図4 1つの文をできるだけ短くする
図4 1つの文をできるだけ短くする
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図5 分かりやすい語順にする
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図6 専門的なIT用語には説明を加える
図6 専門的なIT用語には説明を加える
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図7 逆接の接続詞を繰り返さない
図7 逆接の接続詞を繰り返さない
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図8 同じ語尾を繰り返さない
図8 同じ語尾を繰り返さない
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 日本語としては正しいが,言い回しや言葉遣いが冗長なため,スムーズに読み進められない文章がある。どうしたら「流れるように読み進められる文章」を書けるのだろうか。

 それを実現するために必要なチェックポイントは数多く存在する。ここではその中から,基本的なものを選び出して紹介する(前編の図1のLevel2)。

1つの文が長くないか

 まず1つの文章をできるだけ短くしよう(チェックポイント(6))。

 「プロジェクト・マネジャーが計画の作成や進ちょく管理,ボトルネックの分析といった業務に利用するプロジェクトマネジメント・ツールは,一昔前までITベンダーの間で導入が進まなかった」(図4[拡大表示]左)という文がある。これを読んで,すぐに意味が分かるだろうか。

 この文の骨格となる主語と述語は,「プロジェクトマネジメント・ツールは」と「あまり利用されなかった」である。だが「プロジェクトマネジメント・ツール」にかかる修飾語の中にも主語・述語の関係があるため,文の構造が分かりにくい。

 このように,主従関係にある複数の主語・述語の組み合わせを含む1つの文を「複文」と言う。複文は2つ以上の文に分けると読みやすくなる。図4左の悪文と右の2つに分けた文を見比べれば,読みやすさに大きな違いがあることが分かるだろう。

 文が短いほど,読み手は意味をつかみやすい。執筆・推敲の際は,「この文を2つに分けることはできないだろうか」,「この形容詞や副詞は削れないだろうか」といった具合に,できる限り短い文にすることを心がけるべきだ。

分かりやすい語順か

 図5[拡大表示]の左にある,「SCMシステムを取引先とともに商品在庫量を削減するため導入する」という文を見て欲しい。「こんな分かりにくい語順には普通しない」と思うかも知れない。しかし思いつくままに文章を書いていると,ついこういう語順にしてしまいがちである(チェックポイント(7))。

 それには理由がある。私たちは文を書くとき,無意識のうちに,強調したい語句から並べていく傾向があるのだ。図5左の文の場合,書き手にとって最も強調したい語句は「SCMシステム」。次が「取引先とともに」,「商品在庫量を削減するため」だった。強調したい順にそのまま頭から並べていったら,こうなったというわけだ。

 日本語では,様々な語順で文を書ける。そのため書き手はあまり語順を意識することがない。しかし語順は,文の分かりやすさを大きく左右する。「主語と述語を近づける」,「目的語(~を)を述語(~する)のすぐ前に配置する」,「長い修飾語は短い修飾語の前に配置する」といった原則をふまえ,一番分かりやすくなる語順を探そう。

 図5左の文は,原則に従って「商品在庫量を削減するため,取引先とともにSCMシステムを導入する」と直すと,ぐっと分かりやすくなる。

専門用語に説明があるか

 専門的なIT用語を何の説明もなく使うべきではない(チェックポイント(8))。そうした用語を使う際には,読み手の知識レベルを想定した上で,説明を加えたり,場合によっては平易な言葉に置き換えたりすることが必要だ。例えば,単に「CMMIでは5段階のレベルが決まっている」と書くのではなく,「ソフトウエア開発組織の実力を評価する基準であるCMMIでは…」という具合に説明を加える(図6[拡大表示])。

 日ごろから曖昧なイメージのままでIT用語を使っていると,文章を書くときに明快な説明を入れるのは難しい。文章には書き手の知識レベルが表れることを,肝に銘じておこう。

