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 新製品の価格、ホテルまでの道順、うろ覚えの言葉の意味・・。生活の中の様々な疑問に答をくれる仕組みがWebサイトだ。これといった目的もなくサイトを「見て」いる人もいるけれど、実際は多くの人がサイトを何かの目的のために「使って」いるのではないだろうか。

 結論からいえば、「使おう」という人間の意思と「使えた」という結果の間にはかならず「デザイン」という特別な工夫がある。Webサイトは人間にとって情報を得るための道具なのだから、道具として使いやすくなっているほうが自然だ。

 Webサイトを作るなら、細かいことは脇においてもまず使いやすさが必要なのだと心に留めることから始めると、これから遭遇する細かい制作テクニックを1つ1つ納得しながら身につけて行けるはずだ。

Web誕生の歴史

 ところでWebがどういう経緯でこの世の中に登場したのか、過去をさかのぼって簡単に整理してみよう。かなり複雑になってしまった今のWebから話を始めるより、Webの本質が感じとれる新しい発見があるかもしれない。【図1[拡大表示]】

 書籍のように最初から最後まで1つの筋に沿ったかたちで情報を利用するのではなく、興味のおもむくままに関連情報を拾いながら読み広げられる閲覧システムはないものかと最初に考えたのはテッド・ネルソンだ。彼は1965年、この概念をハイパーテキストという考え方にまとめて発表した。

 その3年後ダグラス・エンゲルバートがAugment/NLSというハイパーテキストシステムを作ってデモンストレーションを行っている。画面に表示しているテキストのリンクをマウスでクリックして展開するという、今私たちが使っている仕組みにとても近い試みだったが、当時はその流れをビデオで再現したに過ぎなかった。

 しかし次の年の1969年、とうとうチャールズ・ゴールドファーブらが編集と共有の可能な電子文書の形式GML(Generalized Markup Language)を開発し、アメリカ国内でコンピュータネットワークによる情報の共有が始まった。

マークアップは紙面編集技術の借り物

 GMLは改良の末1986年にSGMLという国際標準規格になり、そこから一般的なWebページを構成するHTMLやシステム間の情報共有に役立つXMLが生まれたわけだが、こうした全ての形式にはみなM(Markup)が付いている。どうやらMが電子文書のキモのようだ。

 マークアップは元々過去に新聞や雑誌の紙面を構成する時、編集者がレイアウトを担当する人に仕事を受け渡すため使っていた文字指定のテクニックだった。編集者が原稿のタイトル部分に(TR24b/l)というタグを付けた時、その文字はTimes Romanの書体で24ポイントの大きさ、太字、左寄せという意味になる。

 しかし紙面に必要な見出しのスタイルはだいたい6つくらいに収まる。そこでこの書き方はHEAD3(レベル3の見出し)のようにスタイルのまとまりではなく、用途とレベルによる指定に変わっていった。そこに目をつけたのが先に述べたゴールドファーブたちだ。このタグを業界内だけで通用する約束事ではなく、文書構造を示す公共的な約束事にできないかと思案したのである。

レイアウトなくして情報共有なし

 こうしてテッド・ネルソンが発案した自由な情報検索手段は、ゴールドファーブの努力で意味の適切な受け渡し方法を確立するまでに至った。そして1989年ティム・バーナーズリーによるWWWの開発を経て、インターネットは世界の情報インフラになる。

 でも、なぜHTMLでなければ世界のインフラにはなれなかったのだろう。それはSGMLの仕様が複雑すぎて一般的なブラウザが登場するには至らなかったせいだ。HTMLの場合、情報を解釈し、指定どおりのスタイルを付けて表示するブラウザが1993年にはすでに登場している。HTMLの時代でやっと情報を収集する編集者がレイアウト担当者を得て、情報を共有できる体勢が整ったようなものである。

 レイアウトしていない情報は、人間にとって情報だとすら思えない代物だと言って良い。歴史を振り返ることに終止してしまったが、情報の共有には正しい文書構造と、適切なスタイルが欠かせないという事をここから感じ取っていただきたい。Webには最初からデザインが求められていたのだ。【図2[拡大表示]】

 次回は読み物としてのWebの体裁を超えて、使うものとしてのWebに必要なデザインについて「導線設計」をキーワードに紐解いてみたい。