図1:PSPやNintendo DSのユーザー構成。
図1:PSPやNintendo DSのユーザー構成。
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図2:世界各国におけるPS1/PS2の家庭普及率。青色がPS1,赤色がPS2である。
図2:世界各国におけるPS1/PS2の家庭普及率。青色がPS1,赤色がPS2である。
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 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は3月15日,「PlayStation 3(PS3)」を11月上旬に発売すると正式に発表した(PlayStation 3は「4次元世界」を目指す---SCEの久多良木氏)。同社はPS3を全世界同時に発売する。月産100万台のペースでPS3を出荷し,2007年3月末までに全世界で600万台を販売する計画だ。

 SCEは「PlayStation(PS)」や「PlayStation 2(PS2)」を,まず日本で最初に発売し,日本市場で十分な実績を積んだ上で米国や欧州市場の開拓に乗り出した。例えばPS2の場合,日本での発売日は2000年3月4日だったが,米国で発売したのは半年以上遅れた2000年10月26日だった。それがPS3の場合は,日本,日本以外のアジア地域,米国,カナダ,ヨーロッパ連合(EU)諸国で同時に発売される。

 家電業界では最近,製品を全世界で同時発売する「垂直立ち上げ」が基本戦略となっている。日経ビジネス誌3月13日号の記事「松下,危機からの生還 本誌が見た中村改革『6年の真実』」によれば,松下電器産業の大坪文雄次期社長が「社長の座」を射止めた最大の功績は,プラズマ・テレビの垂直立ち上げに成功したことだという。PS3も最近の家電にならい,世界同時発売の戦略に切り替える。

 こうした戦略転換の背景には,ゲーム業界における日本市場の存在感が相対的に低下しつつあることが一因になっているかもしれない。同社が記者発表時に提示した「プレイステーション・ポータブル(PSP)ユーザーの年齢別/性別構成比」のグラフ(図1)や,「国別で見たPS2/PS家庭普及率」のグラフ(図2)からは,日本市場だけではPS3の成功を下支えしにくくなっている現状がうかがえる。

「ゲーム・ブーム」を支えた世代が,いよいよゲームから離れた

 SCEの久多良木氏が図1のグラフで強調したのは,PSPのユーザー層が「20代男性」に片寄っているのに対して,ライバルの「ニンテンドーDS」のユーザー層が「10代前半」や「40代女性」にも広がっていることだった。同時にこのグラフは,「PSPに30代前半の男性ユーザーが少ない」ことも示している。これまでの常識から考えれば,30代前半の男性がゲームを買わないのは当たり前のことかもしれない。仕事が忙しくなってゲームする時間がなくなったり,結婚したり子供が生まれたりすることによってゲームに費やせるお金が減ったりするからだ。

 しかし30代前半,すなわち1971~1974年生まれの「第二次ベビー・ブーム世代」は,1980年代の「ファミコン・ブーム」や,1990年代のバブル的なゲーム市場の成長を支えてきた生粋の「ゲーム世代」である。この世代でさえ,従来の世代と同じようにゲーム離れをしているのが,同世代に隣接する1975年生まれの私にも,ちょっとしたショックであった。

 第二次ベビー・ブーム世代は,前後の世代に比べて数がかなり多い。第二次ベビー・ブーム世代のゲーム離れは,現在進行している少子化と相まって,日本のゲーム市場の縮小を加速させるだろう。

これからゲーム市場が拡大するのは米国や欧州

 一方で海外に目を向けると,ゲーム市場にはまだまだ拡大の余地が残されている。それを印象付けたのが,図2の「国別で見たPS2/PS家庭普及率」である。

 PS2の普及率は,日本市場では41%と高い。しかし欧州に目を移すと,この数字はガクッと落ちる。英国の普及率は33%と高いが,フランスでは20%,イタリアでは14%,ドイツに至っては10%に過ぎない。欧州ではまだまだ,PS2やPS3の拡販の余地がある。

 米国でのPS2の普及率は32%とかなり高い。また日本よりも「Xbox/Xbox 360」が健闘していることから,PS2の普及率を大きく伸ばしたり,PS3が高いシェアを獲得したりするのは容易ではない。それでも少子化の著しい日本に比べれば,若年層の増え続ける米国の方が大きな伸びしろを期待できるだろう。

 PS3が全世界で同時発売されるという事実。それは,ゲーム・ビジネスの主戦場が,日本から米国や欧州に移ろうとしていることの象徴なのだろうかと,私は危惧する。それでも,優秀なゲーム・クリエータは日本にたくさんいる。これからも日本がゲーム先進国てあってほしい−−そう切に願う。