好調なSMB(中堅・中小企業)向けERP市場にはSAP,オラクルといった大手外資系ベンダーに加え,インフォベックのような国産ベンダーも新規参入している。しかし,ベンダーが乱立する市場で,新規参入ベンダーの明暗ははっきりと出ている。

 まずは,新規参入ベンダーの中でも好調なインフォベックの動きを見てみよう。


急成長を遂げるインフォベック


 2004年5月よりERPパッケージ「GRANDIT」の販売を開始したのがインフォベックだ。インフォベックはNECネクサソリューションズなどシステム・インテグレータ9社(現在は10社)が,コンソーシアム形式で集まって誕生したベンダーだ。新規参入組でありながら,2005年夏以降は富士通,住商情報システムといったトップベンダーからも「商談でよく競合する」と言われるほど,ライバル視されている。

 販売開始からわずかな期間で,トップベンダーから競合視されるほど成長したインフォベック。その背景を分析すると,コンソーシアム形式の強みが見えてくる。

 インフォベックは,ERPの販売実績を有するシステム・インテグレータがコンソーシアムの会員になり,ERPに関する技術,販売のノウハウ,既存顧客などのERP拡販のための材料を持ち寄って設立された。コンソーシアム内でもNECネクサソリューションズやミロク情報サービスは,「GRANDIT」以外に自社ERPパッケージでの実績を持っており,SMB市場における実績は申し分ない。前回 富士通,大塚商会の強みとして「多くの既存ユーザーを持っている」ことを説明した。インフォベックもコンソーシアム会員10社が今まで獲得してきた既存ユーザーが販売する上での財産になっており,今後もシェアを伸ばしていくことが予想される(図1)。

図1●インフォベックとSAPの戦略比較(クリックで拡大)


SAPは「本当に売ってくれる」パートナーの育成が急務


 次に,外資系の大手ERPベンダーであるSAPの動きを見てみよう。

 SAPの参入当初,SMB市場に大きな動きが出ることが予想されていた。しかし,実際にはさほど大きな影響は出ていない。大企業向けERP市場でのSAPのシェアとブランド力を背景に,鳴り物入りでSMB市場に参入した「SAP BusinessOne」だが,販売開始から1年以上たった現在でも,他のベンダーからは「あまり競合することはない」と言われているのが実態だ。

 SMB市場において,なぜ「SAP BusinessOne」は苦戦しているのか?価格や機能も挙げられるが,その理由は特にチャネル戦略にある。

 「SAP BusinessOne」でのSMB市場参入にあたって,SAPは100%パートナー販売としている。パートナー販売を行う上で,重要なことはパートナーの数ではなく,ロイヤルティの高いパートナーの存在だ。

 その意味でいえば,同社のチャネル戦略には疑問が残る。2006年になって,ようやくパートナー支援戦略が表明されたが,具体的な内容は示されていない。いずれ明らかになるであろうパートナー支援体制の内容が,今後の「SAP BusinessOne」の命運を左右することは間違いない。


新規参入には3つの要素がある

 SMB市場においては,前回紹介した上位ベンダーの戦略が示すように,3つの要素がある(図2)。「販売力」,「サービスサポート力」,そして既存ユーザーをどれだけ抱えているかという「実績」だ。とりわけ重要なのが「販売力」で,いわゆる数集めではない「ロイヤリティの高いパートナー」を組み込むことが条件となる。

 インフォベックは,この3つの条件をまずまず備えていると言えるだろう。残念ながらSAPは「販売力」における「ロイヤリティの高いパートナー」,そしてSMB市場での「実績」と言う点で及ばない。これらの条件は既存のベンダーが今後のERP市場で生き残るための条件ともなるだろう。

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■河田 裕司 (かわだ ゆうじ)

【略歴】
ノークリサーチ
2002年明治大学在学中よりノークリサーチへスタッフとして入社し、2004年からアナリストとして活動。ERPなどのエンタープライズ系パッケージ・ソリューションを専門としている。

【関連URL】
ノークリサーチのWebサイト http://www.norkresearch.co.jp/