みなさん,こんにちは。コンサルタントの金子でございます。本号で,「あなたもコンサルタントになろう」のコーナーも最終回となりました。早いものです。さて,今回は,最終回を飾るにふさわしく,コンサルタントの腕の見せ所となる顧客の力を引き出すテクニックの話です。コンサルタントは,必要な作業を実行する役目ではなく,顧客に作業をやらせる係なのです。コンサルタントはサボろうとしているわけではありません。コンサルタントと顧客の役割の違いを見ていきましょう。

 コンサルタントが自動車部品メーカーの社長と何か話しています。社長さん,何か困っているようですが,ちょっと会話を聞いてみましょう。

社長:うちのネットワークは,いまだにフレームリレーなんですよ。最高速度でも128kbps(ビット/秒)しか出ません。最近,宣伝でADSL 12Mbpsなんていうのを見ると,何とも,うちのネットワークは時代遅れになっていると感じるんです。

コンサルタント:何か具体的な不都合があるのですか。

社長:うちで作っている自動車部品のCADデータが3次元化されて,データ・サイズが大きくなってきています。遅いネットワークでは業務に支障が出るって,設計担当者が文句を言い出す始末です。

コンサルタント:それは,困りましたね。しかし,貴社の支店や出張所は全国に100カ所以上ありますから,ネットワークを全部作り直すとなると大変な作業です。計画案は私が作成しますから,その決定と実行を貴社が担当していただけるのであれば,なんとかなるのですが…。

社長:わかりました。予算はとってありますので,後は担当者と話し合ってもらえないでしょうか?

コンサルタント:わかりました。やってみましょう。担当者の方と調整してみます。

 コンサルタントは,安請け合いしていまいしたが,大丈夫なんですかねぇ? 担当者はホントにコンサルタントの計画に基づくネットワークの刷新作業に協力してくれるのでしょうか。

職業的専門家であることを忘れない

 コンサルタントを分類する場合に,(1)技術型,(2)下請け型,(3)洗脳型,の三つに分ける人がいます。(1)の技術型コンサルタントは,原子力,遺伝子,宇宙工学など特定の技術分野に圧倒的な強さを持ち,技術を伝授したり,顧客(クライアント)が置かれた状況に最適な技術を選択したりします。皆さんがイメージする普通のコンサルタントとも言えます。

 (2)の下請け型コンサルタントは,クライアントの作業を請け負って,実行するコンサルタントです。作業内容は,ネットワークの構築から書類のコピーまで様々で,クライアントと一緒になって決めます。下請けということ,なんだか暗いイメージがありますが,そうではなく,クライアントが必要とする臨時的な作業をプロフェッショナル(職業的専門家)として代行し,完了させます。『ゴルゴ13』に登場する銃や装甲車の専門家のような人たちです。

 (3)の洗脳型コンサルタントは,迷っているクライアントを良い意味で洗脳し,決断を促します。背後からオーラが出ており,カリスマ性があり,思わず聞き惚れてしまうようなことを言うコンサルタントです。まるで宣教師,占い師,心理学者のような人たちです。

 実は,普通のコンサルタントは,この三つの型のすべてを同時に合わせ持っています。例えば,ネットワーク構築を専門にするコンサルタントは,技術型として,広域LANやFTTHの詳細な知識と経験を持っています。同時に,下請け型コンサルタントとして,ある支店の試験用ネットワーク構築作業を請け負ったり,あるときには洗脳型として情報システム部長に「先例がないので,なんとも言えませんが,○○の方がいいですよ」とささやいてみたりもします。

 もちろん,技術型,下請け型,洗脳型を同時にやっているといっても,軽重はあります。主に技術型であるとか,主に洗脳型であるとか,得意分野はコンサルタントによって様々です。下請け型には絶対ならないと言うコンサルタントもいますが,下請け型の部分をゼロにすることはできないのも事実です。プロジェクトに参加した以上,何らかの具体的な作業を遂行しないと,ほかの人たちをリードできないことがあるからです。

 しかし,いくら下請け型の部分をゼロに出来ないからといっても,クライアントから作業を請け負って遂行するだけの人になり下がってもいけません。コンサルタントは,職業的専門家としてクライアントの意思決定を促す役割を放棄してはいけないのです。自分が正しいと信じる目標や理念がないままに,作業だけを遂行するのでは,コンサルタントとしての価値はありません。

役割分担を明確にして担当者に協力を依頼する

 さて,今回のお話に戻りましょう。全国に100カ所以上も支店や出張所がある企業のネットワーク再構築は,相当な作業量になります。現状のトラフィック量や使用しているプロトコルの確認,今後の見通し,必要な帯域の確定,コスト計算,機器や回線の選択,機器の設置・設定,テスト,本番移行,旧ネットワークとの並行運用・監視,旧ネットワークの切り離し・廃棄など作業は目白押しで,とてもコンサルタント一人でできる作業ではありません。

 もしコンサルタントが下請け型に徹するのであれば,自分でアルバイト作業員を臨時に雇用し,その者を指揮し,作業を遂行しなければなりません。しかし,この方法はあまり得策とは言えません。不慣れな場所での作業は,大変であり,ミスも発生しやすいからです。

