AV機器や家電製品に付いてる電源ケーブルをコンセントにつなぐだけで,電力供給も通信もOK。通信用に別のケーブルをはわせたり,難しい設定をする必要もない。来るべきホーム・ネットワーク時代に,高速電力通信(PLC)は家庭内にネットワークを形作る方式の有力な候補の一つだ。

 3月9日からドイツのハノーバー市で開催中の「CeBIT 2006」では,数多くのPLC製品が展示されている(関連記事)。日本でも,規制緩和により今夏にもPLC製品が使えるようになると言われており,どのような製品が登場するか興味は尽きない。いずれ,PLCを内蔵したAV機器とPLCに対応したメディア・サーバーが連携し,いつでも好きなときに好きな部屋で音楽や映像が楽しめるようになるかもしれない。

 しかし,ことはそう簡単ではなさそうだ。ケーブルは電源と通信で1本になったとしても,肝心のPLCの規格の1本化はなされていないからだ。規格が異なる製品同士が相互接続できないだけではない。規格の異なるPLC製品が同一の電力線上に混在すると,速度が低下したり通信できなくなったりするという(関連記事)。

 松下電器産業は,今回のCeBIT 2006で新しいロゴ・マークを発表した。松下の規格を採用した製品にこのロゴ・マークを張り付けて,相互接続性があることをきちんとユーザーに伝えるためだという。その方向性は間違ってはない。しかしユーザーが相互接続性まで意識してPLC製品を買わないといけないとすると,その不便たるや想像を絶する。

 これがパソコンの周辺機器に関する規格の話なら,まだマシだったかもしれない。しかしPLCの主戦場になるのは,まぎれもなくAV・家電製品。電気機器はコンセントに挿すプラグの形状が同じなだけに,PLCの互換性のなさは大きな混乱の元になる可能性が高い。一般消費者が,そんなことまで慎重に考慮して製品選びをするとはとうてい思えないからだ。

 ホーム・ネットワークのもう一つの有力候補は,やはり無線LANだろう。その次世代規格であるIEEE 802.11nのデモンストレーションも,先週公開された(関連記事)。チップ・メーカーが用意した環境でのデモであるため,額面通りに受け取ることはできないかもしれないが,HD(高精細)動画を3本同時に配信した際にも,ノイズや映像の途切れなく視聴できたという。

 無線LANは設定などの面倒さが言われているが,最近はNECの「らくらく無線スタート」など,簡単にセットアップする仕組みも工夫されている。しかも規格の互換性は高いレベルで確保されるはず。A社とB社でチップが異なるからといって,通信できないなどということはない。

 製品選びから使い勝手までトータルにPLCと無線LANを比べた場合,現状では無線LANに軍配が上がるだろう。ホーム・ネットワーク製品のメーカーが選ぶとしたら,いったいどちらの方式なのか。このままでは明白だ。

 実用化すべきか否かで,激しい議論が戦わされたPLC。漏えい電波に対して厳しい規制値を設けることで,実用化の方向性は見えた。しかし利用者からの視点で見直すと,ホーム・ネットワークで活用できるまでの道のりはまだ遠いと言わざるを得ない。