現在,IT業界においてERP市場は非常に注目されている。そのERP市場でも特に活発な動きを見せているのが,SMB(中堅・中小企業)向けERP市場だ。マイクロソフトが2006年よリSMB向けのERP市場参入を表明したこと からも,今後,活性化していくことは明らかだ。

 この連載では,ノークリサーチが2005年9月~11月にかけて実施したベンダー調査に基づいて,注目を集めているSMB向けERP市場の実態を解説していく(調査の概要はこちらをクリックして ご覧ください)。

 第1回目となる今回は,ERP市場全体とSMB向けERP市場の高い成長性の実態を取り上げる。


平均を超えて成長するSMB向け市場


 まずERP市場全体の規模を見てみよう。2004年度のERP市場規模は対前年比113.8%の985億円だった。それが2005年度には1000億円を超えて,対前年比109.5%の1078億円に達する見込みだ。2007年度以降も年率7%の伸びが続き,2010年度には1487億円に達すると予測される(図1)。

図1●ERPパッケージのライセンス売上高推移
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 ERP市場の中でも,特にSMB向けERP市場は全体平均を超えた成長が続く。2003年は499億円,2004年度は601億円だったSMB向けERP市場の規模は,2005年には676億円に達する見込みだ(図2)。結果として,SMB向けERP市場がERP市場全体に占める割合も増加していく。

図2●ERPパッケージのライセンス売上高推移の詳細
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 SMB向けERP市場の成長要因には,次の3つが挙げられる。1つは「依然として残るオフコンと2000年前後に導入されたシステムのリプレース」,2つ目は「ERPベンダー数の増加によるベンダー間競争の激化」,そして3つ目が「景気の回復によるIT投資の増加」である。

 この3つの要因について,以下それぞれ解説していこう。


1.2000年問題で導入されたシステムのリプレース市場


 1つ目の要因として挙げられるのはオフコン,PCサーバーのリプレースだ。2004年度も2003年度に引き続いて,オフコンのリプレースを積極的に推進するベンダーが多かった。理由の1つは2000年当時,いわゆる2000年問題が大きく取り沙汰されたため,多くのユーザーがシステムを入れ替えたことだ。システムのリプレースは一般に5年周期と言われており,2000年前後にシステムの入れ替えをしたユーザーの多くが2004年前後にリプレース時期を迎えることになった。


2.中堅・中小ERP市場へ注力するベンダーが増加した


 2004年度は,SAPやオラクルなどの大手外資系ベンダーに加えて,インフォベックなどの国産のERPベンダーもSMB向けの市場に参入した。競争が激化し,自社ERPパッケージのブランド力を高めるために,各ベンダーはユーザーへのアピール活動に力を注ぐようになった。ERP関連のセミナーやイベントが増加し,ユーザーが"ERP"という言葉に触れる機会が増えた。この結果,ユーザーのERPに対するリテラシが上昇し,導入を検討する際に各パッケージを比較検討できるようになった。ERPパッケージの価格も,競争の激化とともに下がり,ユーザーがERPを導入するための環境が整ってきた。


3.回復傾向にある景気


 SMBのIT投資額は,景気に左右される部分が大きく,最近の景気回復基調はSMBの投資意欲を刺激している。2005年度以降の景気が堅調に推移すれば,引き続きITへの投資,特にレガシー・システムからの移行需要を中心にERP市場が拡大していくことは間違いない。各ベンダーは自社ERPパッケージのシェアを確保するため,セミナーを核としたユーザーへの啓蒙活動に力を入れるなどの販売戦略を打ち出していくだろう。

 次回はSMB向けERP市場のトップベンダーが,どうやってトップベンダーの地位を確保しているのかを解説する。具体的には,市場で躍進を続ける富士通,大塚商会などを例にあげてトップベンダーの戦略を紹介していく。

■河田 裕司 (かわだ ゆうじ)

【略歴】
ノークリサーチ
2002年明治大学在学中よりノークリサーチへスタッフとして入社し、2004年からアナリストとして活動。ERPなどのエンタープライズ系パッケージ・ソリューションを専門としている。

【関連URL】
ノークリサーチのWebサイト http://www.norkresearch.co.jp/