図5 小売モデルの例
図5 小売モデルの例
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図6 サプライチェーン・モデルのシステム例<BR>図4の「受発注」セグメントのパターン1を実装した場合
図6 サプライチェーン・モデルのシステム例<BR>図4の「受発注」セグメントのパターン1を実装した場合
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図7 システムの内部構成
図7 システムの内部構成
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表1 流通業の標準的な取引パターン
表1 流通業の標準的な取引パターン
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(林 浩一・村上 歴/ウルシステムズ)

6000以上の取引形態を表現

 流通業界において,われわれの考案したモデルが図5[拡大表示]および表1[拡大表示]である(詳しくは後述するが,図5ではある事例を想定している)。ロールとして,発注者,入荷拠点,出荷拠点,受注者の4種類がある。セグメントは大きく,受発注,物流,仕入確定,支払確定に分かれる。このうち物流は入荷準備,出荷準備,入荷,出荷,入荷確定,出荷確定に細かく分類される。

 表1から分かるように,受発注は4通り,入荷準備も4通り,出荷準備は3通りある。4×4×3×…というように計算すれば分かるように,6000通り以上のバリエーションを,このモデルは表現している。

 図5は,小売りのTCを用いるサプライチェーンの一例である。発注者は小売業,受注者は卸売業,入荷拠点が小売TC,出荷拠点が卸売DCになっている。「受発注」セグメントでは受注者がいちいち在庫の有無を発注者に伝えない「2/回答なし」のパターンを選んでいる。「入荷準備」セグメントでは,小売拠点(小売TC)に対して小売業が指示する「1/発注者通知」を選択した。

SOAでSCMモデルを実装

 今回のSCMモデルを用いることで,発注から支払いまで取引先の様々なビジネスモデルを表現することが可能になった。次に,こうして表現された各SCMモデルに基づいて商取引を進めるためのシステムについて説明する。

 まず図6[拡大表示]に流通業のサプライチェーン・モデルに準拠するように設計・実装したSCMシステムの例を示す。基本的にコラボレーション定義で選択した取引パターンに基づいて,各拠点で行うべきサービスを配備する。配備されたサービスはパターンに従って,企業内システムとのメッセージ送受信,および他の拠点に配備されたサービスとのメッセージ送受信を行う。

 図7[拡大表示]に,各企業に配備されるSCMシステムの内部構成を示した。ビジネスモジュール,ebXML通信サーバー,データマッピングフレームワークから構成されている。ビジネスモジュールは,サービス実行エンジンであり,コラボレーション定義に従って,その拠点で必要になるサービスを実行する。

 ebXML通信サーバーは,企業間商取引向けメッセージ交換のための国際標準であるebXML MS(Message Service)を利用して,他の拠点との間でXMLベースのメッセージを送受信する。ebXMLは,通信プロトコルのSOAP(Simple Object Access Protocol)をベースにビジネス利用のために拡張したもので,インターネットでの通信にはWebサーバーとブラウザ間のデータ交換に使われるプロトコルのHTTP(Hyper Text Transfer Protocol)を利用できる。

 データマッピングフレームワークは,企業内システムの固有のメッセージ形式とビジネスモジュールで使われるメッセージ形式を相互変換する。各企業で作らなければならないのは,企業内システムのメッセージとの変換のためのアダプターだけだ。その他の部分はどの企業でも共通である。

 この構成によって,個別の企業内システムの事情は外部からはサービスによって隠蔽されることになる。反対に,企業内システムからは取引手順の多様性が隠蔽される。つまり企業内システムがアダプターにメッセージを送受信するだけで,BtoBサーバーとして機能する今回のSCMシステムがコラボレーション定義に従って,適切な取引手順を自動的に選択し実行してくれる。

 取引形態が変わって新たな取引パターンが必要になっても,適切にコラボレーション定義を設定すれば,追加開発の手間をほとんどかけず新たな取引形態に対応できる。つまり取引形態や取引先,商品の追加によるシステムへの影響が,今回のSCMシステムで吸収される。

次回に続く


林 浩一(はやし こういち)/ウルシステムズ ディレクター

大阪大学大学院工学研究科修了。富士ゼロックス,日本エクセロンを経てウルシステムズ入社。オブジェクト指向,XML技術を用いた企業間商取引(BtoB),EAI,データベースなどの技術コンサルティングを行うとともに,IT戦略,業務分析などの上流工程のコンサルティングを手がける。現在,両者を橋渡しするSOAコンサルティングを展開中


村上 歴(むらかみ れき)/ウルシステムズ シニアコンサルタント

大阪大学基礎工学部卒。NTTソフトウェアを経てウルシステムズに入社。主に金融,流通,セキュリティなどの分野で技術コンサルティングおよびシステム企画・開発を手がける。現在は,変化するビジネス要求に対応できるシステムを実現するためのツールとしてSOAの展開に注力している