若手部員 貴子さん
  今からハブを新しく買うなら,リピータ・ハブじゃなくてLANスイッチよね。スピードもLANスイッチの方が速いと思うわ。  

若手部員 宇田くん
  でも,LANスイッチはリピータ・ハブよりも複雑な処理をしているから,その分遅くなる可能性もあるよ。実験で確かめてみようか。  



図1 リピータ・ハブとLANスイッチ,どちらが速い?
パソコン2台をリピータ・ハブかLANスイッチでつなぎ,パソコン間でファイルをコピーする時間を測定する。

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図2 パソコンのLANボードの設定で速度を10Mビット/秒に固定する
コントロール・パネルのネットワークからLANボードのプロパティを表示させて設定する。通常は自動でハブ側のスピードに合わせるようになっているが,実験の環境を合わせるために10Mビット/秒に固定した。

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 今回も前回に引き続き,リピータ・ハブとLANスイッチの違いを検証していこう。前回までで,しくみの違いは確認したので,今回は実際の性能比較だ。LANスイッチの方がリピータ・ハブよりも速そうだが,はたしてどうだろうか。

貴子:宇田くん,机の上がカタログだらけじゃない。どうしたの?

宇田:部署で使うハブの選定を頼まれたんだ。それで,いろいろと比べているんだ。

貴子:リピータ・ハブとLANスイッチのどちらにするの?

宇田:価格はそれほど差がないから,LANスイッチにしようと思うんだ。リピータ・ハブだと10Mビット/秒の10テン BASE-Tベースティー専用のものばかりで,100Mビット/秒には対応していないみたいだし,しかもLANスイッチの方が速そうだろう。

貴子:でも,10メガのイーサネット環境で使った場合,性能は変わらないんじゃないの。

宇田:そう言われると,不安になってきたな。LANスイッチはリピータ・ハブよりも複雑な処理をしているから,むしろスピードが遅くなってしまうかも知れないね。

貴子:じゃあ,実験で確かめてみましょうよ。

伝送速度を同じ条件に合わせる

宇田:でも,手元には10Mビット/秒のリピータ・ハブと,10Mまたは100Mビット/秒両用のLANスイッチしかないよ。このままだと,LANスイッチは100Mビット/秒で動作してしまうから,比較できないよ。

貴子:LANスイッチは伝送速度が自動で決まるタイプなのね。困ったわね。

宇田:そうだ。貴子さんが今の部署に異動して来る前に,先輩といっしょに実験したことを思い出したよ。LANスイッチにつなぐパソコン側で,10Mビット/秒に設定しておく手があるはずだよ。そうすれば,LANスイッチも10Mビット/秒になるはずだ。

 ここで実験環境を確認しておこう。2台のパソコン(PC1とPC2)を用意して,リピータ・ハブまたはLANスイッチに接続する(図1)。この環境で,PC1の共有フォルダに保存された約10Mバイトのファイルを,PC2が自身のハードディスクへコピーする時間を計測する。

 ただし,注意点がある。LANスイッチは100Mビット/秒のスピードに対応した製品が多いため,そのまま使うと100Mビット/秒でつながってしまう。そこで,今回はパソコン側のLANボードの設定を変更して,常に10Mビット/秒で伝送するようにした

 具体的には,コントロール・パネルのネットワークを開いて,ローカルエリア接続のプロパティを起動する(図2)。そして,起動したウインドウ中の構成ボタンを押すと,使用しているLANボードのプロパティが現れるので,詳細設定タブを選択する。すると,プロパティ項目中に,「Connectionコネクション Typeタイプ」や「Mediaメディア Typeタイプ」などの項目が出てくるので,それを選んで右側にある「値」エリアをプルダウンさせる。通常は「AutoSenseオートセンス」が選択されているはずだが,今回は「10Base-T」を選択する

リピータ・ハブの方が速い

宇田:テストはあっさり終わったね。結果を比べてみようよ(表1)。

表1 10Mバイトのファイルをパソコン間でコピーした実験結果

貴子:リピータ・ハブの方が速いわよ。差はそれほど大きくないけれど,コピー時間はリピータ・ハブ使用時が11秒弱なのに対して,LANスイッチ使用時は12秒以上かかっているわ。測定誤差ってことはないわよね。

宇田:同じテストを2回繰り返したけれど,2回ともほぼ同じ値になっているから,誤差とは考えにくいよ。でも,どうしてなんだろう。

貴子:前回の実験で,LANスイッチは,配下につながるパソコンのMACアドレスを覚えることを確認したけれど,その処理に関係しているんじゃないかしら。リピータ・ハブよりも処理が複雑な分,転送時間が長くかかったのよ。

 前回と前々回の復習になるが,リピータ・ハブはパケットを受信すると受信ポート以外の全ポートに転送する。一方,LANスイッチは受信パケットのあて先MACアドレスを読み取ってアドレス・テーブルと照合することで,あて先の機器がつながっているポートにだけパケットを転送する。また,受信パケットの送信元MACアドレスを読み取って受信ポートの番号と対にしてテーブルに登録する。

 つまり,LANスイッチはパケットを受信するたびに,アドレス・テーブルへ情報を登録し,テーブルを参照する。これらの作業を実施するには時間がかかるので,リピータ・ハブとの転送速度の差として表れたのである。