◆シリアルATA

 ATAやSCSIが抱える問題を解決する技術がデータのシリアル転送である。かつてシリアル転送は,「パラレル転送より伝送距離は長いが,速度は遅い」とされていた。しかし,最近はパラレル転送に匹敵する水準まで高速化している。

 シリアル転送方式の「シリアルATA」は2003年に規格化された。データ転送速度は150Mバイト/秒である。今後,シリアルATA IIで300Mバイト/秒,シリアルATA IIIで600Mバイト/秒に高速化する予定である。

 パラレルATAは1本のフラット・ケーブルに最大2台までドライブを接続していたが,シリアルATAでは1本のケーブルに1台のみ,つまりホスト・コントローラとデバイスをポイント・ツー・ポイントで接続する(図4[拡大表示])。接続距離は最大1mに延長された。1個のホスト・コントローラに接続できるケーブルの最大数は特に規定されていない。

 シリアルATAでは,7本の信号線(送信用と受信用の差動信号線ペア*4が計4本,各ペアの外側と間にあるグラウンドが計3本)を束ねたシリアル・ケーブルを用いる。シリアルATAは従来のパラレルATAとプロトコル・レベルでの互換性を持ち,上位のソフトウエアからは透過である。ホットプラグが規定されたことで,システムを動作させたままでHDDの交換を可能にしている。

 シリアル転送では信号線数が少なくなるため,コネクタの物理的な形状やサイズを小さくできる(図5[拡大表示])。これはデバイスの小型化に大きく貢献する。また,幅広なフラット・ケーブルはきょう体内での取りまわしが悪く,冷却用の空気の流れを妨げる原因となっていたが,シリアル・ケーブルはこれらの問題を解消している。

さらに性能/信頼性を高め,適用範囲の拡大狙う

 最新のパラレルATA規格はCRCに基づくエラー・チェック機能を備えているが,データ・パケットにCRCを付加しているだけであり,コマンド・パケットやステータス・パケットには導入していない。シリアルATAでは,データ転送の高速化に見合った信頼性を確保するため,データのみならず,コマンド/ステータス・パケットにもCRCを付加してエラー・チェックを行っている。

 シリアルATAでは,コマンド・キューイング機能も規格化された。SCSI HDDのコマンド・キューイング機能と比べてキューの数や深さで劣るものの,スループットの向上が期待されている。

 こうした様々な拡張により,シリアルATAインタフェースを備えたHDDの適用分野が広がると見られている。PCはもちろん,小さなコネクタが有利となるモバイル端末や家電製品,エントリ・クラスのサーバーの領域に,これまで以上に浸透するだろう。大規模ストレージ環境でも,レプリケーションやバックアップ用途でシリアルATA HDDの利用が増えると考えられている。

◆Serial Attached SCSI(SAS)

 最近のATA HDDは,高性能化と大容量化,低コストを武器に,これまでパラレルSCSI HDDがほぼ独占していたサーバー分野などに進出してきた。こうした状況下で開発されたのがSASだ。ATA HDDが得意とする分野を避け,Fibre Channelで構築されてきた大規模システムの領域に徐々に進出していく狙いがある。

 SASのデータ転送速度は300Mバイト/秒である。単純に比べれば,Ultra320 SCSIのバス当たり320Mバイト/秒より遅い。しかし,SASはポイント・ツー・ポイント接続なので,1台のデバイスが300Mバイト/秒を占有できる。それを考慮すれば,Ultra320 SCSIよりもはるかに高速と言えるだろう。また,SASは全二重通信が可能なので,送信と受信を同時並行で実行できる。パラレルSCSIやパラレル/シリアルATAは,送信と受信を定期的に切り替える半二重通信である。

 SASは拡張性も非常に高い。SASのホスト・コントローラとエンド・デバイス(例えばHDD)は,中継デバイスとなる「SASエキスパンダ」を通じて接続できる(図6[拡大表示])。小規模な構成ならホスト・コントローラを中心としたスター型,大規模構成なら複数のSASエキスパンダを利用したツリー型トポロジを採れる。デバイス間の距離は最長8m(外部ケーブル)で,接続可能なエンド・デバイス数は,規格上1万6384台までとなっている。

 信頼性の面でも,SASは「デュアルポート」という新しい機能を備える。これは1台のデバイスに2個のポートを搭載し,それぞれ独立したケーブルで冗長に接続できるようにする仕組みだ。1本のケーブル(伝送路)に障害が発生しても,デバイス間の通信がとぎれない。エンタープライズ環境で求められる高可用性に対応している。

シリアルATAとSASのデバイスが混在可能

 SASには,シリアルATAデバイスを接続できるという大きな特徴がある。SASの物理層はシリアルATAの物理層と互換性があり,両者のコネクタの形状は基本的に同じである。もしSAS HDDの代わりにシリアルATA HDDを接続したときは,STP(SAS Tunneling Protocol)を通じてプロトコルを変換し,SASのホスト・コントローラとシリアルATA HDDの通信を可能にする。

 この仕組みにより,例えば1台の外付けSASストレージ装置に,SAS HDDとシリアルATA HDDを混ぜて載せることもできる。高い性能と可用性を優先するシステムはSAS HDDを利用し,コスト重視のシステムではシリアルATA HDDを使う,といった使い分けに対応する。ストレージ・ベンダーとしても,SASベースの共通基盤(きょう体)に,用途に応じてシリアルATA HDDかSAS HDDを搭載するようにすれば,開発,製造,在庫などのコストを削減でき,結果的に製品価格を下げることが可能となる。

 ただし,シリアルATA信号はSAS信号のサブセットなので,SAS HDDをシリアルATAインタフェースにつないでも動作しない。また,物理的にもシリアルATAのコネクタにSAS HDDを接続できないので注意が必要だ。


吉岡 雄
日本ストレージ・テクノロジー マーケティング本部 シニアスペシャリスト