クリーニングチェーン喜久屋の中畠信一社長は,新サービスを開発する際に「トレンド」を重視するのだという。話題のスポットに出かけたり,同じファーストフード店に定期的に訪れて,世の中の動きをつかむ。その中で,中畠社長が注目したキーワードは「夜間」「デリバリー」「インターネット」。ここから導き出されたサービスが「ムーンライト・デリバリー23」だ。

 今回は「ムーンライト・デリバリー23」の特徴と仕組みについて紹介する。


夜間集荷のニーズ取り込み,客単価は店頭の5倍近くに


 中畠社長が注目したのは,都心に住む単身者や共働き世帯だ。平日は働きに出ているため,クリーニング店に行くことができない。周囲に商店街がない都心に住む人は,ちょっとした衣類のリフォーム,布団や靴といった特殊なクリーニングなども,どこへ持って行ってよいか分からない。

 都心に住む単身者や共働き世帯は,一般的なクリーニング店が取り込みにくい層だが,それだけにニーズは高いはず。夜間デリバリーのサービスが受け入れられるだろうと考えた。

 2004年2月,喜久屋は「ムーンライト・デリバリー23」をスタートした。名前には夜間デリバリーというサービス内容と,23時まで集荷するという特徴を盛り込んだ。衣類の集荷は電話かインターネットで申し込む。集荷時間は,午後5時から午後7時,午後7時から午後9時,午後9時から午後11時という3つの時間帯が設定されている。


ムーンライド・デリバリー23のホームページ

 電話では午後9時までに,インターネットでは午後8時までに申し込みをすれば,当日の集荷を受けられる。その日の仕事の見通しがついて「今日は早めに帰れそうだ」と分かった時点で電話しても間に合う。一番人気がある時間帯は,やはり一番遅い午後9時から午後11時なのだという。顧客は20代から40代の単身および共働き世帯が多く,9割は集合住宅の住民だ。

 クリーニングの料金は店頭よりもやや高めに設定しているが,2500円以上の利用ならばデリバリー料金は無料だ。客単価の平均を見ると,店頭が1100円程度であるのに比べ,ムーンライト・デリバリー23では5000円以上になるという。一般的なクリーニングに加え,布団や毛布の丸洗い,靴の丸洗い,衣類のリフォームといったサービスもそろえている。

 一方,フランチャイズ加盟を希望する人にとっても,ムーンライト・デリバリー23は取り組みやすいシステムだ。無店舗のため,初期投資は比較的小さい。実店舗と同様の研修を受けることができるため,未経験者でも可能だ。受発注や配車のシステムは喜久屋が提供する。ウサギのキャラクターが書かれた専用のバンをレンタルして,営業を行う。


ウサギのキャラクタが描かれた専用のバン

 喜久屋は現在,東京都内および川崎の12地区でムーンライト・デリバリー23を展開している。出前館におけるサービス開始から蓄積してきた利用登録者数は,1万人に達する。

 2006年3月には首都圏以外では初めてとなる,名古屋地区へ進出する。年内には東京23区全域でのサービス展開を予定しており,2007年4月期はムーンライト・デリバリー23だけで2億円の売り上げを計画している。喜久屋はここ数年,年商13億円前後で推移してきており,新サービス開発で1割程度の売り上げアップを実現したことになる。


電話を使ったサービスゆえの課題に直面


 ムーンライト・デリバリー23の展開に手ごたえを感じた中畠社長は,次の戦略を考えた。トレンドはモバイル,つまり携帯電話の活用に向かっている。出前館においても,パソコン利用者に総数では追いつかないが,モバイル利用者の伸び率にはすさまじいものがあると聞いていた。

 実際にデリバリー・サービスを開始してみると,電話注文ならではの課題も見つかった。一番の問題は,電話してみなければ,集荷予約したい時間に来てもらえるかどうか分からない点だ。ユーザーが増えるにつれ,人気のある時間帯の集荷に注文が集中し,集荷に回りきれないケースが出てきていた。ユーザーは電話口で何度もやりとりしないと,集荷の日時が決められない。さらに,電話の受付時間である午前10時から午後9時は,人によっては仕事をしている時間帯ということも分かってきた。とはいえ深夜に電話を受ける体制を作るのはコストがかかる。

 一方で,コールセンターとドライバーとのやり取りにも課題があった。コールセンターとドライバーは携帯電話を使って連絡を取っていたが,ドライバーが接客中の場合はコールセンターからの電話を取ることができない。運転中にかかってくれば車を停めることになり,時間のロスが生まれる。無店舗の場合,コールセンターにおける電話での接客が非常に重要になる。しかし,ドライバーと密接なコミュニケーションが取れていないと,顧客にすばやく情報提供できなくなる。そこで,「ワンアクション(1度の行動)で,ドライバーとのやり取りできる仕組みを作れないかと考えた」(中畠社長)。

 ここで,ムーンライト・デリバリー23に携帯電話を活用するためのプロジェクトが始動した。モバイルコンテンツ制作を得意とするインデックス(東京都世田谷区)を知人に紹介してもらい,宅配サービスのソフト開発を依頼したネクストベリー(福岡県)にも協力を仰いだ。

 次回は喜久屋が取り組んだ,国内初となるクリーニングの携帯サービスについて紹介する。


【喜久屋第1回】顧客のニーズから発想し,新サービスを次々と提案
【喜久屋第2回】ネット進出を機に,独自のデリバリー・サービスを開発

■基太村 明子 (きたむら あきこ)

【略歴】
 フリーランスライター。神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒業後,日本証券新聞社に入社。編集部記者として中小企業を中心に取材活動を進める。2000年にビジネススクールおよびコンサルティング業のコーチ・トゥエンティワンに入社し,広報担当として日本におけるコーチング普及に尽力。2003年には「日経情報ストラテジー」にてコーチングに関する連載を手がける。

 2004年より独立し,中小企業経営,コーチング,マネーなどに関する記事を執筆。講演や広報に関する研修にも注力している。現在「日経情報ストラテジー」「日経ベンチャー」「リアルシンプル」にて執筆中。日本ファイナンシャル・プランナーズ(FP)協会アフィリエイテッド ファイナンシャル プランナー(AFP)。