SCSIやATAなどストレージ・デバイスをつなぐための「インタフェース」は,今,新技術に移行する時期を迎えた“ホット”な分野だ。SCSIもATAも「シリアル転送方式」に移行し,データ転送速度やデバイスの接続台数が増大する。ただし,新旧規格に互換性はなく,今後の製品選びはやや複雑になりそうだ。このインタフェースを理解するために,基礎と最新仕様を解説する。

 これまでの連載で紹介してきたように,ハードディスク・ドライブ(HDD)やテープ・ドライブの入出力速度や容量は急激に上昇し続けている。この動きに合わせて,ストレージ接続用の「インタフェース」も速度向上や接続台数の大幅アップを図っている。

 このインタフェース技術は,現在,新規格への移行時期にあり,ストレージ分野での注目度は高い。主にクライアントPC向けHDDのインタフェースであるATAは,エントリ・クラスのサーバーや外付けストレージ装置の用途にも対応する「Serial ATA(以下,シリアルATA)」に移行中である。また,サーバーや大型ストレージ装置で利用されているSCSIインタフェースも,今年中に高性能な「SAS(Serial Attached SCSI)」への移行が始まる(表1[拡大表示])。

 2つの新しいインタフェース規格に共通するキーワードは,データ転送方式の「シリアル化」である。現行のATAやSCSIは,複数の信号線を使ってビット・データを同時並行で送受信する「パラレル転送方式」を採用している(図1[拡大表示])。だが,シリアルATAやSASは,1本の信号線(論理的に1本の伝送路)を使ってビット・データを連続して転送する「シリアル転送方式」に移行する。ストレージ・デバイスを接続するケーブルやコネクタの形状も変更される(写真1[拡大表示])。

 この変更は現行製品との互換性に大きな影響を及ぼす。これまでATAやSCSIの新規格が登場しても,それぞれの規格の中で下位互換性は確保されていた。だが,ATAとシリアルATAの間,SCSIとSASの間には互換性がなくなる。その半面,生い立ちの異なるシリアルATAとSASが,実は部分的に互換性を持つことになる。こうした点が今後のストレージ製品の選択をやや複雑にしている。

 上記のような状況を踏まえて,ATAとSCSIの新旧規格の基礎と最新のスペックを紹介する。

◆パラレルATA

 ストレージ向けインタフェースの基本として,まずATA(Advanced Technology Attachment)を取り上げる。ATAは,1986年に開発されたPCの内蔵HDD用インタフェース「IDE(Integrated Drive Electronics)」を基に,互換性を高めた規格である。1989年にANSIによって標準化された。

 さらに1998年には,HDD以外の機器との接続規格ATAPI(AT Attachment Packet Interface)と統合し,ATA/ATAPI-4が規格化。現在ではATA/ATAPI-7となり,データ転送速度133Mバイト/秒の「Ultra ATA/133」でATAの最終形に到達した。ここまで,ATAは一貫してパラレル転送方式を採用してきた。なお,ATAをシリアルATAと対比させる場合に「パラレルATA」と呼ぶこともある。また,シリアルATAを「SATA」,パラレルATAを「PATA」と表記することもある。

 ATAの仕様は,PCの内蔵ストレージ用として規格化されているため,接続台数と接続距離には制限がある。ATAのホスト・コントローラにはプライマリとセカンダリの2本のフラット・ケーブルを接続できる。それぞれのケーブルにつなげるデバイスは最大2台(マスターとスレーブ)なので,1つのコントローラに接続可能なデバイスは最大4台だ。ケーブル長は最長で45.7cm(18インチ)と規定されている。

高速化の限界に達したパラレル転送方式

 ATA規格は順次拡張されてきたが,ATAがパラレル転送方式を採る限り,これ以上の高速化には対応しにくいのが実情だ。パラレル転送方式の問題点は,データ転送速度を高めるにつれて発生しやすくなる「クロストーク」や「スキュー」などである。いずれも,多数の信号線が隣り合う構成のケーブル形状に起因しており,SCSIでも同じ問題が起きる。

