JPNIC理事・VoIP/SIP相互接続検証タスクフォース主査の江崎浩・東京大学大学院教授
JPNIC理事・VoIP/SIP相互接続検証タスクフォース主査の江崎浩・東京大学大学院教授
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 4月17日から21日にかけて,SIP(session initiation protocol)を実装した機器の相互接続検証の場である「SIPit18 -SIP interoperability test event-」(以下SIPit)が東京・秋葉原で開催される。SIPitは,実装者がSIP対応機器を持ち寄って,基本機能や標準化中の拡張機能などを相互接続試験をするイベント(関連記事)。SIPitを共催する日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)理事・VoIP/SIP相互接続検証タスクフォース主査の江崎浩・東京大学大学院教授に,日本で開催する意義などを聞いた。(聞き手は大谷 晃司=日経コミュニケーション

--今回のSIPitでは,これまで参加に消極的だった日本の大手通信事業者が協賛している。その理由は何か。

 SIPitは,試験を通して実装上の課題解決や,製品の品質向上を目指すための会合。大手通信事業者が協賛したのは,今回のSIPitが日本で始めての開催となることや,大手通信事業者と関係があるVoIP/SIP相互接続検証タスクフォースが共催することが主な理由と考えられる。総務省側の働きかけなども関係あるだろう。だが通信事業者の間で,SIPの相互接続をきちんとやらなければならないという認識が高くなってきていることも大きい。通信事業者が参加することで,NGN(次世代通信網)とSIPの関連にも注目が集まる。

 元々,SIP/VoIP相互接続検証タスクフォースを始めたときは,インターネット接続事業者(ISP)が個別のスペックでIP電話サービスを提供していた。各事業者それぞれの戦略があり,技術的な点ならともかく,相互接続に関するビジネス上の理解はあまり得られなかった。しかし,IP電話が急速に普及すると,顧客から「何で他社と接続できないのか」という声が上がる。そこで,IP電話サービスを提供するISP同士の接続が必要だということが認識され始めた。その結果,SIPitのようなSIPの相互接続への取り組みが,多くの通信事業者の賛同を得られるようになってきたのだ。

--SIPitの相互接続試験には,主催者がテーマを決めて参加者を募るマルチパーティー・テストがある。今回のテーマはどういったものになるのか。

 過去のSIPitでは,IPv6やセキュリティ用プロトコルであるTLS(transport layer security)などのテーマが挙がった。SIPitを日本で開催するからには,(他の国・地域より日本が先行している)IPv6を取り上げることを考えている。また,SIPを実装した機器とISPの相互接続のような検証ができないか検討中だ。今,SIP/VoIP相互接続検証タスクフォースでは,ISPのサーバーに遠隔で入って試験している。ISPに時間を割いてもらう必要があるため不確定な部分はあるが,そういう形でSIPitでも相互接続試験ができればいいと考えている。

 確定はしていないが,SIP/VoIP相互接続検証タスクフォースの次の接続性検証の対象としてIP-PBXを想定している。A社とB社のIP-PBXを接続して,SIPサーバーがきちんと動くかどうかといった検証だ。最初はPBXとPBXをB2B(バック・ツー・バック)でトランスペアレントなリンクで接続し,その次はISPをまたいで接続するという検証まで実施したい。

 そのほか,ENUM(編集部注:インターネットを通じて電話番号とその関連情報を交換する技術で,端末間はピア・ツー・ピアで接続する)に関しても,2005年2月に京都で開催した「APRICOT2005」(インターネット基盤技術のアジア太平洋国際会議)でアジア太平洋地域のENUM接続を検証した(関連記事)。今回のSIPitでも,こうした相互接続試験ができればと思っている。

--SIPを事業者が実装するに当たって,リファレンスを用意しているのか。

 SIPのリファレンス・インプリメンテーションは,残念ながら用意していない。ただしリファレンスに近いものとして,SIPの相互接続仕様がある。SIP/VoIP相互接続検証タスクフォースでも,その接続仕様のシナリオに従って検証している。この中にはIPv6を採用した試験のシナリオもある。

 この接続仕様ができたのは,SIPでビジネスをしたいというISPからの要望があったから。SIPの実装が事業者などによってまちまちであるため,「統一してほしい」という要望からスタートした。今から1年半ほど前のことだ。その後,SIPに対する実装の検証評価と相互接続に関する仕様および方法論を作り,また検証用のソフトウエア・ツールを開発するなどの活動をしてきた。今回のSIPitでは,これらを持ち込んで検証する予定だ。これがリファンレンス代わりになってくれるといいと思っている。

 米国だと,NICT(標準技術局)とDoD(国防総省)がネットワーク機器の調達条件にIPv6への対応を挙げている。そのため,IPv6を使った試験シナリオをあらかじめ持っているVoIP/SIP相互接続検証タスクフォースの接続仕様は,メーカーなどからかなり参照されると思う。我々のSIP相互接続仕様や検証用ソフトウエア・ツールはすべて公開しているので,これらをビジネスにうまく利用してもらいたい。