全であっても,はっきりしたコンセプトと方向性を打ち出すことで,多くの提携案件がきているという。コンセプト・アウトの分かりやすい例となっている。

 次は,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「mixi」を運営するミクシィだ。同社は2006年2月に社名を「イー・マーキュリー」から「ミクシィ」へと変更。Webサイトもmixiサービスと同様のフォーマットにして会社のアイデンティティをアピールしている。

 mixiの利用者数は2006年3月時点で300万人を超えているが,今なお「永遠にベータ・バージョン」として,日々バージョンアップを重ねる形の開発を繰り返している。これはmixiのページに,今でも「βversion」の表示があることからも分かる(図2[拡大表示])。


図2 mixiのWebページ左上にあるロゴ・マーク
「βversion」という表記が見える。

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 3つ目にご紹介したいのが,私が代表を務めるチェンジビジョンだ。永和システムマネジメントが開発してきたUMLによる「見える化」ツール「JUDE(ジュード)」を引き継ぎ,さらにプロジェクトの進ちょく状況を「見える化」するツール「TRICHORD(トライコード)」を現在開発中である。チェンジビジョンでは,開発者と利用者がコミュティを通してコンセプトとデマンドを交換し合う,「コンセプト・アウト/デマンド・イン」を製品開発の中心概念として推進している。

 JUDEはUMLエディタとして出発したが,2005年にマインドマップと呼ぶ思考・発想の記述法を取り入れ,コンセプト・ドリブン・デベロップメント(Concept Driven Development)を実現するユニークなモデリング・ツールとしての位置を築いている(図3[拡大表示])。JUDEは1999年から3カ月ごとに無償版のリリースを繰り返し,ひたすらユーザーの要望を取り入れてバージョンアップに努めてきた。おかげで現在のユーザー数は海外を含めて7万人を超えている。


図3 JUDEの実行画面
画面右上がマインドマップ。画面右下の2つはUMLのクラス図と状態遷移図である。

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 海外へ公開したところ,日本国内より大きな反響があったのもうれしい驚きだった。現在の週ごとのユーザー増加数は日本が1に対して海外が2(図4[拡大表示])だ。特に,ブラジルからのダウンロードが多い。ブラジルは国策としてオープン・ソースとJavaに積極的に取り組んでおり,JUDEはブラジルの大学を中心に幅広い人気を得ている。


図4 JUDEの登録ユーザー数の遷移
海外にも公開した2005年7月以降は,国内:海外=1:2の割合でユーザー数が増加している。

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 JUDEはpure Javaで開発されているものの,常に「使いやすさ」を最上位の価値に据えてチューンナップを繰り返してきた。このおかげで,機能が大幅に増えているにもかかわらず快適な操作感を維持している。

 では,このような「コンセプト・アウト/デマインドイン」型の開発を行う際に有効なソフトウエア開発手法とはなんだろうか? 次回はこの点について取り上げたい。


平鍋健児

株式会社チェンジビジョン代表。オブジェクト指向分析設計とプロジェクトの「見える化」を実践・推進する舞踏派コンサルタント。UMLとマインドマップを融合させたモデリング・ツールJUDEを開発中。