図1 メトロ,アクセス・ネットワークに適した波長多重技術「CWDM」<br>メトロ,アクセス・ネットワークでは,ユーザーやサービスごとに波長を割り当てて多重化するニーズが増えている。この場合,数波程度の多重化で十分であり,より安価にシステム構成できるCWDMが適している。
図1 メトロ,アクセス・ネットワークに適した波長多重技術「CWDM」<br>メトロ,アクセス・ネットワークでは,ユーザーやサービスごとに波長を割り当てて多重化するニーズが増えている。この場合,数波程度の多重化で十分であり,より安価にシステム構成できるCWDMが適している。
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表1 DWDMとCWDMの違い
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波長多重(WDM)技術はこれまでコア・ネットワークのものでした。ここにきてメトロやアクセス・ネットワークへの適用も進んでいます。今回は,経済的に波長多重を実現するCWDM(coarse wavelength division multiplexing)技術を紹介します。

 波長多重技術のメリットは,各信号に光の1波長を割り当て,これらを多重して1本の光ファイバで一括伝送できる点です。多重数が多いほど伝送効率は高まります。大量の通信トラフィックが流れるコア・ネットワークでは,数十波以上の多重が可能なDWDM(dense wavelength division multiplexing)*技術が用いられています。

 DWDMは,その仕組みから機器のコストがどうしても高くなります。扱う波長数が多いことから波長間隔が1nm以下と狭くなり,高い精度の制御技術が求められるからです。光源に用いられる半導体レーザーや光フィルタは,温度に依存した光学特性を持つため,厳密な温度制御も必須となります。

 それでもコア・ネットワークでは,波長を多重すればするほどメリットを享受できます。しかし,ユーザーに近い側のメトロ,アクセス・ネットワークでは,コア・ネットワークほどトラフィック量は必要ありません。数波程度の多重で十分です。数十波も多重するDWDMでは費用対効果の面からメトロ,アクセス・ネットワークには適しません。

 波長多重技術のもう一つの特長として,音声やデータ,映像など異なる種別の信号を1本の光ファイバで伝送できる点があります。各信号種別に対して1波長を割り当てます。こちらもユーザーが一度に必要とするサービスは数種類と考えられるので,波長は数波程度で十分です。これらの要件を下に2001年ころ,安価に波長多重を使える技術として登場したのがCWDM技術です(図1[拡大表示])。

粗い波長間隔で装置構成をシンプルに

 CWDM技術は,多重可能な波長数を10数波程度と限定したことで,波長間隔を20nmと広く粗くしました。これによって,DWDM技術に必要な波長制御機能を省略。大幅な低価格化を実現しました(表1[拡大表示])。

 波長の変調方式も,DWDMなどで使われている外部変調型*ではなく,光源のオン/オフでレーザー光を制御する直接変調型*を採用。装置構成がシンプルになるため,これも低価格化に寄与しています。かつて直接変調型は,光源の波形歪みや温度揺らぎの影響を受けやすいのが難点でした。しかし最近では,歪みが少なく温度制御なしで安定した特性を持つ光源や,広い波長透過域を有し,かつ低損失なWDMフィルタ*が登場。普及を支えています。

 なお初期のCWDMシステムでは,適用エリアが制限される点が課題でした。しかし2003年に入って,2.5Gビット/秒で80キロメートル以上の伝送距離を実現する光トランシーバ*が商用化。当初は地方自治体や大学など限られたエリアでの用途にとどまっていたCWDMシステムですが,最近では通信事業者のメトロ・ネットワークへの導入も進んでいます。

モジュールのデファクト化で低価格化に拍車

 CWDMシステムの送受信機能のモジュール化も進んでいます。モジュール化によって,迅速なアップグレードやサービス種別の変更,波長の変換などが可能となりました。各モジュールも,SFP(small form factor pluggable)*などのベンダー間で取り決めた共通仕様によってデファクト化が浸透。光部品がより安価になることも期待されます。

 さらなる経済化のキーとして,標準化も進んでいます。国際標準化機関であるITU-Tにおいて,波長間のスペースを規定した波長グリッド(ITU-T G.694.2)ならびにCWDM技術を用いた具体的なアプリケーションの規定(ITU-T G.695)が勧告済みです。

 次回は,波長多重による高速・広帯域アクセス技術「WDM-PON*」を紹介します。


萩本 和男 NTT未来ねっと研究所 所長
奥村 康行 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト プロジェクトマネージャー
吉本 直人 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト ディレクタ