図●Intelが提唱する「エンベディッドIT」<br>仮想マシン技術を利用してセキュリティと管理性を向上させる。
図●Intelが提唱する「エンベディッドIT」<br>仮想マシン技術を利用してセキュリティと管理性を向上させる。
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 2006年3月7日から米国サンフランシスコで開催されたIntel Developer Forum(IDF)に参加してきた。今回のIDFはいつになく話題が盛りだくさんだった。その中でも筆者の興味を引く話題が,新マイクロアーキテクチャ「Core」と仮想化技術「Intel Virtualization Technology(VT)」についてだった。

 Intelは2006年第3四半期に,Coreマイクロアーキテクチャに基づくプロセッサとして,サーバー向けの「Woodcrest」,デスクトップ向けの「Conroe」,モバイル向けの「Merom」を出荷する(いずれも開発コード名)。これらは単位電力当たりの性能向上を目指したプロセッサで,Intelの消費電力に対する反省から生まれたという。

 1993年に登場した初代Pentiumの処理性能と1命令当たりの消費電力に比べて現在のPentium 4は,処理性能は約4倍になっているものの,1命令当たりの消費電力も約4倍になっている。これに対してCoreマイクロアーキテクチャに基づくプロセッサは,処理性能はPentium 4並みのまま,1命令当たりの消費電力がPentiumと同等にまで下がる。実際のプロセッサで比較すると,Woodcrestは,2.8GHz動作のデュアルコアXeonに比べて,処理性能で1.8倍,消費電力で35%減になるという。デスクトップ向けのConroeでは,3.4GHz動作のPentium D 950に比べて,処理性能は1.4倍,消費電力は40%減になる。

 2007年には,Intelはサーバー向けに4コアの「Clovertown」(開発コード名)を出荷する予定だ。そのときのプラットフォーム「Bensley」(開発コード名)では,最大64Gバイトのメモリーを実装できる。この上で4つの仮想マシンを動かすと,単純計算で,各仮想マシンに独立した1つのコアと16Gバイトのメモリーを割り当てられる。しかも,VTによって,仮想マシン上でも実機と同等の処理性能が出るようになれば,1コア/1CPUのサーバー機4台で運用するのに対して,可用性や管理性,そしてOSのライセンスといった導入・運用コストの面で有利になることが多い。

 例えばMicrosoftは,仮想マシン用のOSのライセンスを一部フリーにする方針を打ち出している。具体的には,Windows Server 2003 R2あるいは2007年以降に出荷が予定されているLonghorn Server上で仮想マシンを動かす場合,それまでは仮想マシンごとにそれぞれOSのライセンス料が必要だったものを,Enterprise Edition上の仮想マシンに対しては4つまで,Datacenter Edition上ならば無制限に,OSのライセンス料は不要だとしている。

 仮想マシン技術はサーバーだけのものでもなく,デスクトップPCにもやってくる。Intelは,企業向けクライアントの新しい利用形態として,「エンベディッドIT(EIT)」を提唱している。これは,VTが実装されたプロセッサ上で仮想マシン・ソフトを動かし,一般ユーザーが利用する「ユーザーOS」に加えて,管理やセキュリティ対策用の「サービスOS」を同時に動かすというものである(拡大表示 ])。ユーザーOSのネットワーク・パケットは,必ずシステムOSを通る。システムOS上で,ファイアウオールやパケット検査,バックアップなどのサービスを動かせば,ユーザーOSに特別な手をかけなくても安全を確保できる。

 2005年秋に一部のPentium 4に実装されたVTは,Intelが想定している3フェーズから成る仮想化技術のまだ第1フェーズにすぎない。第1フェーズ「CPUの仮想化」は,簡単に言うと,(1)仮想マシン環境を作る命令,(2)仮想マシン上でI/Oアクセスなどの特権命令が発行されたときに,仮想マシンを管理する「仮想マシン・モニタ(VMM)」に強制的に制御を移す仕組み,(3)その際VMMが,どの仮想マシンがどのような処理をしようとしたかを調べられるようにするためのデータ構造「仮想マシン制御構造体(Virtual Machine Control Structure)」,などから成る。これらは,仮想マシン・ソフトの実装を簡潔にするものの,仮想マシンの処理性能向上にはあまり寄与しないだろう。

 仮想マシンの処理性能向上に寄与するのは,第2および第3フェーズとして予定されている,拡張ページ・テーブル機能,チップセットおよびPCI Express機器の仮想化対応である。これら仮想化技術に関する解説記事は,ITproTechで今後掲載予定である。どうぞご期待ください。