心拍数低下やゆらぎで眠気を測定
脈拍から人の意識状態を調べる取り組みをしているのがパイオニアである。ハンドルに組み込んだ電極から脈拍を読み取るシステムを試作し,実験を行っている(図4[拡大表示])。
このシステムではハンドルの裏側に導電性の樹脂を塗布してある。ドライバがハンドルを握っているときに脈拍を測る。ただし,両手で握っていないと計測ができない。そこで「110秒間のうち,両手で合計55秒以上握っていれば取得できなかった部分のデータを補完するアルゴリズムを入れた」(パイオニア 技術開発本部モーバイルシステム開発センター第二開発室の安士光男主任研究員)という。
脈拍からは,ドライバのヒヤリとした瞬間や緊張,疲れ,眠気などの状態が推測できる。ヒヤリは瞬間的に心拍数が上がったとときで検知可能。緊張状態や疲れは心拍タイミングのゆらぎ度合いから推定する。人は緊張や疲労の状態にあるときは心拍タイミングが一定になる。逆にリラックス状態ではゆらぎが出る。
眠気は「眠りに向かう状態では心拍数が落ちる」という特徴を利用して検知する(図5[拡大表示])。人は起きているときに,眠りに向かう状態と覚醒に向かう状態を繰り返している。心拍数を時系列でプロットしていくと,ちょうど波打った形が観察できる。
パイオニアはこのグラフの変曲点を利用することで眠さを検知している。心拍数がピークのときと下降傾向にあるときの心拍数の差を調べ,これに係数をかけて「うとうと度」を出している。係数を調整し,うとうと度が「1」になった場合を眠い状態とする。
被験者を使って実験したところ,約70%のケースで心拍数の低下傾向が見られたときに「眠気が多少増えた」と答えた。
また,体がリラックスした状態のときに眠りに至る。先に述べたようにリラックスしているときは心拍タイミングのゆらぎ幅が大きくなる。これからも眠気を推定できる。
実験ではこのゆらぎの度合いが増えた場合,約65%の被験者が「眠気がかなり増えた」と申告した。「400秒以上長期にわたってゆらぎ度合いが増加傾向にあり,その増加率が1.7倍である場合に強い眠気が発生する」という傾向を調査で確認しており,これを使うことで居眠りする前の段階を予測できる可能性があるという。
パイオニアはこのシステムの応用方法として眠くなりそうなときに「眠気を吹き飛ばす音楽を再生するオーディオ・システム」や「休憩ポイントを表示するカー・ナビゲーション・システム」を考えている。