米MicrosoftのJim Allchin氏。肩書きは「Co-President, Platforms Products & Services Division」である
米MicrosoftのJim Allchin氏。肩書きは「Co-President, Platforms Products & Services Division」である
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 米MicrosoftでWindowsの開発を統括するPlatform Products & Services Division担当Co-PresidentであるJim Allchin氏のインタビューの後編(前編はこちら)。本インタビューは2006年1月25日に,米国「Windows IT Pro Magazine」のPaul Thurrott氏によって行われた。今回は,Windows Vistaのユーザー・インターフェースやモバイル・パソコン向け機能,Longhorn Serverの新機能に関するAllchin氏の発言を紹介する。

「グラフィックスの強化は,すべてのユーザーに恩恵をもたらす」

 Windows Vistaのユーザー・インターフェース(UI)は,プレゼンテーション・サブシステムである「Windows Presentation Foundation」(開発コード名:Avalon)と,透過機能やその場でアニメーションを表示する機能を備えた美しいUI「Aero」の組み合わせであり,Windows Vistaのもう1つの注目点になりそうだ。Microsoftがパソコンのグラフィックス・ハードウエアに本当の意味での負荷をかけるのは,これが初めてだ。優れた3次元ビデオ・カードを備えるシステムなら,Windows Vistaの見栄えや応答性能は高まるだろう。

 「グラフィックスの強化は,すべてのユーザーに恩恵をもたらす。一般的に,Windows Vistaの使いやすさが増し,情報の見つけやすさが格段に向上する。強力なエンターテインメント対応機能を備え,『Windows Collaboration』などの企業での利用に適した機能もある。こうした機能は,とりわけ,ユーザーが何を探しているのかを見つける助けになる。これこそ重要なのだ」(Allchin氏)。

標準でタッチパネルに対応,「指」で操作できる

 Windows XPは優れたモバイルOSだが,MicrosoftはWindows Vistaでさらにモバイル対応を進める。まず,モバイル機能を集中管理する「Mobility Center」を設ける。これは,パソコン・メーカーがノート・パソコンに「おまけ」として付ける出来の悪いサード・パーティ製アプリケーションを一掃するだろう。「現在,多様なサード・パーティ製アプリケーションを扱うことが,ユーザーに大きな混乱をもたらしている」(Allchin氏)。

 Allchin氏は「SideShow」(旧名称は「Auxiliary Displays」)についても強調した。この小さなカラー画面をきょう体の外側に備えるノート・パソコンやタブレットPCがまもなく登場し,アドレス帳,スケジュール,電子メールなどの情報を一目で確認できるようになる。しかし,著者がAllchin氏から聞いた最も大きなニュース——しかも本当に最も驚いたこと——は,タブレットPCの機能をWindows Vistaに標準で組み込み,初めて(アクティブ・タイプのデジタイザではなく)タッチ・スクリーンにまで対応するという情報だ。つまり,Windowsを指(または何らかのハードウエア)で操作できるようになるのだ。

 「電磁方式に加え,指で操作できる機能を搭載する。そのためには,数多くの斬新な技術を取り入れた。ご存じのように我々の指は(スタイラスに比べ)相当太いため,(指で小さな点を)選択できる新しい技術を編み出した。さらに,左右のマウス・ボタンを簡単に操作する方法を徹底的に考える必要があり,これも指で処理する新しい手法にたどり着いた。実際に見れば強烈な印象を受けると思う。指で操作する機能は,タブレットPCだけでなく,タッチ・スクリーン付き画面を備えていればどのパソコンでも使える。エンターテインメント向けの用途や,家庭ユーザーにも便利な機能になるだろう」(Allchin氏)。

「Harvesting」で文字認識能力が大幅向上

 「これまであまり詳しく話したことはないが非常に優れていると感じるもう1つの技術は,Harvesting(収穫)の概念だ。Windows Vista内のあらゆる要素にインデックスを付けられるので,専門用語や各種単語の文例(コーパス)を使い,ユーザーが通常使う言葉のあいまいさを取り除くことができる。たとえば医療関係のユーザーなら,我々とは違う独特な用語の使い方をする可能性がある。しかしWindows Vistaの手書き文字認識システムは,一般向け辞書には載っていないような,その用語がよく使われるユーザーの文脈を学習してくれる。これと同じ技術は音声認識システムにも組み込まれており,音声入力のテキスト化の精度が大幅に向上する」(Allchin氏)。

 パソコン間の同期機能も,Windows Vistaの大きなメリットの1つだ。「MicrosoftはWindows XPに初歩的な同期機能すら搭載していない」と考える人は,特に大きな恩恵を得る。Allchin氏がプレゼンテーションに使ったパソコンでは,1月20日にビルドされ,(2005年12月版CTPに搭載されなかった)同期技術の入ったWindows Vistaビルド5300が動いていた。彼は出かける前にプレゼンテーション用ノート・パソコンと作業用パソコンを同期するので,文書,画像,音楽などすべてを出先で利用できるという。「会議から戻ってきたらすべてを同期して戻す」(Allchin氏)。Windows Vistaの同期システムは双方向なので,サーバーとのあいだでも,ノート・パソコンとのあいだと同じように同期が行える。