 クロストークは,ある信号線から生じた電磁波が隣接する信号線に悪影響を与え,ノイズの発生原因となってしまう現象だ(図2[拡大表示])。クロストークを緩和するために,最新仕様のフラット・ケーブルには信号線と同数のグラウンド線(アース)が含まれているが,その効果も限界に来ている。

 スキューは,送信側から複数の信号線に同時送出された信号が,受信側で別々の時間に到着するときの「時間差」を指す(図3[拡大表示])。ケーブルが長いほどスキューは大きくなり,転送速度が高いほどその影響が大きくなる。スキューが大きくなると,データ転送エラーを引き起こしてしまう。

◆パラレルSCSI

 サーバー分野で多大な実績のあるSCSI(Small Computer System Interface)インタフェースは,1986年にANSIによってSCSI-1が承認され,その後の機能拡張により現在のSCSI-3に至っている。SCSIには,転送速度や転送幅(8ビットのNarrow,16ビットのWide),電気的な特性*1(SE,HVD,LVD)の違いから,表2のように多様な規格がある。最新のUltra320 SCSIでは,データ転送速度320Mバイト/秒を実現し,最長12mのバス上に最大16台のデバイスを接続可能だ。いずれもATAのスペックを上回る。

 SCSIは,このような高速性や拡張性の高さに加え,SCSIコマンド(入出力処理などを要求するコマンド)をマルチスレッドで処理できるため,負荷の高いサーバー用途でシェアが高い。マルチスレッドをベースにしたコマンド・キューイング*2をSCSIデバイスが備えていれば,データへのアクセスが一層効率的となり,スループットが向上する。

 一般にSCSIと呼ばれている規格は,パラレル転送方式を採用した「パラレルSCSI」を指す。だが,SCSI-3の中にはシリアル転送方式の規格も定義されている。Fibre ChannelやIEEE1394などがそうで,総称して「シリアルSCSI」と呼ばれている。ただし,シリアルSCSIはパラレルSCSIをシリアル化したものではない。パラレルSCSIのシリアル転送版はSASである。

パラレルSCSIは成熟,次世代規格はなし

 SCSIは実績のある安定した技術だが,新規格が登場するたびに,速度や信頼性の面で様々な工夫が盛り込まれてきた。

 1世代前のUltra160 SCSIでは,同一バス・クロックでデータ転送を2倍にする「ダブルトランジション・クロック方式」や,各接続デバイスをテストして安定した通信速度に調節する「ドメイン・バリデーション」,データ転送時のチェック機能CRC*3が採用され,データ転送の速度と信頼性を高めている。

 さらにUltra320 SCSIでは,データ転送以外の通信(コマンドやステータスなどのやり取り)を高速化して全体のスループットを高めている。Ultra160 SCSIではこの通信を,互換性確保のためにSCSI-1から受け継がれてきた非同期転送モード(5Mバイト/秒程度)で実行しており,SCSIバスの使用効率に改善の余地があったためだ。

 Ultra320 SCSIは「パケッタイズドSCSI」という手法によって,コマンドやステータスのやり取りをパケットに入れ,最大320Mバイト/秒で送信できるようにした。バスの使用効率を高めるとともに,一回の接続で複数のコマンドを含むパケットを送信できる。加えて,データ転送時だけでなく,コマンドやステータスのやり取りにもCRCを付加して,エラー検出機能を強化している。

 このようにSCSI規格は拡張を続けてきたが,Ultra320 SCSIはパラレルSCSIの最終版とされ,次世代規格は検討されていない。SCSIがATAと同様にパラレル転送方式を採る以上,クロストークやスキューなどの問題がある。パラレルSCSIの性能向上には,はっきりと限界が見えている。


吉岡 雄
日本ストレージ・テクノロジー マーケティング本部 シニアスペシャリスト