 専門的なIT用語だけでなく,特定の企業や組織内だけで通用する用語も,説明なしに使うべきではない(チェックポイント(9))。ITエンジニアの文章には,ソフトウエアやハードウエアの製品名,企業の社内システムの名称などを,何の説明もなく使っているケースがよくある。社内文書ならまだしも,外部の人に向けて文章を書く場合は,「読み手はその製品やシステムを知らない」ことを前提にするべきである。

二重否定になっていないか

 「しかし」や「だが」といった逆接の接続詞を,短い文章で繰り返して使っていないだろうか(チェックポイント(10))。

 例えば,次のような文章である。「この画面構成はおおむね顧客のニーズを満たしている。しかし改善の余地がある。だが納期が迫っているため,このままでよいと考える」(図7[拡大表示]左)。このように「しかし」や「だが」を連続して使うと,たとえ結論を明記していても,読み手にすっきりと伝わらない。見方を変えれば,逆接の接続詞を減らすことが,論旨展開の整理につながる。図7右にその例を示したので,参照して欲しい。

 同様に,二重否定も文の意味を分かりにくくする(チェックポイント(11))。二重否定とは,否定した内容をさらに否定することである。例を挙げてみよう。

IT投資の費用対効果について,興味を持たない経営者はいない。

 この程度なら決して分かりにくいとは言えないが,回りくどい感じが残る。これを肯定文に直すと,

経営者は誰でも,IT投資の費用対効果について興味を持つ。

となる。このように二重否定の文は,肯定文に直したほうが意味をつかみやすい(ただし意図的にテクニックとして二重否定にする場合は別)。

受身形は極力使わない

 チェックポイント(12)は,代名詞が指し示す内容を明確にするというもの。「これ」や「それ」といった代名詞が何を指しているかが明確でないと,読みにくくなる上に,読み手に間違った解釈をさせる可能性がある。代名詞が何を指し示しているかが分かりにくいと思ったら,具体的な内容に置き換える。「そうした」や「こうした」という言葉も同様だ。

 誤解を防ぐという意味では,受身形を極力使わないようにすることも大切である(チェックポイント(13))。文章を書き慣れていない人は,受身形を多用してしまう。しかし受身形を使うと,動作の主体があいまいになってしまう。しかも,リズムが悪くなって読みにくさの原因にもなる。例えば「Select文を入力すると,データが検索される」という文は,「Select文を入力すると,データを検索できる」という文にするべきである。

同じ語尾を繰り返していないか

 テンポよく文章を読んでもらうためには,語尾に変化をもたせるとよい(チェックポイント(14))。

 次の文を読んで欲しい。「電子入札とは,インターネットを使って公共事業の入札を行うことだ。最大の目的はコストの削減だ。公共工事全体に適用すれば,年間2000億円以上のコスト削減になる見通しだ」(図8[拡大表示])。語尾で「~だ」を繰り返しているため,文章のリズムが悪く,ぎこちない印象を受ける。

 解消法は簡単である。「だ・である調」ならば,「~だ。~である。~だ。」のように同じ語尾が連続しないようにする(図8)。

 このチェックポイントについては,執筆段階であまり神経質になる必要はない。あとで文を削ったり,新たな文を挿入したりすれば,同じ語尾の繰り返しが発生することがあるからだ。推敲時に,最後の仕上げとして直すようにしよう。

 1つの文に同じ言葉が繰り返し登場することも,テンポを悪くする原因になる(チェックポイント(15))。例えば「データ分析システムを導入する際には,データ分析システムを使う目的を明確にする必要がある」という文章だ。この文では,後にでてくる「データ分析システム」を「それ」に置き換えるか,「データ分析システムを使う」を取り去る。

 助詞の「の」を3つ以上つなげることも,読みにくさにつながる(チェックポイント(16))。「ERPの導入の問題の概要」のように「の」をつなげた言葉は係り受けが曖昧になるため,すぐには意味を取りづらい。連続して使う「の」は,多くても2つまでにとどめるべきである。

(中山 秀夫=日経SYSTEMS)