みなさん,こんにちは。コンサルタントの金子でございます。本号は,コンサルティングの基本中の基本である仮説重視の話です。仮説とは,「もし○○だったら,××になる」といった,プログラミングでもおなじみのif文,「もしも」を使った思考法のことです。仮説を重視せよというテーマは,コンサルティングの話になると,必ず登場する定番商品のようなものです。今回は,この定番商品の解説に挑んでみます。では,一緒に考えてみましょう。

A社の社長:今度,IP電話の事業を立ち上げてみようと企画しているんです。IP電話のシステムを開発したB社が,ビジネス・チャンスだから一口乗らないかって言うんです。どう思われます?

コンサルタント:今度は,IP電話ですか…。また,大きな話ですねぇ。NTTなどの通信会社やヤフーBBを競争相手に商売しようなんて,そんな無茶な…。

社長:いやー,そうでもないんですよ。インターネット常時接続環境,パソコン,USB接続の電話機,B社が開発したIP電話用ソフトウエアの四つがあれば,通話できるんです。当社と友人の会社の間で,通話試験をしてみたのですが,PHS並みの音声品質で,私も感心してしまいました。それで,これはいける!と思ったんです。

コンサルタント:なるほど。で,社長はこのIP電話事業でどうやってもうけるつもりですか?

社長:当社がB社のIP電話に関する販売代理店になり,顧客に営業し,機器の設置費用や電話料金の収入を得るつもりです。

コンサルタント:わかりました。もうかるのかどうかを検討してみる必要がありそうですね。

材料にないことを想定して仮説を考える

 皆さんは,上記のIP電話事業をやるべきだと思いますか? 「なんだか,面白そうだからやってみればいいんじゃない」とか「もうかりそうにないから,やっちゃダメ」とか,いろんな意見が出そうですね。

 しかし,直感で事業計画を決めてはいけません。ものごとは深く考えてから決断すべきです。そこでもう少し,判断のための材料を集めてみましょう。

(1)B社が開発したIP電話用ソフトウエアの使用料は,月額レンタル固定料金制になっており,500円/台・月である。通話するためには,最低2台は必要なので,1000円/月が最低価格になる。B社は,A社が顧客に販売する価格として700円/台・月を推奨しているが制約はない。販売価格はA社で自由に設定できる。

(2)B社が販売するUSB接続の電話機の価格は6800円/台。ただし,これについても顧客への販売価格は,販社であるA社が自由に決めてよい。

(3)パソコンは顧客がすでに持っているものを使用する。インターネット常時接続はADSL,FTTH,CATVなどなんでもよい。これも顧客がすでに持っているものを使う。したがってこれらは,採算の計算から除外する。

(4)通話の品質はB社が保証しているため,考慮外とする。

 さて,この程度の材料から,何を考えたらよいのでしょうか? 材料に書いていないことを想定し,「もし,○○だったら…」と仮説を組み立て,結論を類推するのが重要なポイントです。

仮説が持つ現実性を見極める

 コンサルタントは,法人を顧客とする仮説を考えました。A社の営業担当者は,すべて法人を相手に活動しているからです。もし個人を顧客にしようとすると,新規に営業担当者を雇い入れるか,営業をアウトソーシングしなければなりません。

 次に検討すべき問題は営業効率です。コンサルタントは,営業効率を確認するために,さらに材料を集めてみました。

(1)IP電話は,法人顧客にとっては内線電話の代替品に見える。法人顧客の得意先や仕入先との電話は,相手先が普通の電話であるため,IP電話化しづらいからだ。そこで,IP電話を格安の内線電話として販売する。

(2)現在A社がかかえている得意先企業がIP電話を導入してくれる確率は10%とする。得意先200社のすべてをまわったとして,200の10%である20社に販売できると予測する。また,1社当たりの導入台数は,平均100台と想定する。IP電話を始めた会社が1年間は解約しないと仮定すると,1年間の予想収益として200円×12カ月×20社×100台=480万円が見込める。

(3)IP電話に関する営業に要する時間は,担当者の移動時間を含めて1社あたり半日程度(4時間)とする。営業担当者の給与を月30万円,就業時間を月200時間と仮定すると,時給は30万÷200=1500円/時間。したがって1社あたりの営業に要するコストは1500円×4=6000円となる。全得意先200社に営業をすれば6000円×200社=120万円となる。

 (2)と(3)より,年間の予想利益は480万円−120万円=360万円となります。パンフレットなどの諸経費を差し引いても,利益が出そうです。B社の社長さんは,この仮説を信じて,IP電話事業に乗り出しました。

 このように,「仮説を立ててから行動を開始する。行動とは,仮説の検証である」とするのが,仮説重視の考え方です。考えることなしに運を天にまかせて行動するのではなく,「たぶんこうなるはず!」と想定してから行動するのが重要になります。仮説重視の考え方では行動は,まぐれ当たりを期待するものではなく,想定した仮説が本当にそうなのかを確認するためのものだと位置づけられます。

行動した結果に基づいて仮説を再設定する

 さて,IP電話事業を開始して半年がたったある日,A社の社長さんがうかない顔でやって来ました。

社長:IP電話の事業がうまく行かないんです。企業はIP電話にまったく魅力を感じていないようです。一体どうしたらいいんでしょうか?