 さて,先ほどのコンサルタントはどのような手段に出るのでしょうか。担当者との会話を聞いてみましょう。

担当者:計画書が完成した後の実際の作業は,そちらでやってもらえるのでしょうね? 私どもはすでに,ほかの作業で手一杯で,そちらの作業のお手伝いまではとてもできないのです…。

コンサルタント:ネットワーク再構築作業は,貴社の方々でやってもらった方がよいでしょう。後の保守作業を考えると,新ネットワークの仕組みがわかっていないとマズイと思います。現在なさっている作業との優先順位や作業計画を上司の方と調整し,無理のないように進めますので,お願いできないでしょうか?

担当者:いえ,やはりできないと思います。これまでも,今回のようなケースは何度もありました。しかし,実際に作業が始まると予定どおりには行かず,私たち担当者だけがしわ寄せを食って,残業の連続になるのです。少なくとも,私はもうそんな目に会いたくありません。

 さあ,困りました。これだから,安請け合いはするものではありませんね。どのように担当者に納得してもらえばいいのでしょうか。

コンサルタントは“必要悪”である

 コンサルタントは,自分が作業をするのがいやだから担当者に作業を押し付けようと考えているわけではありません。しかし,担当者からすればコンサルタントは,「指示するだけでなにもせず,高い報酬を取り,偉そうにしている人」に見える場合も多いものです。

 このような窮地に立った状態で,コンサルタントがすべきことは,冷静にもう一度,話の交通整理をし,担当者の賛同を得ることです。その際のキーワードは,「コンサルタントは必要悪である」です。

 この文が意味するところは,コンサルタントは必要な場合がある,コンサルタントは担当者から見れば悪である,の二つです。まず,一つめの「コンサルタントは必要な時がある」という命題から見ていきましょう。

 この命題の根拠は,(1)コンサルタントは社長から要請されて仕事に来ている(=押し売りをしているのではない),(2)現在のネットワークは遅くて他部署の担当者からも苦情が出ている(=コンサルティング・ニーズの根源は社長ではなく担当者にある),(3)新ネットワーク構築のための技術的スキルと時間を持っているのはコンサルタントだけであり社内に適任者がいない,というところにあります。

 それでは二つめの「コンサルタントは担当者から見れば悪である」はどうでしょう。これは,(1)担当者にとってコンサルタントは自分の仕事を増やすだけの存在である(=仕事を与える人である),(2)コンサルタントはおいしい所だけ持っていく(=コンサルタントは仕事が終われば去っていく存在であり,ずっと会社にいるわけではない),というところから来ています。

 では,この二つの命題からどのような結論を導き出せるのでしょうか。それは,「コンサルタントは,サッと来て必要な仕事してもらったら,サッと帰ってもらうに限る」ということになります。そこでコンサルタントは担当者に,「私は必要悪なのだから,必要がなくなればタダの悪。サッサと消えます」と説明します。そして,「サッサと消えるためには,なるべく早い時点から担当者への引き継ぎが必要になる。そこで手を貸してほしい」と粘り強く訴えるのです。

社長を味方につけて進ちょく管理も行う

 もっとも,担当者はコンサルタントから「早く消えるために作業に協力してほしい」と言われても,簡単には首を縦に振ってくれないでしょう。担当者が協力をしぶっているポイントは,残業が増える点にあります。たぶん,担当者は,これまでしていたほかの作業も並行してやらされることを直感で感じとっているのでしょう。

 コンサルタントは,自分の直接の依頼者である会社のトップ,すなわち社長を味方につけることで,この場面を調整します。コンサルタントは,ネットワーク再構築作業中の進ちょく管理を担当し,担当者に過度な負荷をかけないことを明言するのです。具体的には,担当者の残業状態に常に目を光らせ,無理が出ている場合には再スケジュールをする,ほかの作業を一時中止するなどの措置を講ずるように社長に進言し,そのとおりにさせると,担当者に断言します。

 このときコンサルタントは担当者に,その旨を記した簡単な誓約書を書いて渡すようにするとよいでしょう。コンサルタントから見れば単なる紙切れですが,効果は抜群であり,担当者も協力を惜しまないものです。「ペンは剣よりも強し」は,ここでも威力を発揮する原則なのです。


 オートバイが好きだというと「なぜ?」と聞かれることがあります。それはコーナリング(カーブを曲がること)が気持ちいいからなんです。オートバイがコーナリングするには,体重をカーブの内側にかけ,体を倒さねばなりません。カーブを曲がる時に,遠心力がつきますので,体を倒して,釣り合いをとるのです。この釣り合いがとれ,さらに少し登り傾斜があるならば,体・オートバイ・風(気流)が一体となり,なんとも言えない爽快感を生み出してくれます。そう,自分が風になった気分なんです。「そんなこと言われても,オートバイに乗ったことがないんでわからない」ですって?うーん,言葉の限界を感じますね。やはり,こんなフィーリングを言葉で伝えるのは,無理かな。