 「全体としてみれば,モバイル環境向けの機能を相当たくさん搭載できたと思う。現在のWindows XPには非常に多くの問題が存在する。典型的な例を考えてみよう。職場のドメインに参加しているノート・パソコンがあり,これを自宅に持ち帰って文書を印刷しようとしても,ノート・パソコンからプリンタは見つけられない。スターバックスで使う場合は,オープンなネットワークなので普段と違うセキュリティ設定を施したい。ローミングの操作性についても,いろいろな改善を実施した。クライアントとサーバー間の同期についてもそうだ。これまでのCSC同期に比べ,はるかに改善している。サーバーにすべての文書を置いたまま,キャッシュ版のコピーをクライアント上で利用できる。変更を施した場合には,必要に応じて同期するだけで済む」(Allchin氏)。

「あらゆる要素がIPv6を使っている」

 インターネット機能は,Allchin氏がスポットライトをあてた最後の大きなWindows Vistaの主要分野だ。「IPv6対応スタックを標準搭載し,Windows Vista内のあらゆる要素がIPv6を使っている。これはとても印象的だ。もちろんIPv4も動いている。Windows VistaはIPv6を一般に普及させることができるOSとなる。というのも,Longhorn ServerもIPv6に標準対応するからだ。一晩でIPv6に移行できるなどという幻想は抱いていないが,ユーザーはWindows VistaによってIPv6への準備が可能になり,移行したいときにいつでも移行できる環境を用意できるようになる」(Allchin氏)。

 Windows VistaのRSSプラットフォームも大きなポイントだ。標準では,IE 7,サイドバー機能「Windows Sidebar」,「Outlook 12」と連携して,OS自体がRSSのデータをローカルに保存する。保存したデータは,サード・パーティ製アプリケーションからもアクセスできる。「RSSをローカルに保存することが必要なのだ。こうすることで,別々のRSSフィードを集め,標準形式に整え,あらゆるアプリケーションからアクセス可能にできた。『Office 12』はこのRSSを利用する。多くのサード・パーティ製アプリケーションにも,同じように活用してもらいたい」(Allchin氏)。

 Microsoftは初めてWindowsにPtoP技術を搭載する。Windows VistaのWindows Collaborationクライアントで利用し,ほかのアプリケーションにも公開する。

 「もちろん,IE 7も2つの理由から大きな要素といえる。1つ目はセキュリティ機能を強化したこと。2つ目はUIを大幅に改善したことだ」(Allchin氏)。

Vistaがビジネス・チャンスを拡大する

 これまでリリースしたWindowsと同様,MicrosoftはWindows Vistaを強化/改善して,市場で成功させるために,巨大なWindowsエコシステムに大きく依存させている。Windows Vistaには,Windows互換製品の推進に役立つ機能が従来のWindowsよりも数多く含まれているので,関係者すべてのメリットになるはずだ。

 「我々はもうずいぶんと前から,Windows Vistaには新しいハードウエアが必要になるということをユーザーに伝えている。こういった新しいハードウエアを製造するメーカーにとっては,Windows Vistaが新しいビジネス・チャンスを生み出すことになるだろう。ノート・パソコンに関してはSideShowやタッチ・スクリーンなどを,グラフィックス・ハードウエア関連では,高精細映像が将来普及するという考えから高精細ワイド画面を,我々はユーザーに推奨している。エルゴノミクス(人間工学)の面でも前進を試みており,正式リリースが近付けばもっと多くの成果を紹介できる」(Allchin氏)。

 「Windows Vistaが完成した時点では,アプリケーション・プログラミング・モデル『WinFX』上で動く素晴らしいアプリケーションが存在することだろう。また多くのアプリケーション開発者が,PtoPインタフェースや非常に出来がよいと思っているAPIセット『People Near Me』を,他のたくさんの優れた開発者向けプラグとともに活用してくれることを願っている」(Allchin氏)。

Longhorn Serverのスケジュールに変更無し

 「Longhorn Serverについて,これまであまり情報を提供してこなかった。作業は予定通り進んでおり,スケジュールに変更はない」(Allchin氏)。同氏によると,Longhorn Serverのベータ2は2006年第2四半期に,ベータ3は2006年後半にリリースする計画だ。Microsoftは,製品版Longhorn Serverの出荷時期を2007年前半のまま変えていない。

 「Longhorn Serverは,Windows Vista以降の節目になる。開発は確実に進んでおり,今までにはんかったような大きな節目になるだろう。年内に重要性の極めて高いCTPを出すなど,この先さらに多くのCTPをリリースしていく」(Allchin氏)