コンサルタント:どんな状況なんですか? IP電話を導入した会社は何社ありますか?

社長:営業担当者に100社まわらせましたが,結果はゼロ。1社も導入してくれませんでした。

コンサルタント:うーん,厳しい結果ですね。以前の仮説では,営業担当者一人当たり,100社×10%=10社の受注があると予想していたのですが…。

社長:得意先企業の担当者に話を持ちかけても,1カ月あたり700円/台というコスト・メリットがわからないようです。「IP電話に変えても,コストは今と変わらないだろう」との認識が強いのです。というよりも,電話料金は自動引き落としされているので…。

コンサルタント:なるほど,工夫が必要ですね。(ちょっと考えて)電力料金のコスト削減コンサルタントの例が参考になるかもしれません。彼らは,クライアント企業の電力使用状況を調査し,割引がある深夜電力を使用する,消費電力が大きい白熱灯を蛍光灯に変更する,などの施策を立案します。そして,その結果として得られる電力料金の節減額の半分を報酬として請求します。例えば,年間1000万円の電力料金を600万円にできれば,削減額である400万円の半額,すなわち200万円をクライアント企業から受け取ります。クライアントはコンサルタントに200万円支払っても,まだ200万円の削減効果があるので納得するというわけです。

社長:利益を山分けするわけですね。これをうちの事業に取り入れるとすると,IP電話を導入すれば顧客はノーリスクで電話料金を半額にできると売り込むわけか…。

コンサルタント:そうです。USB接続の電話機もIP電話用ソフトウエアの使用料である月700円/台もまったく無料にします。その代わり,これまで毎月支払っていた電話料金の半分をくださいと訴えてみるのです。ある程度の規模の企業であれば内線電話に月100万円程度かけているのはザラですから,10社受注して半分をもらえれば,100万円×10社×0.5=500万円/月となり,魅力的な金額になります。もっとも,営業担当者の給与,USB接続電話機の代金(6800円),ソフトウエア使用料(月500円/台)は,御社が負担しなければならないので,もうけはもう少し減ってしまいますが…。

社長:わかりました。各営業担当者と再度,この線で話し合ってみます。

再設定した仮説を実行する

 はてさて,コンサルタントが考えた奇策が,功を奏するかどうかはわかりませんが,新たな仮説を作り出しましたね。「顧客は,ノーリスクで電話料金が半額になるという誘いに応じる」という仮説です。これが正しいかどうかは,やってみなければわかりません。

 設定した仮説を実行して検証する。実行した結果,仮説どおりに行かない場合には,再度,仮説を見直す。そして実行する。望んだ結果が得られるまで,何度も繰り返す。この仮説思考のよい点は,実行結果が失敗に終わっても,ガッカリしなくなる点です。仮説どおりに物事が運ばす,結果が芳しくない場合でも,何かを失ったと感じるのではなく,仮説の間違いが発見され,生きた情報が得られたと積極的になれる点なのです。

 1度や2度の失敗で,悩んでいるようでは勝てません。失敗に懲りず,仮説を何度も立て直し,行動しつづける挑戦者にのみ,栄光の女神はほほ笑むのです。コンサルタントの使命は,挑戦者(=依頼人)と一緒に悩み,勇気づけ,あくなき行動を続けさせることにあるのです。


 オートバイの季節になってきました。オートバイって,春と秋しか乗れないんです。だって,夏は暑くて,冬は寒くて。夏の晴れた日に,涼しそうに乗っているライダーがいたら,それはがまんしてるんですねー。本当は。特に,フルフェイスのヘルメットが暑い。まるで蒸し風呂のようです。ヘルメットを取ると,ジャーと汗が流れ出る感じ。でも,日本ではヘルメット着用が義務付けられているのでしょうがない(アメリカには着用義務はありません)。もし,顔だけ部分的に痩せたい人がいたら,夏のオートバイに挑戦してみてください。でも,本当に痩せるかは,神のみぞ知る世界ですが。ひょっとして,頭が痩せたりなんかして。