これまでの連載で,時にはITを活用して,また時には自分の足を使って,多岐に渡る情報を収集し,整理・分析する過程を紹介してきた。しかし何度も述べているように,せっかく得た情報も各人が囲い込んでいたのでは“宝の持ち腐れ”であり,経営には何の役にも立たない。

 当社では全社員がおのずと情報に触れて活用できるように,情報を公開・共有する様々な「場」を設けている。


社内誌と店頭情報システムで共有方法を使い分け

 第23回 で簡単に触れた通り,メリーズ・インフォメーションは創刊から30年,間もなく1500号を迎える週刊の社内情報誌だ。私みずからの言葉で社員に向けてつづる「今週の提言」と,全国の直営店から寄せられた様々な情報を集積した「日報会話室」から成る。

 「提言」を書き続けて20年,創業者である父を亡くした直後の1回を除き,連載を休んだことは一度も無い。文章を通じて経営者の考え方や経営方針を全社員に理解してもらうばかりではなく,「継続は力なり」を身をもって示す場としても重要視している。

 「日報会話室」は,全国の販売日報を整理・分類し,特に重要なエッセンスを集めたものだ。店頭情報システム「MASCOT 」の導入によって,社員の報告からメリーズ・インフォメーションを編集,発行するまでの時間が短縮され,リアルタイムに近い状態で全国の販売動向を把握できるようになっている。さらに「このようなラッピングが喜ばれた」「このセールストークでお客様の反応が良くなった」など,販売に役立つ多様な情報も店舗間でスピーディーに共有できる。

 なお,重要度の高い情報は,MASCOTを通じてその日のうちに全店に周知するなど,共有方法も臨機応変に使い分けている。


ブレインセンターでビジュアルな情報交換を実現


 当社では1987年から3年の月日をかけ,若手社員が中心となって21世紀に向けた長期計画である「メリー21計画」を策定した。その中で1995年,早々に具現化したのが,私の昔からの夢でもあった研修施設「ブレインセンター」である。

 ブレインセンターは,150インチの大型スクリーンを備え,80名を収容する広さを持つマルチメディア・ルームである。メリーの「ブレイン」が集う場所,そして未来の「ブレイン」を養成する場所になるようにとの願いを込め,私はこの場所を「ブレインセンター」と命名した。

 工場設備を増強することはもちろん重要だ。しかし直接的な利益を生み出さない研修施設を,バブル崩壊後の不況下にある1995年にあえて本社内に設置したのは,「企業は人なり」という強い信念に基づくものだった。

 その後,ブレインセンターにテレビ会議システムを導入。全国各支店や船橋市の情報流通センターとリアルタイムで情報の共有・交換ができるようになり,ますます経営のスピード化が図られた。特に営業部ではブレインセンターで頻繁にミーティングを開催しており,本社からは全体の売上状況,販売動向,指示を支店へ伝え,支店からは各地域の詳細な状況を報告する。ビジュアルを駆使した,よりリアルな情報交換を実施しており,支店からの報告は販売戦略の見直しへと即座にフィードバックしている。

 ブレインセンターは今や当社には無くてはならない重要な施設であり,社員教育を始め,各種ミーティングやプロジェクトの集いの場として,また「仮説検証経営」の中心地として,その役割を果たしている。

 次回は,このブレインセンターを舞台に行なわれている「情報共有」の実例を紹介しよう。

研修,講演会,ミーティング,面接など,様々な情報が交差するブレインセンター


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■原 邦生 (はら くにお)

【略歴】
 メリーチョコレートカムパニー,代表取締役社長。1935年東京都生まれ。青山学院大学文学部卒業後,同社に入社。取締役,常務取締役,代表取締役専務を経て,1986年より同社代表取締役社長に就任。1958年に日本で初めてバレンタインセールを企画。現在の巨大なバレンタイン市場の「生みの親」でもある。営業畑を歩んで来た一方で,独自の社内情報システムも一貫して推進してきた。2004年より,経済産業省が推進するIT経営応援隊(中小企業の経営改革をITの活用で応援する委員会)の本委員会会長,東京商工会議所常議員(CSR委員会委員長)などを務める。

【主な著書】
『家族的経営の教え』(アートデイズ),『今週の提言』(ストアーズ社),『この商いで会社をのばせ!』(かんき出版),『朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『続・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社)『新新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『小さな変化で,大きな流れを読む 朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『感動の経営~想いを贈る企業を目指して~』(PHP研究所),『社長は親になれ!』(日本実業出版社)など。

【関連URL】
メリーチョコレートカムパニーのWebサイト http://www.mary.co.jp/