 Allchin氏は,Windows VistaとLonghorn Serverとの連携についても触れた。「Windows VistaはLonghorn Serverがない環境でも十分機能するし,Longhorn Serverを使うにあたってWindows Vistaは必要ない。ただし両者を連携させると,ほかの環境では実現できない独特の優れた機能が利用可能となる。そうした機能の例としては,検疫ネットワーク機能のNAPがある。また,Longhorn ServerはIPv6に必要な機能をすべて備えているので,IPv6をIPv6のまま利用できる。このこともWindows Vistaとの連携で得られるメリットだ。インデックス機能の遠隔呼び出しなども実行できる(これにより,ネットワーク共有内の検索をデスクトップ環境と同じように素早く行える)」(Allchin氏)。

 Microsoftが現在開発を進めている製品のなかに,Windows Vistaを必要とするものは1つもない。しかしAllchin氏は「そうした製品のいずれもが,Windows Vistaと組み合わせて使えばよりよい結果を得られる」と述べる。同氏は特にOffice 12,「Xbox 360」,Longhorn Server,「Windows Mobile」,「Systems Management Server 2003」,「Windows Live」,「Visual Studio」を取り上げ,「こうしたアプリケーション,サーバー,サービスをWindows Vistaとともに使うことで,機能が高まる」とした。

Windows Vistaを使う理由とは?

 なぜAllchin氏は,Windows Vistaが重要なOSになると考えているのだろうか?「全体に広がるセキュリティと安全性が,特に大きなメッセージだ。可視化と組織化がそれに続く。3番目には,運用コストと,OSイメージ配布時のオフライン作業を管理する方法,新しいイベント・システムや遠隔アクセス・ツール,OSに組み込まれた新たな診断ツール,モバイル機能などがある。極めて簡素化されるということだ」(Allchin氏)。

 「家庭ユーザーと企業ユーザーの両方からみて,とても気の利いた機能が組み込まれている。なかには,こうした機能のうち,写真管理機能を気に入るユーザーもいるだろう。しかし私にとっては,長期にわたってただ機能を組み合わせるだけの作業ではない。Windows XPのときは,回復力と信頼性を高めることに努力した。Windows Vistaについては,セキュリティと安全性で同じことができればと思う。ライバルはいないと述べたが,セキュリティが破られないということではない。私はそのような世間知らずではない。IT業界は,セキュリティという長期戦の最前線に立っている。Windows Vistaは我々の次の一歩でしかない。大きな一歩ではあるが,次の一歩でしかない」(Allchin氏)。

 今後についてみてみると,今のところ2月リリース予定の次のCTPに対する関心が高い。「新しいイメージ・ベースの配布ツールも含め,当社が最終版への搭載を予定している機能の事実上すべてを入れるつもりだ。処理性能の高速化に着手するためのビルドとなる。現在のインストール作業はとても負荷が高いが,まだ改善作業には取りかかれていない。Windows XPからのアップグレード機能は(2006年2月版CTPに)搭載するが,恐らく未完成となるだろう。Explorerウィンドウの処理方法にもいくつか手を入れる」(Allchin氏)。同氏はビルド5300で暫定的な変更を見せてくれたが,これらは既に1月半ばのビルドで変わったとした。

フォルダ・ベースの情報管理アプローチには変化なし

 MicrosoftがWindows Vistaのシェルに対して加えてきた変更について,Allchin氏に尋ねた。当初Windows VistaにはWinFSストレージ・エンジンの搭載が予定されていたことを覚えているだろうか。Microsoftは搭載を見送ったが,「マイドキュメント」や「マイピクチャ」といったWindows XPタイプの特殊なシェル・フォルダを仮想フォルダに置き換える計画は捨てていない。現在は規模を再度縮小し,特殊なシェル・フォルダを復活させ,大して役には立たないが仮想フォルダもWindows Vistaに組み込む。

 「仮想フォルダによる可視化への移行については,不満のフィードバックを多く受け取った。そこで,これについては2005年12月版CTPから変更した。その結果,現在は特殊なフォルダも使えるし,検索も行える。これまでも検索は行えたが,検索対象のフォルダ内で作業する必要があった」(Allchin氏)。

 「基本的に,ユーザーはフォルダに慣れている。そのため,劇的な変更の多くが理解されなかったのだ。仮想フォルダも入れるので,検索が実行できる。ただし単にフォルダを表示したければ,フォルダは今まで通り存在する。次のCTPでも,仮想フォルダの保存処理に関してはバグが入り込むだろう。しかし仮想フォルダは捨てない」(Allchin氏)。

 Windows Vistaの完成とAllchin氏の退職が数カ月後に迫っている。これについては後日改めて記事にしよう。しかしAllchin氏は,Bill Gates氏がどう主張しようとも,何らかの形でWindowsとつながっている。同氏の退職が残念なことと受け取られればよいと筆者は思っている。