首都圏でクリーニング・チェーンを展開する喜久屋は2006年3月,国内初の携帯サイトによる宅配クリーニング・サービスに乗り出した。「携帯電話のサービスがトレンドとなり,開始の時期が来たと考えた」と中畠信一社長は言う。

 システム開発のパートナーとなったのは,福岡のベンチャー企業「ネクストベリー」だ。「福岡のクリーニング・チェーンに比べ,喜久屋さんは客単価も処理件数も倍。新規会員の増えるスピードも早い。宅配クリーニングを展開すれば,電話でのやりとりが一気に増える」。ネクストベリーの清水勇吉社長は,携帯端末をサービスに組み込むことで,この課題も一挙に解決しようと考えた。

 今回は喜久屋が2006年3月に開始した,携帯電話による宅配クリーニング・サービスについて解説する。


クリーニングの集荷・配送状況をリアルタイム配信する


 喜久屋のクリーニング集荷・配送サービス「ムーンライト・デリバリー23」は,2004年に開始されて以降,顧客を着々と増やしていた。しかし,前回 説明したように,電話注文には,お客にとって「電話してみなければ,集荷予約したい時間に来てもらえるかどうか分からない」という課題がある。そこで,喜久屋はインターネットと携帯電話を駆使した,スムーズなデリバリー・サービスの提供を目指すことにした。

 まず取り組んだのは,集荷・配送が可能な空き時間帯をリアルタイムで配信するシステムの構築だ。ムーンライト・デリバリー23の顧客が増えるにつれ,集荷・配送の予約がいっぱいになる日付,時間帯が出てきた。そこで,どの時間帯なら空いているのか,お客が一目で分かるようにしようと考えた。空き状況が開示されていれば,顧客は空いている時間帯に集荷・配送の注文を出せる。電話口で集荷・配送時間を調整する手間がなくなるため,コールセンターの省力化も狙えるはずだ。

 喜久屋はネクストベリーとともにシステム構築に取り組み,まず2005年秋に社内の宅配用業務管理ソフト「D-Next」に機能を追加し,集荷・配送の空き時間をリアルタイムで把握できるようにした。


コールセンターの省力化に貢献度大


 続いて,喜久屋はいよいよ携帯電話を使ったデリバリー・サービスのシステム構築に取りかかる。ここで,新たなパートナーとして携帯コンテンツ大手のインデックス(東京都世田谷区)が加わり,携帯サイトの構築を手がけることになった。


図1●携帯電話のムーンライト・デリバリー23専用サイト



図2●登録時の郵便番号で,サービス地域かどうかを確認


 サービスの概要を説明しよう。顧客は携帯電話からムーンライト・デリバリー23の専用サイトにアクセスをする。会員はログインをすれば,名前や住所が確認できる(図1)。非会員は郵便番号を入力し,その地域でサービスが受けられるかどうかを確認する(図2)。

 配達エリアであることを確認すると,発注画面に移る。集荷日時と配送日時を選ぶ画面が出てくるので,都合がいい日時をそれぞれ選ぶ。予定が埋まっている時間帯は×印が出ていて選べない(図3)。

 非会員はそこで氏名や配達先の住所,電話番号を入力。会員登録をすれば,次回から顧客情報を入力する手間はなくなる。24時間いつでも注文できる。

 携帯電話が利用できるようになれば,電車の中や寝る前の短い時間でクリーニングを注文できる。自宅で待っていれば集荷・配送をしてくれるので,クリーニングに手間をかけたくない人には非常に便利なサービスだ。

 一方,喜久屋にとっても,コールセンターの手間が激減するというメリットがある。顧客が集荷時間などの注文内容をシステムに直接入力してくれるため,スタッフがデータ入力せずに済むからだ。

 コールセンターとドライバーとのやり取りも,携帯メールに変更した。ドライバーは携帯サイトを使って受発注状況やスケジュールを確認する。ドライバーからコールセンターへの集荷・配送の完了報告もできる。これまでは運転中などでドライバーが電話を取ることができなければ,コールセンターは連絡が取れるまで電話をかけ直さなければならなかった。これもコールセンターの負担軽減につながる。


顧客の便利さとコスト削減を同時に実現


 携帯を使った新サービスのシステム構築のコストは,「全部で1000万円いかないぐらい」(中畠社長)という。決して小さな金額ではないが,中畠社長は「顧客の便利さと自社のコスト削減が一挙に実現できる。システムは必ず成功する」と自信を深めている。




図3●集荷・配送可能な時間帯から希望時間を選択する(3月20日現在はサービス開始前のため時間帯が表示されていない)

 出前館時代から合わせると,ムーンライト・デリバリー23には約1万人の会員がいる。喜久屋では「ムーンライトと言えば携帯サービス」というイメージを定着させて,会員の半分を携帯電話利用に移行させることを狙っている。

 2006年中には東京23区すべてをムーンライト・デリバリ23のサービス地域とする予定で,2007年4月期(2006年5月から2007年4月末まで)の売上高目標は17億円,うちネット関連で3億円を目指す。

 「同じ地域にサービスでメッシュをかけていきたい。実店舗,携帯電話,インターネット,宅配サービス,保管サービスなど,利用の仕方を顧客が自由に選べる状況を作る。クリーニングの品質さえしっかりしていれば実現できる」(中畠社長)。

 中畠社長による新しいサービスや利便性の追求は,まだまだ続きそうだ。

■基太村 明子 (きたむら あきこ)

【略歴】
 フリーランスライター。神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒業後,日本証券新聞社に入社。編集部記者として中小企業を中心に取材活動を進める。2000年にビジネススクールおよびコンサルティング業のコーチ・トゥエンティワンに入社し,広報担当として日本におけるコーチング普及に尽力。2003年には「日経情報ストラテジー」にてコーチングに関する連載を手がける。

 2004年より独立し,中小企業経営,コーチング,マネーなどに関する記事を執筆。講演や広報に関する研修にも注力している。現在「日経情報ストラテジー」「日経ベンチャー」「リアルシンプル」にて執筆中。日本ファイナンシャル・プランナーズ(FP)協会アフィリエイテッド ファイナンシャル プランナー(AFP)。